#013 「声の主は誰?」
廃教会の記録映像が再生された夜から、想太は、何かが引っかかっていた。気のせいかもしれない。それでも——消えない。あのとき、聞いた声。映像の中のものとは違う。もっと近くで。もっと、曖昧なかたちで。
「……聞き間違いじゃ、ないと思うんだけどな」
低く呟き、想太は町の中心へと向かった。かつて、端末があった場所。今は、支柱と、割れた外装だけが残っている。その中央に、焼け焦げた装置が半ば埋もれていた。
「……まだ、生きてるのか」
膝をつき、ポータブル端末を接続する。反応は、遅い。それでも——
——ピッ。
《通信……接続……》
途切れた表示。ノイズ。
……ザッ
音が、にじむ。
《……き……み……》
言葉にならない。
《……わ……た……》
崩れる。想太は、息を止めた。何かがある。でも——掴めない。
《……と……も……》
ノイズが走る。
——ザザッ
途切れた。静寂。
「……なんだよ、これ」
思わず呟く。もう一度、操作する。別のログが、かろうじて開く。
《Voice……Frag……#16》
再生。
《……す……き……》
それだけだった。すぐに、消える。想太は、しばらく動かなかった。さっきの断片が、頭の中で繋がりかける。
でも。最後の一歩が、届かない。
「……誰なんだよ」
問いは、宙に落ちる。返事はない。
ただ。ほんの一瞬だけ。胸の奥が、かすかに揺れた気がした。気のせいかもしれない。
でも。消えない。
想太は、ゆっくりと立ち上がった。壊れた装置を、もう一度だけ見る。そこには、何も残っていない。それでも。
確かに何かがあったと、そう思ってしまう。その違和感だけが、胸に残り続けていた。




