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弾丸の熱帯雨林

 先ほどこちらへ向けて叫んでいたはずのイグニは、また視界から消えていて、真下から衝撃を感じた。


「いい事思いついたぜ。このまま空中へ打ち上げ続けて、はるか上空から、一気に落としたらどうなる? その身体、表面は銃弾すら通さねえが、内側はそれほど頑丈じゃねえんだろ?」


「――分からないな」


「ああ!? てめえの身体の事だろうが!?」


 両腕で目を守りながら、攻撃を受けるたびに浮き上がって行く。


「そうとしか言えない。何せ、俺は俺のことがよく分かっていないからな!」


「自信満々でいう事じゃねえぞ、クソチビ」


 下から向けられた視線は、怒りに満ちていた。


「……ふざけやがって! そうやって俺を侮辱しているのか!?」


「いや、そんなつもりはない」


 その言葉が、更に怒りを誘ったのか、顎が歪むほどに歯がかみ合わせられるのが見えた。


「おい、クソチビ。本当の事を言ってりゃ、相手が納得する訳じゃねえぞ。……全く人情が分かってねえなあ」


「お前にだけは言われたくないよ!」


 更に攻撃が続き、身体が世界樹の高さを越えそうになる。


「ひとつ、思い出したよ。さっき言ってた、打ち上げて落とす作戦だけど、多分、無理だ」


「ああ!? 試さなきゃ分かんねえだろうが!?」


 そう考えるのは当然のことだが、結果はすぐに現れた。


「――な・んだ!? これ以上、打ち上げても、何かに引っ張られたみてえに――」


「だから、言ったろ」


 世界樹と身体が、糸で繋がれているのだ。これが容易に切れない事は分かっていた。こうなるだろう事は、事前に予測出来ている。


「……この辺りが、浮ける限界点みたいだな」


 糸が張れる限界に達し、加えられた力が反転し、地面の方向へ落ちて行く。


「こいつと、俺の身体は物理的に繋がっているんだ。打ち上げて耐えられない高さから落とすなんて無理だよ」


「てめえ! さっきから気に入らねえな、冷静振りやがって、俺の魔力弾を見切る方法は見つかったのか!? ああ!?」


 その挑発に、まったく興味がない事を示す。


「観察はしてたさ。攻撃の瞬間に、筒の入り口が光る、耳をつんざく音が鳴る、煙が広がる。そして、左の筒を主に使っていたみたいだが、四回ごとに隙がある。……それが、リロードってやつなんだろ? その時に、筒の後ろから何かが飛び出すのも見たさ」


 落ちながら、こちらを睨む目が、驚きを表した。


「……てめえ。あの一瞬、一瞬の防御の合間に、そこまで観察してやがったのか!? だがよ、ひとつ見落としてるぜ? 四回ごとにリロードだあ? 言ったろうが! 魔力弾はいつでも撃てると!」


「そこだよ、問題は」


「んだとッ!?」


 より激昂を誘うように、相手の神経を逆なでして行く。努めて冷静に、何の問題もないように。


「まあ、痛みはあるけど、死ぬほどじゃないからな。……でも、見切れと言われても、はっきり言って、分かった事からも、判断なんてつかないさ」


「――ッ! だったらァ! どうやって破るッ!?」


「諦めた」


「――ああッ!?」


 今までで最大の罵声が飛んだ。


「こうやって、頭を守っていれば、死にはしないんだ。だったら、お前の作戦の看破なんて必要ないだろ? 俺は、出来るだけ省力化が主義でね。無駄な事はやらないんだ」


「――てめえェェェッ!!」


 表情で分かる、怒りと屈辱に溢れて、火がつくように血が上っている。


「ここからだ」


 その呟きが、大気に消える前に、上着に下から剥き出しになったベルト状の何かが、引きちぎられ、空中にばらまかれた。


「なら――その防御を崩してやるよ、間断ない連続射撃でな!」


「そんな事が出来るのか? 右は何度まで使えるのか知らないが、左は連続で四回まで、なおかつ一回ごとに次の攻撃に移れない隙がある。それじゃ、どんなに近くからやっても、腕を跳ね上げ続けるには足りないぞ」


「ハ! そりゃ、見れば分かる――」


「レインフォレスト・リローディング!」


 また――目の前に!


「跳ね上げる!」


 頭部を守る両腕の間近から、斜め上に衝撃が走り、腕のガードが維持できなくなり、身体は、反動で回り始める。


「――右?」


 今までこちらに直接、攻撃はしなかった右の筒が、ノーガードの頭部を狙っていた。


「く! 角度を読め! 目を狙えない状態に――」


 いや――何も、してこない……!?


「また、移動したのか!?」


「目が丸見えだぜ?」


 空中で半回転した頭部へ向けて、右の筒が向いていた。


「くそ!」


 反射的に顎を引き、狙いを外すが、後頭部に受けた衝撃で、浮き上がり、逆方向に回転する。


「また前に!?」


「左右交互だと、ショットガンの連射速度の限界が、埋まるだろ?」


 まだ防御が間に合う!


「――遅ェよ」


「うあ!」


 戻した両腕の防御が、また崩され、回転が止まる。

 今の感じ――やはり、左の攻撃の方が威力が強い。腕に加わった間接的な力で、頭部に受けた回転を止めた。


 その実感が正しいのなら――。


 トドメは左で狙ってくるはずだ。つまり、その意図を狙って崩す!


 そこが最大の隙になる!


「もう、左は空だろう!? もたついてたら、立て直す隙だらけだぞ!」


 その言葉に返答はなかった。眼前で展開される奇妙な光景に絶句する。


「さっき空中にばらまいた物が――」


 落下していた銃弾と呼ばれた物が、折れた左の筒の中に、するりと入り込む。


「うあ!」


 それを見送る暇もなく、また姿が消え、右わきから衝撃を受ける。


「見たろ? これが、レインフォレスト・リローディングの真骨頂よ」


 左、右の交互の執拗な攻撃に、徐々に防御がおぼつかなくなってくる。


「自由落下する弾の位置に、魔力弾で移動し、全く隙のない一瞬のリロードを可能とする、秘技よ!」


「てめえにァ、見切れまい」


 不味い――防御が、もう、持たない……!


「そろそろ仕上げかァ、案外あっけなかったな」


 まだだ! 今ので左は三回目、もう一度だけ腕で受けるんだ!


「ガードが下がり切った、終わりだ」


 腕に、力が入らない。このままでは――。


 だらりと垂れ下がり、力を失った両腕に、鎧の硬さのイメージを重ね、硬直した肘関節を、思い切り蹴り上げた。


「何だとッ!?」


 自由に動かせやしない、ただ蹴っただけじゃ、真っすぐ上がるとは限らない!


「だが、鉄のように硬ければ別だろ?」


「チッ! まだ足掻くか!?」


 また跳ね上げられた両腕が、ぎこちなく軋む中、瞬間移動し、左の筒にリロードしようとするのが見えた。


「今だ――!」


 相手の思考の裏をかけ! 今すぐに攻撃したくなるように仕向けるんだ! そのためには――。


「ん……? なん、だ。この感じ」


 左のリロードの動きが止まり、右の筒がこちらを向いた。


「ハハ! 今まで何故気付かなかった!? 隙だらけじゃねえか! 弱点があるのなら――」


「そこを狙えばいいだけだッ!」


 来た!


「んァ? 糸を引いたか? 今の状況で、当たるとァ、思えねえが、やれって言われたからな! 失敗しても、オレのせいにすんなよ、クソチビ」


 背後では世界樹の枝が風を切る音が響き始め、斜め上からこちらの左胸に向けて、右から射出された物が鋭く突き刺さった。


「ぐあああ!」


 わざと大袈裟な悲鳴を上げる。


「遂にやったかよ! 何度も攻撃している内に、表皮の防御が剥げて来てたの――」


 その言葉に続きはなかった。枝ですくうように叩かれ、跳ね上げられた身体が、凶獣将に迫り、剣の切っ先を付与した右手が、喉を突いていた――。

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