十八話 呪いの夢。愚か者の末路
「あなた、起きて。朝よ」
目を覚ますと、目の前に咲がいた。
「咲!咲!おはよう!気分はどうだい?」
「えぇ、最高に気分がいいわ」
と、咲がにっこりと笑った。
「あっはは!!咲!僕らは永遠にこれからも一緒だ!愛してる。愛してるよ!咲!」
「私もよ、一さん。いや、今はもう忠さんね。愛しているわ。ずっと。えぇ、ホントよ」
花のような笑顔。美しく美しい笑顔。
ふと、これはもう見ることができないのだと悟った。
芝田一は目を覚ました。知らない部屋の中にいる。
「なんだここは?咲はどこへ?」
立ち上がる。しかしできない。腹があまりにも重く、起き上がることができなくなっている。その腹を見て、彼は全て思い出した。
「咲?そうだ!咲だ!!これが咲だ。これが。だが咲は今笑って…全て、全て夢か。もう咲は笑うこともできないのか…もう咲は、僕に話しかけてくることもないのか…いやだ!そんなのいやだ!あんまりだ!どうにか!なんとかしないと!咲!ああ、なんてことを!咲ぃ…」
彼は今、全てが、夢であってくれと願った。しかし現実は甘くない。何もかも一切がもう遅い。自分のしたことが全て返ってきた。報いを受けたのだ。本宮咲の愛らしい夢。彼の妄想で埋まった本宮咲の甘い夢。それは織本忠が死ぬ間際に残した報復。それは呪いである。芝田一は気づかされたのだ。全てが、妄想であったと。
「あぁ、咲ぃ!まだそこに居るんだろう?まだ僕の中に生きているんだろう?ねぇ、そうだろう?今、助けてあげるからね。ちょっと待っていてくれ」
芝田一は、自分の肥大化した腹に爪をたてて、無理やり引き裂こうとしている。血が滲んで、厚い皮が裂けていく。
ーそんなことをしても無駄だ。もうそこに咲はいないー
芝田一が顔をあげると、そこには織本忠がいた。
「うるさい!!うるさい!!うるさい!!咲はいるんだ!!この嘘吐きめ!!黙っていろ!」
そう、織本忠の幻影に向かって叫んだ。
「うるさいぞ、静かにしろ」
看守の男が言った。ここは留置場である。男は今朝発売のファッション誌を熟読している。中で何が起きているかを知らない。
ーうるさいもんか。これが報いだ。お前のやってきたこと全てのー
「黙れ!黙れ黙れ黙れ!!」
ー黙るかよ。せいぜい苦しめよ。苦しんで苦しんで、苦しみ抜いて死ねー
「お前ぇ!僕はなぁ!咲を愛しているんだ!咲も僕を愛している!お前なんかに邪魔されてたまるか!」
ー前にそんなこと言われたな。お前によ。そっくりそのまま返してやるよ『君のいけないところはその決めつけだね。一体どうして、君に咲の想いがわかると言うんだい?』だっけか?ー
「黙れぇ!うるせぇぞ!お前にぃ!お前なんかにぃ!僕たちの愛の何がわかるってんだよぉ!」
ーわかるもんか。わかってたまるか。わかりたくもないね。そんなもん。そんな押し付けがましい愛なんざよ。お前が愛しているのは、咲を愛している自分自身。そんなもの、理解する価値も無いねー
「なんだと!ふざけるな!そんなわけないだろ!咲は必ず!必ず愛してると言ってくれる!」
ーならば、その腹をさっさと引き裂くがいい。引き裂いて、確かめてみればいい。それで全てがはっきりするー
芝田一はより一層手に力を込める。腹から血が吹き出した。痛みに狂いそうになる自分を抑え込みながら、彼は自らの胃袋を切った。そこから出てきたのは、咲だったもの。ただの肉片。もはや人間ではない。
「なんだよこれ!なんだよ!これじゃあどれが咲かわからないじゃないか!!」
それが彼の最期の言葉だった。自分の妄想に振り回され、自分の作った幻影に怯え、自分の撒いた呪いに殺された。血だまりと肉片の海に沈む、どうしようもない愚か者の、壮絶な最期であった。
これにて終了です。ここまで読んでくださった皆様。本当にありがとうございました。できれば評価、感想などをお聞かせください。作者が泣いて喜びます。
途中規制入るんじゃないかと思って、かなり抑えて書きたかったこと書けてないのが残念です。実はもっと生々しく書きたかった。




