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十七話 一方通行の愛

 山浦はもう一度問う。

「お前は誰なんだ?名前を言え」

「僕は織本忠さ」

「嘘を吐くな!」

「嘘じゃないよ。僕は織本忠で、海に棄てたのは芝田一だ」

「おい、身分証は確かに織本忠のものなんだな?」

山浦は振り返り、その刑事に問う。刑事は間違いないと頷いた。

「ならお前が芝田一の遺体に自分の身分証を入れたのか?」

「なんで僕がそんなことしなくちゃいけないんだい?そんなの始めっから入ってたに決まっているだろ?」

彼は何がなんだかわからなくなってしまった。

「何言ってやがんだ。全くわかんねぇ」

と、ため息をついた。男が口を開く。

「僕はね、あの男に僕の名前をあげたんだ」

「あ?なんだって?」

「だからさ、僕はあいつと名前を交換したんだよ」

「誰と?」

「芝田一と」

「そこにいるのは、交換する前の名前だったら、どっちなんだ?」

「織本忠」

「お前は芝田一か?」

「織本忠だ」

面倒くさい。彼は思った。

「交換する前は、芝田一だったんだな?」

「そうだよ」

「なぜ交換したんだ?」

「咲が芝田一を愛してくれなかったからさ」

「お前らはつき合っていたんだろう?」

「そうだよ。みんなにはそう言ってる」

「どういうことだ?分かるように言ってくれ」

芝田一は少し顔を歪めて、何かを思い出すように話し出した。

「高校の頃、みんなの憧れだった本宮咲に、あの織本忠は猛アピールしてた。咲は相手にしてなかったように見えたけど、あれ、両思いだったんだよね。二人は付き合うことになったんだ。僕が先に告白したのにさ、ひどいよね。二人はそれを秘密にしていたんだ。最後まで誰にもバレなかった。でも僕は見ていたから知ってた。確かに咲はうんと言っていたよ。僕はそれを利用した。みんなに僕と咲がつきあっていると言いふらした。確認なんか誰もしないよ。だって彼女は高嶺の花さ。でもそれは本当ではなかった。彼女は僕に振り向いてくれなかった。僕に待っていてくれって言ったのにさ。『ごめんなさい。今は勉強に集中したいの』今でもその言葉は鮮明に思い出せるよ。『今は』なんだから後で付き合おうってことだろ?でも咲は織本忠のもとへ行ってしまった。でも約束したんだ。だからずっと咲を見てた。いつも僕の視界には咲がいたんだ。それは卒業してからも一緒だ。でもさ、咲はいつも織本忠と一緒だった。会社から帰ったらすぐに織本忠と会ってたんだ。許せなかった。良くも僕の前であんな幸せそうな顔ができるなって思ってた。いつの間にか、織本忠がこの家を建てていた。おかしいと思ってたんだよ。咲がいつもと違う道を通って行くからね。そしてここで二人は会っていた。壁に耳を付けて、何を話しているか聞いた。『ここで二人で一緒に暮らそう。結婚しよう』ってね。もう我慢出来なかったよ。次の日咲を捕まえた。君は僕のモノだって、言って聞かせた。でも嫌だってさ。芝田一じゃダメなんだって。だからこの家に来て、織本忠を殺した。織本忠に僕の名前と交換してさ。僕が織本忠になった。それでも咲は嫌だって言ったんだ。『忠さんを返して』だってさ。おかしな話だよね。僕が織本忠なのにさ。それを言ったら今度は『じゃあ一さんを返して』だよ。返せる訳ないよね。死んじゃったんだからさ。ええと、なんで死んだんだったかな?あぁ、そうだ、自殺したんだよ。きっと何かに悩んでいたんだろうね」

「お前…」

芝田一はさも楽しそうにニコニコ笑っていた。

「それでも咲は僕のモノにはならなかった。咲には僕しかいないのに。いないはずなのに。いつまでたっても振り向いてくれなかった。僕はひとりぼっちだった。でもね、気づいたんだ。こうすれば咲とずっと一緒だって!」

芝田は肥大化した腹を見せびらかすように強調した。

「もういい、分かった。もうやめろ」

「あっはは!!これが僕の愛情さ!やっと咲は僕のモノになった!ついさっき、一つになった!」

山浦は芝田を殴り飛ばした。彼は泡を吹いて倒れている。

「署まで連行しろ」

「はっ!」

彼らは、芝田一に手錠をかけ、パトカーに乗せて走り去った。

「あの男。一体なんだったんでしょうか」

新人が聞いた。

「間違いねぇ。あいつぁ化け物だ。ああ胸糞悪いぜ」

パトカーの後ろ姿を見送りながら、山浦は言った。

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