九話 この椿の花が落ちるとき
「例えばこんなのはどうだろう?」
2人は捕まり、より強くきつく縛られている。
「この椿の花が落ちたら、蓑虫を殺すというのは」
織本が手に持つ椿は造花であった。それを見て本宮は頷く。これで彼は無事だろうと、これでまた生きていけるだろうと、そう思った。
「そうか!君は自分の意思で、彼を殺すことを承認したのだね?そうだね?間違いないね?」
不服ではあった。しかし頷く。造花だと気づいていないのだろうか?彼女の胸に疑問が宿る。
「あっはは!ようやく、ようやく僕のモノに、織本忠のモノになるのだね?」
彼女はそれには反応しなかった。
「なぁんだ。無反応か。恥ずかしいのかな?まあいいやっ!それよりもっ!聞いたかい?蓑虫君っ!君の愛しい者は、お前を見捨てることを決めたぞ?自らの意志で決めたぞ?あっはは!どんな気分だい?最愛の人に裏切られるってのはよぉ」
芝田はうめく。口を塞がれて話せないのだ。
「聞いてんだよぉ?え?あっはは!ははははははは!!」
何度も腹を蹴った。彼は気を失いかける。
「おっといけない。しっかりしろよ?君の最後なのだ。目は冴えていなくては」
そう言って、懐からハサミを取り出した。
「それで何をするっていうの?椿は落ちてないわ!やめて!」
織本が薄ら笑いを浮かべる。この時、彼女はついさっき頷いたことを後悔した。
「ははっ!確かにね!じゃあ、これならどうだい?」
チョキン。
ポトリ、椿の偽物の花が落ちた。
「ほら、落ちたよ」
「いや…いやっ!やめて!お願い…助けてあげて!無かったことにして!お願い、お願いよ!」
「ダメだ。許されない。これは君が選んだことなんだ。君が決定したことなんだ。今更そんなことは通らない。通るはずがない。恨むなら自分を恨め、己を憎め。君にはこれより重大な使命が待っているのだ」
そして芝田に向き直る。彼はもがいている。必死の抵抗を行っている。しかし、それも虚しく。
ドスッ…
ただ一突き。腹にハサミを突き立てた。血が湧き水のように流れ出す。芝田はそれを呆然と眺めていた。次第に血の気が引いていく。
「一さん!嫌よ、2人で逃げ出そうって決めたじゃない!いやっ!死なないで!死なないでよ!ダメだよ死んじゃ!結婚しようって言ったじゃないの…いやよ…こんなの…」
織本が笑う。
「蓑虫?どんな気分だ?あっはははは」
そう言って芝田の猿ぐつわを外した。
「すまないなぁ咲…俺はどうやらダメみたいだ」
芝田が最後の力を振り絞る。
「なぁ、織本忠…恨むぞ…俺はお前を恨むぞ…よくも…よくも俺たちの幸せを奪ってくれたな…恨むぞ…恨んで恨んで…最後までお前を呪って死んでやる…よくもやってくれたな…許さんぞ!絶対に許さんぞ!!そしてだ!そして!お前にこの命はくれてやらん!俺の魂はくれてやらん!お前にだけは!」
そう言って芝田は、自分の舌を噛み切った。そして血を吐き血を吐き叫んだ。精一杯叫んだ。叫んだら死んでしまった。彼から流れ出る血で、床が真っ赤に染まっていった。本宮はただ泣き、ただ叫んでいた。その中で織本だけがさも面白い事のように笑う。阿鼻叫喚。まさに地獄のようだった。




