#020 「もう一度、未来へ」
雪が止んだ朝、世界は音を失っていた。
窓の外に広がる景色は一面の白。昨夜の静けさをそのまま写し取ったような、まるで時間そのものが凍りついたかのような朝だった。
隼人は旅館のロビーで、ひとりソファに腰かけていた。手には、昨夜まとめた記録用のメモ端末。だが視線は、画面の文字ではなく、その向こうにある“次”を見据えている。
——昨日の対話。
——町の人々の怒りと祈り。
——そして、まだ答えの出ない問い。
それらは、「重荷」というより、むしろ“預けられたもの”に近かった。
「おはようございます、隼人さん」
声をかけてきたのは、宿のスタッフの女性だった。昨夜の雪で交通が不安定だという話をしながらも、彼女は六人の若者たちの働きぶりを、どこか誇らしげに語った。
「若いのに……皆さん、ちゃんと“背負ってる”んですね」
その言葉に、隼人は小さく息を吐き、わずかに肩を揺らして笑った。
「背負ってる……か」
一瞬だけ言葉を探し、それから静かに続ける。
「選んだわけじゃないですけど……それでも今、必要とされてるなら……応えないといけない、とは思ってます」
その声には、迷いはあった。けれど、逃げる気配はなかった。
かつて、AIを恐れ、拒み、未来そのものを閉ざしてしまった大人たちがいた。
隼人たちの世代は、その“後始末”をしているのかもしれない。
それでも。
「もう一度、未来を選びたい」
その想いだけは、はっきりとしていた。
廊下の向こうから、誰かの笑い声が聞こえてくる。想太の声だ。それに重なる、はるなの少し明るい返事。
隼人は、立ち上がった。雪の匂い。朝の冷気。胸の奥に残る、わずかな緊張と期待。
ロビーの扉を開けると、準備を整えた仲間たちが集まっていた。
誰もが、不安を抱えていないわけじゃない。それでも、それを隠すように、あるいは受け入れるように、静かに笑っている。
「……行こう」
隼人の言葉に、誰かが頷き、それが連鎖する。
それぞれが、昨夜交わした言葉や、胸にしまった“約束”を抱えたまま。
——もう一度、未来へ。
それは、次の街へ向かうという意味だけではない。
記録と信頼と、まだ名前のつかない希望を携えて、再び“共存”を試みるという決意だった。
六人の旅は、静かに、しかし確かに、次の一歩を踏み出していた。




