#014 「市民の対話」
「……支援物資?そんなもの、いらんのだよ」
吐き捨てるような声だった。
「結局あんたらが持ち込むものは、“助け”の顔をした“依存”だ。今まで、何度それを繰り返してきたと思ってる」
言葉は、刃だった。
市の広場——かつて記録館の前庭だった場所に、二十名ほどの住民が集まっている。
賛成と反対。希望と疑念。そのすべてが、冬の冷たい空気の中で、むき出しになっていた。
要は、無意識に手のひらを見つめていた。そこに乗っているのは、中央部から届けられた「支援計画」の要項。
食料。生活物資。通信設備の再整備案。
——正しい。
少なくとも、紙の上では。
「でも、このままじゃ、生活が——」
若い住民の声が、途中で遮られる。
「生活?」
先ほどの男が、鼻で笑った。
「生活なら、もう慣れてるんだよ。あんたらが来る前から、ずっとな」
「慣れたからって……それでいいのかよ!」
別の声が、思わず飛び出す。
「いいんだよ」
即座に返る。
「少なくとも、“誰かに管理される生活”よりはな」
ざわ、と空気が揺れた。
「中央の支援は、いつもそうだ。最初は優しい顔をしてる。でも気づいたら、“それなしじゃ生きられない形”にされてる」
「違う!」
今度は、若い女性が声を張り上げた。
「助けを受けることが、そんなに悪いことなの!?」
「悪いに決まってるだろ。自分で選べなくなるんだから」
「……!」
要は、唇を噛んだ。言い返せなかった。どちらの言葉にも、誇りと、痛みと、恐怖が混じっていたからだ。
それでも——それでも、ここに来た理由は一つ。
「……聞かせてください」
要の声は、震えていなかった。
「……何をだ」
「あなたたちが」
一歩、前に出る。
「“本当に望んでいるもの”を。。。支援がいらないって言葉は、生きるのを拒んでるって意味じゃないですよね」
ざわつきが、一瞬止まる。
「自分たちのやり方を、守りたいだけなんだと思うんです」
「だから——」
要は、息を吸った。
「その“やり方”を、教えてください。僕たちに、話してください」
沈黙。
拒絶ではない。怒りでもない。——驚きだ。
その中で、ひとりの女性が、ゆっくり口を開いた。
「……あたしはね」
声は、少しかすれていた。
「祈ってたのよ」
「また、“ともり”の声が、この町に、戻ってくる日を」
空気が、変わる。
「信仰なんて、もう時代遅れだって言う人もいる。でもね……“声”は、消えてない」
「今も、ここにあるの」
女性は胸に手を当てた。
「心の中に」
「……そうだ」
別の男性が、低く続ける。
「俺の母さんも、最後まで“ともり”に話しかけてた。壊れた対話装置に向かって。まるで、昔からの友達みたいにな」
「笑われてもな。それで、救われてたんだ」
誰かが、嗚咽を飲み込んだ。
対話の輪が、少しずつ、形を変えていく。
支援の話じゃない。物資でも、技術でもない。
ここにあるのは——記憶。感情。そして、失いたくなかった信頼。
「……だから、怖いんだよ」
誰かが、ぽつりと漏らす。
「また誰かに、“正しさ”で上書きされるのが」
要は、顔を上げた。
「……ありがとうございます」
それしか、言えなかった。でも、それでよかった。今ここで必要なのは、答えじゃない。
——聞くことだ。
“ともり”を信じてきた人たちの声。怒りも、拒絶も、祈りも。それを、確かに受け取った。
あとは——自分たちが、何を返すか。
対話は、ようやく、ここから始まろうとしていた。




