表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/15

事象の彼岸。万象幽界

「グアアア!」


 喉元を突かれ、血が口から溢れだして来る。


「――何故だ!? 確かに弱点を撃ち抜いたはず!」


「幻だったんだよ、お前の見た急所は」


「バ――カ、な」


 あの瞬間、左胸の装甲が壊れ、丁度、心臓の位置あたりに、大穴が開いた鎧のイメージを、肉体に付与した。


「お前は、壊れた鎧のイメージと重なった俺を見て、心臓の位置が弱点だと思い込んだんだ」


 これ見よがしに穴の開いた一見すると、防御機能を失った鎧。それを肉体に重ねる事で、表皮の防御の働かない急所があると錯覚させた。これまでに、全ての攻撃が通じなかったからこそ、その誘いに、乗って来た。


「絶対的な防御なんて、ある訳ないよな? 俺だってそう思うさ。だからこそ、攻めあぐねていた時に、弱点を見つけたなら、興奮が止まらなくなるだろ? それを、利用させてもらった」


 流れた血が、口元を伝い、衣服にしみこむ。


「ク、ソが」


「おっと、今度のは致命傷だ。もう、抵抗しない方が身のためだぞ」


 信じられない事に、首に刺さっていた右手が、右の筒の攻撃で、跳ね上げられた。


「正気か!? 今ので、更に傷が広がって!」


 傷口が裂け、飛び散った血の軌跡を追うように、そのままお互いの身体が、地面に叩きつけられ、遅れて、飛んでいた銃弾が雨の様に降った。


「負けられねえ……」


 こっちは、今くらいの高さなら、まだ平気だが。あっちは……。


「負けてたまるかよ……」


 もぞもぞと、地面の上で藻掻き、うわ言のように何かを呟く。

 出血も酷いが、明らかに重度の骨折を負っている、もはや動く事すらままならないだろう。


「こんな事で、諦めるものか、血の、最後の一滴まで、火にくべ、彼岸への扉を開く」


 流れ落ちた血が、高熱に晒されたように音を立てて蒸発していく。


「――何を企んでいる!?」


 こちらを睨んだ両目は、まだ戦意に満ちていた。


「俺の血を燃やし、全てマナに変える」


「どういう事だ? その傷で、そんな事をして、無事で済むのか?」


「まァだ、敵の心配なんてやってる余裕があんのかよ? だが――その余裕ぶっこいた面を、絶望に塗り替えてやるぜ」


 驚いた事に、先ほどの落下で骨折も見られた身体が、立ち上がり、周囲の空間が歪んでいく。


「知っているか? 俺たちには、生まれながらに与えられた異能がある。そして、そいつの力を極限まで磨き上げた時、新たな扉が開かれる――」


 周りの空間に、透明なレイヤーがひとつ増え、それが景色を歪め、徐々に狭まって行く。


「これは――見えない壁?」


「てめえは既に俺の力で包囲されている! 見せてやるよ。事象の彼岸。万物に新たな意味を与える。向こう側の景色を――」


 凶獣将の両手の銃が、周囲の空間に呼応するように光輝いた。


「万象幽界・断頭台への十三弾ッ!!」


 ばらまかれていた銃弾が、意志を持ったのか、凶獣将の周囲に集まって行く。


「おい! クソチビ、何かやばくねえか!」


 背後から聞こえた世界樹の声音にも焦りの色が見える。


「お、おい! オレの枝でも、オマエラを包む空間を潰せねえぞ!」


 そのまま枝を伸ばしたのか、空間の切れ目に弾かれた世界樹の驚愕が響き渡る。

 こいつが、こんなに焦るなんて、本当に不味いかもな……。


「ああ。何となく分かるよ。こいつは、魔力を凝集させて、現実に、別世界を呼び出してるんだ」


「ああ!? 何でそんな事分かんだ。クソチビ」


 そういえば、何故だろう? 自分でも分からないが、何処か――何処かから、知識が流れ込んできたような……。


「おい! 大丈夫なのか!?」


「それは……今から分かるよ」


 凶獣将の両手の銃は、ひとりでに動き出し、周囲を飛び回っていた弾とやらが、勝手に飛びこんでいく。


「行くぜ。この幽界の名。その意味を、てめえは身をもって知る事になる」


 右の銃が真っすぐ前を向いた。


「――ッ! 軌道を予測しろ――」


「無駄だ。僅か数ミリの違いでも、弾道は大きく変わるんだぜ? 初めて見たド素人に、見切れるかよ」


 銃口の光と、煙、激しい音に、跳ね上げる反動が、実弾を撃った事を遅れて理解させる。


 だが――。


「何だ? 一体、何処を狙って……?」


 背後の何もない空間を狙った!?


「おい、クソチビ! 気をつけろ! その空間の外には出てねえぞ!?」


「何だと!?」


「――がッ」


 突然、左胸に感じた、信じ難い衝撃に息が詰まり、体重を無視するような、異常な力で背後へ吹き飛び、見えない壁に激突する。


「ぐあああ!」


 まるで実体を持つような、不可視の壁に背を預け、のろのろと身を起こす。


「何だ……? 今のは? 一体どこから飛んできた? それに、この威力は……」


「ハハ! やァッぱ、まだ生きてやがるな! だがよ、何処まで耐えられるか、見物だぜ」


 まただ!


「クソ! また、右から撃たれた!」


 どういう事だ!? 直接こっちを狙ってはいない! なのに、周囲の空間を……何かが横切っているのが分かる!


「ぐあああ!」


 思考を終える暇もなく、今度は腹部に突き刺さった弾丸の異常な威力に、九の字に折れ曲がり、力の逃げ場のなくなった背後の壁を、滑る様に飛び上がり、天井らしき三メートルほどの高さで頭を打ち、間をおいて落下する。


「……頑丈だな。テストになら、このくれえ丈夫な方が使えるが、こいつァ、実戦だ。試験なら間に合ってんだ」


 また、右から――!


「ほう。流石に、三発目は、ぼんやり受けやしねえか」


 弾ける様に右に走り出すが、区切られた空間の横幅は、五メートル程度しかなく、すぐに壁にぶつかる。


「く! 壁に阻まれて……!」


「逃げ回られても、厄介だよなァ。だとすりゃ、これで回避不能に近づくだろ?」


 今度は左の銃から火が吹いた。


「……? 何処を狙ってるんだ?」


「まあ、見てなって」


 ニタリと笑った口元が、邪悪な三日月を象る


「――ッ!? 天井に当たって……跳ねた!?」


 斜め上を向いた弾丸の雨が、天井から跳ね返り、すぐさま付近の地面を抉って、また別の角度に跳んだようだ。それが、何度もそこら中を跳ねまわっているのを、音や地形の変化から遅れて感じ取る。


「冗談じゃない! こんな速度で動く物を、躱せる訳がない!」


「跳弾って超高度な技術さ。だが、俺の断頭台への十三弾は、それだけの力じゃねえ」


「俺たちを包んだ空間自体が、魔力の壁を成し、現世と区切り、その不可視の壁は、跳弾を可能とする……!」


「そして――こっからが、真価だ」


 周囲を跳び回っていた弾が、こちらの身体を唐突にとらえた。


「ぐあああ!」


 なん、だ――この、常軌を逸した威力は……!?


「流石に、無傷とはいかねえんじゃねえか? ん? いや、まだ余裕そうだな」


 地面に叩きつけられ、ボールのように跳ね、そこにも散らばっていた弾が次々と当たり、天地も分からないまま回転し、何度となく壁と地面に激突し続け、ようやく止まった時には、骨が折れたかと錯覚するほど、全身を痛みが貫いていた。


「オイオイオイ! 今ので、まだその程度のダメージかよ。普通に撃って殺そうとしてた過去の自分に一喝いれたくなるぜ」


 クソ! 直ぐには立ち上がれない! このまま今の威力の攻撃を受け続けたら……!


「もう、勝ち目はねえと悟ったろう? 冥土の土産に、俺の万象幽界の秘密を教えてやるぜ」


「……いいのか? そんな事をしたら、突破口を見つけられるかもよ」


「ハ! そのザマでか!?」


 右の銃で肩を叩きながら、面白そうに、話し出す。


「この空間の力は、さっきの四発で嫌でも分かったろう? ライフルの弾は、壁を抜けた瞬間に、反対側から再び現れ、ショットガンの弾は、内側を敵に当たるまで跳弾する」


 その悠長な説明を、絶望的な気持ちで聞き続ける。


「……そして、ここからが、本題だ」


「十三。この数字に何を感じたよ?」


「さあな。もう、若くもないからな、馴染みのない数字だ」


「ハハ! 年いがい思いつかねえか!? 弾の威力が、さっきまで外で受けてた時と、全く違っただろうがよ!?」


 それは言われなくても分かる。内臓まで潰れるかと思うほどの威力だった。


「十三メートル。百三十メートル。試したことァねえが、千三百メートル。十三に関連する距離を飛んだ時、ライフルの弾は、その飛距離に応じて、威力が跳ね上がる」


「もう言わなくても分かんじゃねえか? こっちのショットガンの弾は、十三回、跳弾した時に、威力が桁違いの上がるのさァ」


 そんな力が……。


「そんでよォ。俺が決めた最大値に達した時に、放たれた弾は――」


 その奇妙な間の後に、驚愕の事実が語られる。


「必ず相手の身体に当たる!」


「そ、んな。……どうやっても、躱せないじゃないか!?」


 こちらの反応に気をよくしたのか、また口角が吊り上がった。


「一切、てめえにァ、勝ち筋がねえのが、分かったろ?」


 芝居がかった動作で、両手の銃がこちらを向く。


「じゃあ、死出の旅路の始まりだッ!」


 語られた事実には、突破口の秘密などあるはずもなく、ただ絶望を深めるだけだった――。

評価・ブックマーク・レビュー・感想などいただけると励みになります。

代表作も読んでもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ