ねえ、要らないって言うなら譲ってよ? あたしに、譲ってよ。
ねえ、おねえさん。男に振られたから死にたいってホント?
ふぅん、たくさん尽くしたのに捨てられたの? 彼にとって、自分は家政婦以下の存在だった? 家政婦以下の分際のクセに付きまとうな?
そう言われて振られたんだ?
お金も貢いだの? 家賃払ってあげたり、高い時計やアクセサリー、香水なんかも買ってあげたんだ? なのに、家政婦扱いは酷いでしょ、って?
一生懸命働いたのに、ゴミを見るみたいな目を向けられた?
うっわ、かわいそー。
ああ、だからこんなところでヤケ酒してるんだ?
夜の公園って、結構危ないのに……
え? そんなの、もうどうでもいい? 死にたい?
……そう。そっか……
あのね、あたし彼氏とかいないけど推しがいるの。
彼、すっごく素敵なの! それで、彼を見るとね、世界が輝いて見えるの。暗くて、灰色で、どろどろしてつまらないあたしでいることを忘れられるの!
あたしん家、お父さんもお母さんも仲悪くて……家の中、いっつも無言で息苦しいの。だけどね、彼の声を聞くだけで、そんな家の中でも耐えられるの!
あのね、最初はね、怪しいと思ったの。ホントよ? 友達が、地下アイドルにカッコイイ人がいるから動画見てみなよって、あたしにURL送って来てね?
ホント、別に興味も無くて。友達の手前、見とくかー的な? ダルって思いながら動画開いたの。そしたら……なんか、配信ですっごく女の人達の悩み相談に答えてて……
あ、すごいなぁ……って思って。それから、ちょくちょく彼の配信を見るようになったの。あたしに彼を紹介してくれた友達にはすっごく感謝してるんだー。
それでね、あたしも彼に悩みとか聞いてもらいたいと思ったけど……でも、それって他の人も見るじゃない? リア友も彼の配信見てるのに、そんなことできないでしょ?
それで、なんか悶々としてたんだけど……実はね、彼が地下アイドル活動してるスタジオが案外近くて。ちょっとがんばれば電車で行ける距離だったの。
お小遣いでチケットを買って、おしゃれして、彼のライブを見に行ったの! 彼、すっごくキラキラしててかっこよかったぁ♪まあ? 正直言うと歌やダンスはビミョーだったけど。でもそれって、彼のせいじゃなくて曲作った人と振り付け考えた人のせいでしょ? 彼を輝かせられない演出家が才能無いんじゃない?
彼の所属するグループ、メジャーデビュー目指してがんばってるんだって。
あのね、動画とかでカッコよくても実物がビミョーな人はたくさんいるんだって。なのに、動画も加工無しで実物もホントにカッコいい人って、すっごくすっごく稀少なんだって!
彼を好きになって、ホントによかった! って、思ったの。でも、それだけじゃなくって……
あの、ね……グッズをね、買ったの。彼がね、直接売り子をしててね? それでね? ……っ!? あ、あたしに「ありがとう、君みたいに可愛い子が俺のファンになってくれるなんて嬉しいよ」って。そう言ってねウインクしながら、ぽんって、優しくあたしの頭を撫でてくれたのっ!!
ああもうっ、ホント彼ってば神対応! 「次も来てくれると嬉しいな?」なんて言われたらもう、次のライブもがんばって行くしかないでしょっ!!
そうやって、彼の配信やライブを欠かさずチェックするようになったんだけど……段々ね、足りなくなって行ったの。最初は、お父さんやお母さんがくれるお小遣いやお昼代をチケット代やグッズ代にしてたんだけど……毎回ライブに参戦してたら、あっという間に無くなって。仕方ないから、お年玉とかの貯金を崩して使うようになったんだけど……
やっぱり、それもあっという間に無くなっちゃって。
お金無いけど、でも、どうしても彼のライブは絶対参戦したくて……ポイ活とか? してみたんだけど。ほら? ゲーム案件とかあるじゃない? あれ、高額案件だと数万円とかなるのもあって。
最初は、地道にやってたの! でも、ああいうのって釣り案件って言うんだって。ゲームアイテムとか? サブスクとか的なやつ? を、重課金しないと絶対クリアできない条件なんだって! 酷くない? こっちはお金欲しいからゲーム案件してるんだってのっ!!
学校休んで、寝る間も惜しんでがんばってゲームしたのに! 全っ然、高額案件クリアできなくて! 小銭しか稼げなかったの!
それで、ムキーっ!? ってなって。どうにかして絶対クリアしたい、無課金で! って条件で検索掛けたらチートコードっていうの? があって。そのコード入力したら、ゲームで楽に勝てるようになって。あっさり条件クリアできたんだけど……ポイ活の規約違反だとかで垢BANされて、結局お金入らなかったの酷くないっ!? そっちが、元々無理ゲー案件載せてんのが悪いのにっ!?
なんであたしだけっ!? 絶対、他にもチートコード使ってる人いるのにっ!?
それで、めちゃくちゃ落ち込んでね? グッズを買うときに、彼にちょっと相談してみたの。お金が少し厳しくて……って。そしたら、彼ってば優しくてね?「無理しなくていいんだよ? 君ができる範囲で。お金は大切に使ってね?」って言ってくれたの!
でも、あたしどうしてもライブ参戦や彼のグッズが絶対欲しくて。どうにかならないかなぁ? って、呟いたの。
そしたら、彼が言ったの「そう言えば……君くらいの子で、羽振りのいいバイトをしてる子がいるみたい。その子に聞いてみたら教えてくれるかもね」って。
あたし、彼にその子のこと詳しく聞いて。紹介してほしいって頼み込んだの。
それで――――教えてもらったの。その方法、ホントはめちゃくちゃ嫌だったの。
でも、ね? でも……その子に言われたの。「ああ、アンタの愛ってその程度なんだ?」って。馬鹿にするみたいに、鼻で笑うみたいに、あたしの! 彼への愛を、その程度って言ったのっ!!
あたし、彼のことは心から推して、愛してて、彼の声が聞けないと生きていけないから! だから、だからだから、その子に言ったの! そんなことないっ!! って。
そしたら、「彼のこと愛してるなら、できるでしょ? だって、彼の夢はメジャーデビューなんだよ? 大手の会社と契約するにはすっごくお金掛かるって。そのために彼、バイトしたりしてお金稼いでるって言ってるの。彼のファンとして、彼を愛してるなら、彼がそんな風に働かなくてもいいくらいにお金貢いで早くメジャーデビューさせてあげることなんじゃないの?」って。
あたし、全然そんな風に考えたことなくて――――
だって、あたしは彼を推してないと生きて行けないから。あたしは、あたしのために彼のことを推してて……彼の夢は知ってたけど、あたしがグッズ買ったりするのは彼と話せるし、「今日も買ってくれてありがとう」って彼の笑顔の感謝が欲しかっただけ。
ああ、あたし。この子の言うように、自分のことしか考えてなかったって。そう気付かされて、悔しくて。でも、同い年なのにこの子はあたしよりも彼のことを深く考えてる先輩なんだ……って。
だから、あたし。彼女の言うこと聞くことにしたの。
あのね、若い子とお話したいっておじさんと少しお話するバイト。偶に、話すだけじゃなくて……ちょっと触られたりして、気持ち悪くて気持ち悪くて、ホント嫌だったけど。
でも、あたし。ホテルとかは行ったことないよ? ホントなの。偶に、すっごく偶に、離婚したとか死に別れたとかで娘に会えないから、娘とお喋りしてる気分を味わいたいって寂しそうなおじさんもいたし。
まあ、そんな優しいおじさんはかなり少なくて。大半が気持ち悪い目付きしてたけど。でも、彼のためって思ったら耐えられたの。これを我慢すれば、彼のために使えるお金が増えるって。
そうやって、あたし。彼のためにがんばってたの。
でも……彼のスポンサーが酷い人でね? 彼のグループとファンとの温泉旅行のイベント企画とかして! チケットは何十万もするし、そもそも未成年は応募禁止って! それで、それで……あの子が、教えてくれたの。彼のグループ、きっと枕営業させられるんだって。
そんなの酷い! 酷い酷い酷い酷い酷い酷いっ!!!! それって、スポンサーが大人でお金持ってるおばさん達に、彼の意志を無視して酷いことさせるってことでしょっ!? そんなのって、絶対おかしいじゃないっ!?
だから、あたし。彼女と相談したの。もっと稼ごうって。
お金貯めなきゃいけないの。早くしなきゃいけないの。前はごはんとか、飲み物とか買ってたけど。でもそんなことに回すお金ももったいないから、全部貯めてるの。
お金無いと、彼に会えない。遠くから見てることしかできない。じかに話し掛けることも、返事を返してもらうことも、笑顔を見せてもらうこともできない……っ!
寂しいの、彼が足りなくて、寂しくて寂しくて死にそうな気分になる……
だから、早くお金を作らなきゃっ!!
だけど、なんか最近おじさん達あたしのこと無視するの。お巡りさんがあちこちうろついてるせいなのかな? それで、全然思ったように稼げないの。
ねえ、だから、おねえさん。
おねえさん、彼氏に振られて死にたいんでしょ? だったら、お金も要らないでしょ?
ねえ、要らないって言うなら譲ってよ? あたしに、譲ってよ。おねえさんのお金、全部ちょうだい? ねえ、死ぬなら要らないでしょ?
ほら、おねえさん。酔っぱらってないで早く財布出してよ? おねえさんのおうちはどこ? ほら? 通帳とか、あたしが全部使ってあげる。彼に全部渡すの。これで、そんな枕営業なんかするようなグループ抜けて早くメジャーデビューしてよ? って。
ねえ、おねえさん……聞いてるの? 早くしてよ。早く家に案内してよ?
「はーい、そこまで!」
え? なに、あなた?
小学生はさっさと帰りなさいよ。
「そういうおねえちゃんだって、中学生くらいじゃないの?」
それは……そうだけど……でも、あたしの方がアンタより年上よ? 生意気!
「はいはい。あたしもおねえちゃんも、夜遊び仲間ってやつー? ま、そんなことはどうでもいいんだけどさ? そろそろここら辺、お巡りさん巡回来る頃だから。補導されたくなかったら退散した方がいいよ? って教えてあげようと思っただけ」
っ!? そ、それを早く言いなさいよっ!?
「あ、そうだ。おねえちゃん、地下アイドル推してんでしょ?」
え? あ、うん。なんで知ってるの?
「や、さっきそこの酔っ払いねーちゃんにめっちゃ話してたじゃん」
聞いてたのっ!?
「やー、聞こえてたよ? まあ、それはいいんだけどさ?」
なによ?
「あのね、多分今のおねえちゃんなら、その推しの彼? の後ろをずっとくっ付いて歩いていても見付からないと思うよ? 推しが存在して、推しの姿が拝めるならそれでいいって言うなら、後ろについて行ってみれば?」
え?
「ほら? おねえちゃん、お巡りさんや警察から逃げるためにこそこそ隠れるの上手くなったでしょ? だから、きっと大丈夫。推しの後ろについて行けば、きっと家の中にも入れちゃうかも?」
それ、ホントっ!?
「うん、多分ねー? 試してみて、駄目だったらおねえちゃんのおうち帰ればいいんじゃない? 多分、普通の親なら心配してるんじゃないかな?」
……うちのお父さんとお母さんがあたしを心配とか、するワケないじゃん。
「そっか……じゃあ、彼が警察にいる間は隠れてて。そうじゃなければ、彼の後ろに憑いてれば?」
そうね! 補導されたらヤバいものね! うん、わかった! それじゃあ、アンタも夜遊びは程々にするのよ!
「うん。じゃあね、おねえちゃん。警察やお巡りさんには気を付けてね? 気が向いたら、おうち帰って親に顔見せたげれば?」
わかってるわよ!
ふふっ、ああ! ああ! 早く、早く彼のところへ行かなくちゃっ!!
読んでくださり、ありがとうございました。
※書いてる奴は、犯罪行為を推奨しているワケでは決してありません。その辺りはご了承ください。




