表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/15

菌糸ネットワーク

 決まった方針を伝えた所で、直ぐに世界樹から反論があった。


「おい。掘るって言ってもよ。この地面はオマエに憑いてるんだろ? 何処まで地下があるか分かんねえぞ?」


「確かにそうだな。でも、何事もやってみなけりゃ、結果は分からないさ」


「おいおい。無駄なことぁしねえ、省力主義じゃねえのかよ」


 イグニと交わした言葉を掘り起こされる。


「あれは――言葉の綾って奴だな」


「綾ァ? 植物にも分かる言葉で話せや」


 珍しく長い枝が動き、地面付近まで伸びて来て、穴を指した。


「それによォ。この地面のあった場所。つまり、オレタチが元いた場所は、今どうなってんだ?」


「は!? その事を完全に忘れてた!」


 今すぐにでも駆けだして、あの町はずれの森を確かめに行きたくなったが、逸る気持ちを抑え、落ち着ける。


「いや、待て。この場を調べるのが先だ」


「隊長! ここに生えてやがるキノコに、何か親近感を覚えるんですが、何でやんすかこれ?」


 一体の骸骨が、興味深げに人世茸を見つめる姿に首をかしげる。


「さあ? だけど、このキノコは気になる所があるな。なあ、世界樹。キノコは植物の敵だって言ってたよな? だったらこいつにも詳しいのか?」


「ああ~? 共生してる連中もいるが、ソイツラは敵だからなァ。多少は知ってる」


 一呼吸おいてキノコの生態の一端が語られる。


「ソイツラは、人間の死体を養分にする変わった奴だが、地下に菌糸ネットワークってのを張り巡らして、養分や情報の伝達をしてやがんだよ。そのやり取りの詳しい内容までは知りやしねえが、人間にもつくんだ。何かあるかもなァ」


「……それは、人の死体の養分や情報も、運んでるって事か?」


「分っかんねえよ。ただ、あり得るってだけだって」


 ひとつの可能性に思い至り、こちらをアニキと呼ぶ一体に声をかける。


「何ですかい? アニキィ」


「好きなように動いてみろ」


「へ? お忘れですかい? あっしの身体は、アニキとリンクしてて――あれ?」


 自由に動き回れる事に気付き、その場で何度も跳びはねたり、ぐるぐると歩き回る。


「ほっ! どうなってんです、こいつぁ。さっきまでは――ァッ!」


 はしゃいでいた骸骨が、突然つまずいたように、前方につんのめる。


「また、自由が効かなく――」


 やはりな。こいつと俺の肉体のリンクは、こちらの意志で自由に切り替えられるようだ。


「お前との肉体のリンクは、俺の意志で自由につけ外し出来るらしい。……繋がっている感覚は分かるか? 逆に、自由になったタイミングでもいい。それが直感的に分かるかが重要だ」


「へえ。分かるかと言われれば……、自由になったさっきの感覚は、何となく分かりやすぜ」


「どんな感じだった?」


 少し間が空き、瞳のない眼窩が宙へ視線を彷徨わせる。


「言うなれば、アニキとリンクしている間は、全身を四方八方が壁に囲まれたような感覚で、自由を取り戻すと、それが消えやす。言われるまでは、何が変わったのか分かりやせんでしたが」


「リンクを繋いだ時と、切れた瞬間の違いを、体感で覚えてくれ。この先、必ず必要になるだろう」


「へ? へえ。アニキがそうおっしゃるのなら、努力はします」


 他の七体も集めて、作り出した剣を一体ずつ手に持たせてみる。


「違和感はないか? 骨だけになっていても、見かけはしっかり握れているように思える」


「生前の記憶……何ですかね? 持つだけなら、特に問題も」


 八体全員に、剣を握らせ、幾つかの構えを取らせ、落としたりしないかを確認する。

 今のところは、問題のある個体はいないな……。


「じゃあ次は――振り回してみてくれ。盗賊だったんだ、剣の振り方くらい覚えているだろ?」


「は、はあ。試せと言われりゃ、やりはしやすがね」


 武器の扱いの専門家ではないが、他人が動いているのを見れば、多少は良し悪しが感じ取れる。先ほどの凶獣将との戦いも影響しているかもしれない。

 もしも、この八体の中に、剣の扱いに優れた適性のある者がいたら、その個体に代わりに監督させればいい。


「ふッ――はッ――」


 試させていくと、意外なほど違いが生まれる。


「いいぞ。思ったよりも違いがあった。そこのお前と、お前。ふたりは剣を振る適性が、他の六人よりも高いみたいだ。お前たちは、これから先、戦闘があったら、前衛に立って欲しい」


 指差した二体は、あからさまに驚いたような顎が外れそうな形になり、疑問を投げかけてくる。


「他の奴じゃなくて、何で俺たち何ですかい? 隊長!?」


 その二体を前に出させると、他と比べて背の低い個体だった。普通に生きた人間基準で考えると、前衛には適さないかもしれないが、彼らは骨だ。死者に生者の常識は通じない。


「手を開いて見せてみるんだ。それで他の者にも分かるだろう」


「へ、へえ。こうですかい?」


 身長が低いから、身体全体のサイズも小さく、骨だけの手も小さい。


「その手の小ささのおかげだろうな。肉に包まれた掌と違って、骨だけだと、グリップが弱くなる。……他の六人の動きを見ただろ? どう感じた?」


「へ? ……ええと、正直、不器用だな。とは思いやしたね」


「この剣の柄を見てみろ。生者用に設計された武器だ。当然、お前たちの骨の手じゃ、上手く握れない。だが、特に小さかったふたりは、肉がない手の内でも、この剣の柄をしっかり握れるくらい密着してたんだ」


「はあ? そういうもんですかい」


「他の者は、骨格の大きさが仇になって、肉なしの手じゃ、上手く把持出来なかったんだ。握り方が悪ければ、当然振り回すのにも支障が出る」


 場はざわつき、各々の手を開閉し、状態を確かめる。


「理屈は分かりやしたが。一番背の低いふたりが前を張るのは向いてねえんじゃ?」


「ああ。だから、これからお前たち七人には、そこに見えている廃墟になった街へ赴き、家探しをして、使えそうな道具がないか調べ、持ち帰って欲しい」


 場がにわかに色めき立つ。


「そ! そりゃ、もしかしなくても、盗みでやんすか!?」


「……もっと穏当な表現を用いよう。生きるために必要な物を、拝借するんだ」


「へへ! それを盗みと言うんですぜ。隊長も、お人が悪い。そりゃ、俺らの本分ですぜ」


 全員の戦闘用の装備を今すぐ決めるのは無理だが、大まかな役割分担は考えてある。後は、それを可能にする道具が見つかるかどうかだが。


「とりあえず、お前たち八人全員分の、フード付きの外套を見つけろ。それと、足を隠せる物。それが最優先だ」


「はあ? そりゃ、一体何のためで? 武器や防具ではなくて、そっちですかい?」


 彼らの頭のてっぺんから爪先までに視線を走らせ、それを追従させる。


「お互いの姿を見比べたら、何かに気付いたんじゃないか?」


「……よもや!」


「そうだ。お前たちは、朧気にでも生前の記憶があるせいか、それに引っ張られている様だが、生きた人間にとっては、お前たちは、ただのアンデッドだ。その姿を人目から隠す」


「いや、ごもっともですが、隊長。フードと外套で覆われた八人ってぇのも、かなり悪目立ちしやせんかね?」


「骨が剥き出しよりマシだろ?」


 他にも必要な物はあるが、とりあえず廃墟の探索に向かわせる。


(アニキィ。この人間。完全に俺らの事を信用しきってますぜ? どうしやす?)


(ククク……。まだじゃあ、寝首を掻くには、周到に用意せんとなあ! 今は、大人しく従ったフリをしとけ!)


(面従腹背でやんすね)


 背を見せて廃墟に向かう八人の中のひとりの骨の手を引いた――。

評価・ブックマーク・レビュー・感想などいただけると励みになります。

代表作も読んでもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ