菌糸ネットワーク
決まった方針を伝えた所で、直ぐに世界樹から反論があった。
「おい。掘るって言ってもよ。この地面はオマエに憑いてるんだろ? 何処まで地下があるか分かんねえぞ?」
「確かにそうだな。でも、何事もやってみなけりゃ、結果は分からないさ」
「おいおい。無駄なことぁしねえ、省力主義じゃねえのかよ」
イグニと交わした言葉を掘り起こされる。
「あれは――言葉の綾って奴だな」
「綾ァ? 植物にも分かる言葉で話せや」
珍しく長い枝が動き、地面付近まで伸びて来て、穴を指した。
「それによォ。この地面のあった場所。つまり、オレタチが元いた場所は、今どうなってんだ?」
「は!? その事を完全に忘れてた!」
今すぐにでも駆けだして、あの町はずれの森を確かめに行きたくなったが、逸る気持ちを抑え、落ち着ける。
「いや、待て。この場を調べるのが先だ」
「隊長! ここに生えてやがるキノコに、何か親近感を覚えるんですが、何でやんすかこれ?」
一体の骸骨が、興味深げに人世茸を見つめる姿に首をかしげる。
「さあ? だけど、このキノコは気になる所があるな。なあ、世界樹。キノコは植物の敵だって言ってたよな? だったらこいつにも詳しいのか?」
「ああ~? 共生してる連中もいるが、ソイツラは敵だからなァ。多少は知ってる」
一呼吸おいてキノコの生態の一端が語られる。
「ソイツラは、人間の死体を養分にする変わった奴だが、地下に菌糸ネットワークってのを張り巡らして、養分や情報の伝達をしてやがんだよ。そのやり取りの詳しい内容までは知りやしねえが、人間にもつくんだ。何かあるかもなァ」
「……それは、人の死体の養分や情報も、運んでるって事か?」
「分っかんねえよ。ただ、あり得るってだけだって」
ひとつの可能性に思い至り、こちらをアニキと呼ぶ一体に声をかける。
「何ですかい? アニキィ」
「好きなように動いてみろ」
「へ? お忘れですかい? あっしの身体は、アニキとリンクしてて――あれ?」
自由に動き回れる事に気付き、その場で何度も跳びはねたり、ぐるぐると歩き回る。
「ほっ! どうなってんです、こいつぁ。さっきまでは――ァッ!」
はしゃいでいた骸骨が、突然つまずいたように、前方につんのめる。
「また、自由が効かなく――」
やはりな。こいつと俺の肉体のリンクは、こちらの意志で自由に切り替えられるようだ。
「お前との肉体のリンクは、俺の意志で自由につけ外し出来るらしい。……繋がっている感覚は分かるか? 逆に、自由になったタイミングでもいい。それが直感的に分かるかが重要だ」
「へえ。分かるかと言われれば……、自由になったさっきの感覚は、何となく分かりやすぜ」
「どんな感じだった?」
少し間が空き、瞳のない眼窩が宙へ視線を彷徨わせる。
「言うなれば、アニキとリンクしている間は、全身を四方八方が壁に囲まれたような感覚で、自由を取り戻すと、それが消えやす。言われるまでは、何が変わったのか分かりやせんでしたが」
「リンクを繋いだ時と、切れた瞬間の違いを、体感で覚えてくれ。この先、必ず必要になるだろう」
「へ? へえ。アニキがそうおっしゃるのなら、努力はします」
他の七体も集めて、作り出した剣を一体ずつ手に持たせてみる。
「違和感はないか? 骨だけになっていても、見かけはしっかり握れているように思える」
「生前の記憶……何ですかね? 持つだけなら、特に問題も」
八体全員に、剣を握らせ、幾つかの構えを取らせ、落としたりしないかを確認する。
今のところは、問題のある個体はいないな……。
「じゃあ次は――振り回してみてくれ。盗賊だったんだ、剣の振り方くらい覚えているだろ?」
「は、はあ。試せと言われりゃ、やりはしやすがね」
武器の扱いの専門家ではないが、他人が動いているのを見れば、多少は良し悪しが感じ取れる。先ほどの凶獣将との戦いも影響しているかもしれない。
もしも、この八体の中に、剣の扱いに優れた適性のある者がいたら、その個体に代わりに監督させればいい。
「ふッ――はッ――」
試させていくと、意外なほど違いが生まれる。
「いいぞ。思ったよりも違いがあった。そこのお前と、お前。ふたりは剣を振る適性が、他の六人よりも高いみたいだ。お前たちは、これから先、戦闘があったら、前衛に立って欲しい」
指差した二体は、あからさまに驚いたような顎が外れそうな形になり、疑問を投げかけてくる。
「他の奴じゃなくて、何で俺たち何ですかい? 隊長!?」
その二体を前に出させると、他と比べて背の低い個体だった。普通に生きた人間基準で考えると、前衛には適さないかもしれないが、彼らは骨だ。死者に生者の常識は通じない。
「手を開いて見せてみるんだ。それで他の者にも分かるだろう」
「へ、へえ。こうですかい?」
身長が低いから、身体全体のサイズも小さく、骨だけの手も小さい。
「その手の小ささのおかげだろうな。肉に包まれた掌と違って、骨だけだと、グリップが弱くなる。……他の六人の動きを見ただろ? どう感じた?」
「へ? ……ええと、正直、不器用だな。とは思いやしたね」
「この剣の柄を見てみろ。生者用に設計された武器だ。当然、お前たちの骨の手じゃ、上手く握れない。だが、特に小さかったふたりは、肉がない手の内でも、この剣の柄をしっかり握れるくらい密着してたんだ」
「はあ? そういうもんですかい」
「他の者は、骨格の大きさが仇になって、肉なしの手じゃ、上手く把持出来なかったんだ。握り方が悪ければ、当然振り回すのにも支障が出る」
場はざわつき、各々の手を開閉し、状態を確かめる。
「理屈は分かりやしたが。一番背の低いふたりが前を張るのは向いてねえんじゃ?」
「ああ。だから、これからお前たち七人には、そこに見えている廃墟になった街へ赴き、家探しをして、使えそうな道具がないか調べ、持ち帰って欲しい」
場がにわかに色めき立つ。
「そ! そりゃ、もしかしなくても、盗みでやんすか!?」
「……もっと穏当な表現を用いよう。生きるために必要な物を、拝借するんだ」
「へへ! それを盗みと言うんですぜ。隊長も、お人が悪い。そりゃ、俺らの本分ですぜ」
全員の戦闘用の装備を今すぐ決めるのは無理だが、大まかな役割分担は考えてある。後は、それを可能にする道具が見つかるかどうかだが。
「とりあえず、お前たち八人全員分の、フード付きの外套を見つけろ。それと、足を隠せる物。それが最優先だ」
「はあ? そりゃ、一体何のためで? 武器や防具ではなくて、そっちですかい?」
彼らの頭のてっぺんから爪先までに視線を走らせ、それを追従させる。
「お互いの姿を見比べたら、何かに気付いたんじゃないか?」
「……よもや!」
「そうだ。お前たちは、朧気にでも生前の記憶があるせいか、それに引っ張られている様だが、生きた人間にとっては、お前たちは、ただのアンデッドだ。その姿を人目から隠す」
「いや、ごもっともですが、隊長。フードと外套で覆われた八人ってぇのも、かなり悪目立ちしやせんかね?」
「骨が剥き出しよりマシだろ?」
他にも必要な物はあるが、とりあえず廃墟の探索に向かわせる。
(アニキィ。この人間。完全に俺らの事を信用しきってますぜ? どうしやす?)
(ククク……。まだじゃあ、寝首を掻くには、周到に用意せんとなあ! 今は、大人しく従ったフリをしとけ!)
(面従腹背でやんすね)
背を見せて廃墟に向かう八人の中のひとりの骨の手を引いた――。
評価・ブックマーク・レビュー・感想などいただけると励みになります。
代表作も読んでもらえると嬉しいです。




