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#001 「プロローグ」

 冬の空気には、音がない。いや、あるのかもしれない。ただ、それを包み隠すように、世界が静かに息を潜めているだけ。

 教室の窓から見える中庭には、うっすらと雪が積もっていた。去年までは、ただ寒いとしか思わなかったこの景色も、なぜか今日は胸の奥を、じんわりと温める。

 あの秋の日々から、季節はひとつ進んだ。ほんの少しの時間。だけど、あまりに多くのことがあった。街の変化、人のざわめき、そして——“ともり”の声。

 私は、ときどき夢を見るようになった。どこか懐かしくて、でも見知らぬ場所。白い霧の中で、あの声が私を呼ぶ。


「はるな、そろそろだよ」

  ——そろそろ?

 何が? どこへ?


 問いかけようとしたのに、言葉は霧の中に溶けていった。代わりに、声が続く。


「……怖い?」

 その一言に、胸の奥がきゅっと鳴った。正直に言えば、少しだけ怖い。でも——


「……ううん」

 私は、そう答えていた。理由なんて、あとでいい。今はただ、その声に呼ばれた気がした。

 不思議と胸の奥が、「うん」と頷いていた。気づけば私は、コートのポケットに手を入れていた。そこにある“鍵”を、そっと確かめるように。


 これが何を開くのかは、まだわからない。けれど、きっと——

 もう一度、誰かと、世界と出会いなおすための鍵。


 朝焼けが、ゆっくりと空を赤く染めていく。校舎の前には、私の大切な仲間たちが、静かに並んでいた。


 誰かが、息を吐いた気がした。誰かが、小さく笑った気もする。

「寒いな」

 そんな声が、どこかで聞こえたような気がした。


この街で、旅立ちの季節が——静かに、始まろうとしている。

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