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八、聖教会の来訪者

「アリネー、『冒険者週報』のトップに、『赤薔薇のアイリ』が農地の工事をした記事が載っていますよ」


朝、領主邸の食堂には、バターと紅茶の香りが漂っていた。


「あら? それは仕方のないことだわ。あんなにたくさんの農民の方々に見られていたのだもの」


「あの、一般の人たちからすれば、本当に衝撃的だったんですよ。あの日私たちが帰る時、作業員さんや他の農家さんたちが大歓声を上げていましたから」


「娘よ……一体何をしたんだい?」


お父様はご存じなかったのだろうか。


「何もしていませんよ、お父様。心配なさらないでくださいな」


えっ?アリネー、自分がした良いことをお父様には黙っておくつもり? 反抗期?


「アリネーは、農地で魔法を使って少し開墾の手伝いをしただけです。それで農民たちが興奮してしまって。お父様もあまり心配しないでください」


「それは……」


「あなた、娘たちの計画は私が管理していますから、大丈夫ですよ」


「う、うむ……ああ、分かったよ」


ははは……なんだか、三人でお父様を仲間外れにしているみたいで少し面白いかも。まあ、お父様も後で自分で『冒険者週報』を読むだろうし、「隠し事」というほどでもないだろうけれど。


お父様は紅茶を一口啜った。陶器の触れ合う小さな音がして、それから新聞を広げる音が続いた。


あ、そうだ。


「ねえ、アリネー、アンジェママ。街の中で新聞を読む人って、どのくらいいると思います?」


「ん?ルミちゃん、どうしてそんなことを聞くの?」


「冒険者だって、仕事に関係する文字しか読まないんじゃないかなって思ったんです」


「識字率で言えば確かに差があるわね。一般の領民なら、全く読めないわけではないけれど、主に日常生活で使う言葉や自分の仕事に関連する語彙が中心よ。あとは学識のある専門職の人や、事務職、店主たちかしら……。もちろん年齢も関係するわね。年配の方は長い生活の中で自然と多くの言葉を覚えているものよ」


「ああ……なるほど」


「ルミちゃんは皆の識字問題が気になるのね。だから学校で実習教員をしているのかしら?」


「ええ、お母様。ルミィはずっと前から先生になりたいって言っていたんですよ」


「うーん……じゃあアリネー、新聞は誰が読んでいるんですか?」


「そうね、まずは字が読めること。それから社会情勢に関心がある人かしら?」


「字が読めなかったり、読解力が足りなかったりして、社会のことを知るのを諦めてしまうのは勿体ないですよね」


「大丈夫よ。領民たちは口づてに情報を広めるから、大事なことはちゃんと伝わっていくわ」


「それもそうですけど……」


「それで、ルミちゃんは何を考えているのかしら?」


「いえ、代筆のサービスみたいに、『新聞の読み聞かせ』のサービスがあったらどうかなって思ったんです」


「読み聞かせ?」


「そうです。アリネーは腐敗貴族の悪行を暴く計画を立てているじゃないですか。いつか本当に公表する時、新聞を読まない人は気づかないかもしれない。噂にはなるでしょうけど、決まった時間に読み聞かせ会があれば、もっと効果的なんじゃないかなって」


「あら? それは良い考えね。あなた、どう思う?」


「問題ないよ。私が出資してもいい。民生を促進する素晴らしいアイデアだ」


「ええ、私も ルミィの考えはとても素敵だと思うわ。ルミィ、あなたは本当に賢いわね!」


「そんなことないですよ!」


「それじゃあ、あたしに計画を立てさせてくれるかしら? 技術的な問題があれば何でも言ってちょうだい」


うーん……読み聞かせサービス。字が読める人を雇って、特定の場所でその日、あるいはその週のニュースを読み上げる……。どこでやるのがいいだろう。


小さな部屋? それじゃあ集まる人が少なすぎる。


中央広場? 騒がしすぎるかな。普通の人はアリネーみたいな拡声魔法を使えないし。


一般人でも使える拡声魔道具なら、やっぱり『咫尺千里』だけど。あれを一般人に預けるのはリスクがあるかな? 私が読むべき?


でも『咫尺千里』があったとしても……。正直なところ、わざわざ時間を割いて聞きに来る人がいるのかな? あれ?


「アリネー、『咫尺千里』の有効範囲ってどのくらいですか?」


「え? 急にどうして『咫尺千里』の話を……まさか……ええっ!?」


「そうですよ! 読み聞かせ会じゃなくて、『咫尺千里』で街中に新聞を読み上げればいいんです!」


「そ、それは流石に……」


「ダメよ、ルミちゃん。それでは聞きたくない人の邪魔になってしまうわ。夜勤明けで昼間に眠っている人もいるのよ。」


「あ……えへへ、そうですよね。やりすぎでした」


「い、いいえ! そうじゃないわ! すごく……すごくいいわ! お母様、あたし、実現可能な方法を思いついたわ。後で設計図を書いて相談させてちょうだい!」


「ええっ!?」


やはり、流石は私のアリネーだわ。





「皆様、失礼します。あたしは書斎に戻りますね」


朝食を済ませるなり、アリネーは書斎へ飛んでいった。きっと一刻も早くアイデアを形にしたいのだろう。


さて……今日は休日だ。手元にある「あの」本をゆっくり読むことにしよう。ふふふ……思い出しただけで口角が上がってしまう。


ピンポーン──


ん、邸宅の魔法チャイム? 休日に来客なんて珍しい。まあ、私には関係ないだろうし、部屋に戻って……。


「ルミ嬢、少々お待ちください」


「はい?」


窓から門の外をちらりと確認したヴィルマさんに呼び止められた。


「おそらくルミ嬢のお客様です。私が応対してまいります。」


お客様? 私に? 誰かが私を訪ねてきたの? 治療の依頼かしら。休日は受け付けないと言ってあったはずだけど……まさか重傷の急患?


「怪我人ですか? 私、一緒に行きます!」


「その必要はありません、ルミ嬢。あなたは客間でお待ちください。私がお客様をご案内します。旦那様、よろしいでしょうか?」


「構わないよ。君の判断に任せる」


「承知いたしました」


どうやら……そういうことではないらしい。私……ちょっと窓から様子を見てみようかな。


ええっ!? これって!?





邸宅の客間。私は一人、ソファの片側に座っていた。なぜだか心臓がドクドクと高鳴っている。


せっかくの休日で、さっきまでは本を読みふけろうと思っていたのに。


どうして今、私は何か後ろめたいことでもしたような気分になっているんだろう。


後ろめたいこと? い、いや、そんなはずはない。


そう! 私は公明正大! 正々……堂々……としている……はず……だよね? あはは!


何もないわよ! はは!


「お客様、こちらへ……」


ヴィルマさんが『お客様たち』を連れてきた。私は慌てて背筋を伸ばして立ち上がった。


「お久しぶりです!!! 神官フェニャ、神官ニーラ! 道中はご無事でしたか!」


神官フェニャ── 常に仏頂面の年増女、一級神官(30歳)。


神官ニーラ── 笑顔の絶えないお姉さん、こちらも一級神官(25歳)。


二人はオリシウス中央聖教会の「一級神官」で、私は一番下の「三級神官」だ。ちなみに一級の上には「大神官」、さらにその上には「主教神官」という位がある。


彼女たちと私は浅からぬ縁がある。神官フェニャは神官修行後期の責任者の一人だったし、神官ニーラは修行の最初から、私たち(当時の同期はみんな六、七歳だった)の生活指導や身の回りの世話を担当し、自立の仕方を教えてくれた人だ。


「……」


もういいですよフェニャさん。今は冬、ただでさえ寒いのに、その悪名高い無愛想な顔で寒気を振りまかないでください……。うう──、どうしてここへ私を訪ねてきたの!?


「ルミナスちゃん! 久しぶりね。敬称なんていらないわよ! 元気にしていた?」


ニーラさんだ! よかった、彼女も一緒に来てくれて。凍りついた空気が溶けていく! 彼女がいなかったら、相当きつかったはずだ。


「はい、元気です! お気遣いありがとうございます!」


「お客様、こちらへお掛けください。」


「ええ、ありがとう、メイドさん。」


うぅ──ニーラさんの声、すごく甘くて懐かしい!


「どうも。」


ふん、この年増女も礼儀くらいは心得ているみたいね。いつまでもその仏頂面でいられるわけがないわ。ここは領主様の邸宅なんだから! 敬意を払いなさいよ!


「それで……お二人は今日、どうして急に訪ねてこられたんですか?」


「急ではないわ。中央聖教会の手紙に書いてあったはずでしょう?」


うぅ──、声が冷たい。フェニャさんは相変わらず……え? 手紙?


手紙……手紙? 手紙!?


『別に特別なことはなくて……ただ、冒険者の仕事報告をちゃんと提出してないって、ちょっと叱られただけ。それと、あとで大神官が様子を見に来るって言ってたよ。私がちゃんと生きてるか確認するために、みたいな。』


ええっ!? あれって二ヶ月前の手紙じゃない!? 私、てっきり立ち消えになったものだと思っていたのに!


「手紙……。あ、ああっ、そうでしたね。でも、あの手紙には確か『大神官』が来ると書いてあった……ような?」


言いながら、ついつい首をかしげてしまった。ダメ、変な癖は隠さなきゃ!


「チッ。あんたみたいな地方派遣の小娘に、大神官様が動くわけないでしょう? あれは単なる形式上の表現よ。要するに、私たちが来たってこと」


「は、はい! その通りです!」


大神官じゃなくてよかった! そう、少なくとも「あの」大神官じゃなければ、それでいい!


「それで……その……あれって二ヶ月……三ヶ月くらい前の手紙でしたよね?」


「ううぅ──、言わないでルミナスちゃん──」


えっ?ニーラさん、どうしたの?


「わ、私たちはここへ直行したわけじゃないのよ。道中でいくつも仕事を片付けてきたんだから! それに……」


「それに……?」


「大神官様が『転移魔法陣』の使用予算をくれなかったの! ずっと歩いてきたのよ! うぅ! 本当に辛かった! 疲れたわ! 一月に出発してからというもの、仕事か徒歩の毎日なんだから!」


「みっともないわよ! それでも『オリシウス中央聖教会』の神官なの!?」


うわぁ……フェニャさん、非情だわ。でも『転移魔法陣』か……。そういえば私も、あの日王都から数日間馬車に揺られてここへ来たんだった。今思えばあれも結構ひどい話……。もしかして、あの馬車代もアリネーの方が支払ったんじゃないかしら? あのケチな大神官なら十分にあり得る話だわ。


「だってぇ……フェニャさんだって足の皮が剥けちゃったじゃない。疲れてるでしょ?」


「ふん、修行に比べたら全然大したことない!」


出た、フェニャさんの決め台詞。……あれ? えっ……えええっ!? しまった、私、アリネーの前で同じこと言った気がする!? 私……洗脳されてる! 屈辱だわ! 屈辱!


「さて、本題に戻ろうか。神官ルミナス、自分の状況を簡潔に報告しなさい。それから、ここで楽しんで……コホン、居住しているとは一体どういうつもりだ!? お前はまだ、我が『オリシウス中央聖教会』の神官である自覚があるのか!?」


フェニャさんの視線が、私を椅子に釘付けにするかのように突き刺さる……。え? たのしん……? 今、絶対「楽しん」って言ったよね?


「それは……あの……報告書には……ちゃんと、書いておいたつもり……ですけど?」


「あんたの口からもう一度聞きなさいって言ってるの。そうでなきゃ、私たちがわざわざ出向いてきた意味がないでしょう?」


「え、えっ?」


どういうこと? 何のため? 私のボロを出させるためってこと? これ……敵意が剥き出しすぎじゃない? おかしいわ。曲がりなりにも私は聖教会に忠誠を誓って……あはは、そんなこともなかったわね。


分かった。それなら最後まで付き合ってあげようじゃない。初めてのことじゃないし、かかってきなさいよ。


「お客様、紅茶でございます」


ヴィルマさんが来た! よかった、ナイスタイミング!


「あ、ありがとうございます」


「ありがとう!」


「ルミナスさん、私はドアの外におりますので、何かございましたらお申し付けください」


「分かりました、ありがとうございます、ヴィルマさん」


ヴィルマさんは音もなく去っていった。けれど、あえてドアの外で待機してくれるのは、私をサポートするためだよね? 愛してるわ ヴィルマさん! それにわざわざ「ルミナス」って呼んでくれたし。うん、分かったわ。


「それでは、今回の派遣任務における私の活動状況について、ご報告させていただきます……」


私が『フローラ』へやってきたのは、アリネーがお父様の名義で『オリシウス中央聖教会』に要請を出してくれたからだ。神官を冒険者としてこちらに派遣してほしい、という内容で。


神官が冒険者として外勤するのは珍しいことではない。これまでに多くの先例があり、数多くの神官が各地の冒険者ギルドへと派遣されてきた。名目上は支援だが、実態は神官に仕事をさせ、その報酬を中央へ上納させるためだ。


我が『フローラ』にも以前、一人の神官が来ていたらしいけれど、能力の問題で収入が芳しくなかったため、呼び戻されたという。けれど中央は、彼女がDランク冒険者の身分しか与えられず、高報酬の依頼を受けられなかったことが低収入の原因だと考えたようだ。


そこで今回、アリネーの要求に対し、中央は「最初からBランク冒険者の身分を保証するなら神官を派遣する」という条件を突きつけた。アリネーはもちろん二つ返事で承諾したわ。


この外勤神官のポストを、私はずっと狙っていた。いつ空くか分からないこの座を射止めるため、私は担当の「あの」大神官の選考方針や好みを徹底的に研究しておいたの。彼の方針はズバリ、「役立たず」を送ること!


そう、彼は紹介料を受け取っておきながら、いつも最低ランクの神官ばかりを冒険者として送り出す。なぜなら、優秀な者や治癒の奇跡に優れた者は、、高額な給与が見込める貴族のお抱え医師として送り込んだり、各地に支部を作らせて領主の補助金や信徒の寄付を吸い上げさせたりする方が、中央にとっては都合がいいから。


聖教会の運営や貧困救済、孤児院の維持、次世代の育成に資金が必要なのは理解しているわ。それは仕方のないこと。でも、あの一部の器の小さい大神官たちは本当に鼻につくわ! どうしてオリシウス様に仕える身でありながら、身内に優しくできないのかしら?


とにかく、冒険者としての外勤なら、目立たない低級神官である私の条件は完璧だった。さらに、わざと彼の前で時々小さなミスをして「目の上のたんこぶ」になるよう仕向けたの。結果、派遣の要請が来た時、彼は本当に私という「たんこぶ」を外へと追い出した! あぁ~、これぞオリシウス様の奇跡! 感謝します、我がオリシウス様!!!


おかげで、私は自由になれた!


お兄ちゃんを探しに行ける! ずっと想い続けてきたお兄ちゃんを!


けれど予想外だったのは、『フローラ』に着くなり──死にかけたけれど──アリネーに出会えただけでなく、お兄ちゃんとも再会できたこと! まさにオリシウス様の奇跡! 奇跡が立て続けに私に舞い降りたの! 重ねて感謝いたします、最愛のオリシウス様!!!


というわけで、私はギルドで臨時パーティーを組んで迷宮探索をしていることを彼女たちに報告したわ。その後は伯爵家の指示でAランク冒険者の『流星』さんと組んで攻略していること、収入も少なくないこと、さらに収支報告もきちんと提出しているとね。


「その……十一月までの収入報告は確認したわ。明細が何一つないのに、あの数字だけが踊っているのはどういうことかしら?」


「あの数字? どういう意味ですか? ま、まさか少なすぎた……とか? えっ?」


問題ないわよね? 二ヶ月に一度の上納で、基本生活費を除いた七割を納める決まり。生活費はアリネーに頼んでしっかり計上してもらったし、魔晶石は報酬として受け取らず、すべて冒険者小隊『レッドスピネル』の名義にしてもらうようお願いしてある。それでも、提出した数字は十分妥当な……はずよね?


まさか……バレたのかしら!?


「逆よ、ルミナスちゃん! あなたが十月と十一月に上納した額……この二ヶ月で合計三百枚近い銀貨を納めているのよ!!!」


「えっ?」


「チッ。どうやって稼いだの? どんな手口を使ったわけ?」


「そんな言い方はやめてください、フェニャさん! ルミナスちゃん、私たちが言いたいのは、あなたの実績が良すぎて、どうやってそれを成し遂げたのか詳しく知りたいってことなのよ!」


良すぎた? しまった、色々差し引いてもまだ多すぎたかしら?


「え、ええ!? わ、私には分かりません! そ、そそんなに多いんですか? 他の神官の方の状況なんて知らないものですから……」


「上納が七割で銀貨三百枚ということは、元の収入は約四百二十枚。一ヶ月平均で二百十枚ね。報告によれば伯爵邸の宿泊費が月四十枚だから、平均月収は二百五十枚。新人冒険者の三、四倍、正規のBランク冒険者の中でも上位に食い込む数字よ。」


ちょっと待って、フェニャさん!!! あなた計算の鬼ですか!? な、な、なんでそんなに相場に詳しいのよ!!!! ずっと中央勤務じゃなかったの!?


「へぇ~、まさか私がそ、そんなに優秀だったなんて。本当に知りませんでした! あら!フェニャさん、冒険者の相場に詳しいんですね、本当にすごいです!」


「おべっかを使っても無駄よ。責めているわけじゃない、ただ何があったのか説明しなさいと言っているの。ありのままを話しなさい」


ありのまま話せばいいの? じゃあありのまま……話すわけないじゃない。


お兄ちゃんとアリネーが命懸けで手に入れた成果を、二人が私を可愛がってくれているからと、無頓着に分けてくれたものなのよ。正直に話して中央に筒抜けになったら、最悪の場合、二人からもっとむしり取ってこいなんて強要されかねないわ! 絶対に嫌よ。


「あぁ~、なるほど。実は、運が良かっただけだと思いますよ?」


「運?」


「そうです! さっきも言った通り、伯爵家の要請で『流星』という二つ名のAランク冒険者とパーティーを組んで依頼をこなしたんです。あの戦士が、もう、と、と、と、とにかく凄くて! 私は彼の後ろについていくだけで、何もせずに突っ立ってバフをかけたり回復したりするだけで、彼が次から次へと魔物を倒して、依頼をどんどん片付けちゃうんです!」


「本当なの?」


「もちろんです、今言ったことに嘘偽りはありません!」


そう、事実を言っているだけ。


「そんなに優秀な冒険者が、どうして自分のパーティーを持っていないの? なぜあなたを誘ったのかしら?」


「お二人はご存じないでしょうけれど、あの『流星』と呼ばれる冒険者は、私と組む前までは悪名高かったんですよ! 詳しい内容は……あまりお話ししたくないんですけど、とにかく……」


「いいえ、詳しく話しなさい」


えぇ~? 分かりましたわよ~……。


「はい。噂によれば……極度の協調性不足、仲間の撤退指示を無視する、痛覚がない、戦うことしか頭にないバーサーカー……それから……」


「それから?」


「言いにくいですよ。やっぱり言わないでおきます~」


「はっきり言いなさいと言っているでしょう。何か隠し事でもあるの?」


あなたが言えって言ったんですよ~。じゃあ、言わせてもらいますね。


「いいですよ。あとはその、迷宮の奥深くの誰もいない場所で、スタイルのいい派手な女の子を連れ込んで、エッチなことをよくしてるんです!」


一気に言い切った! どう、この勢い?ヴィルマさんから盗んだテクニックですよ。


「えっ!!! エ、エ、エッチなこと!? か、彼、その人は ルミナスちゃんに何か酷いことしたりしてないでしょうね!?」


ふふふ……ニーラさん、耐えられなくなってる~。あの年増女の方は? ははっ、あっちもポカンとしてる!


酷いこと……。むしろ、何かしてほしいくらいですけどね、あの勝手なヤツには。


「ただの噂ですよ。本当はあの人、結構おとなしいんです。実力はあるのに中傷のせいでパーティーが組めなくて、だから伯爵家が私にサポートを命じたんです」


「でも報酬は……彼はどうやってあなたに分配しているの?」


「普通に半分ずつですよ!」


「半分ずつ!? ルミナスちゃん? あなたはサポーターでしょう? 折半なの?」


「違うんですか? 二人のパーティーなら一人半分ずつ。彼もそう言ってましたし、他の方は違うんですか?」


「えっ!? つまり、その『流星』という戦士は、自分の悪評のせいでパーティーを組むための取り分を釣り上げている……。そういう解釈でいいのかしら、フェニャさん?」


「ええ……ルミナスと組むことで風評被害を受けるリスクを考えれば、高い報酬は妥当な補償と言えるわね。不合理ではないわ」


ははは、でしょう! 私は事実を言っているだけですから!


「だから運が良かったんですよ! なんて言うか……縁があった、みたいな?」


「その件については理解したわ。まあ、妥当な理由ね。そうでなければ、あんたの実力でそんな実績を出すなんて不可能だし。詐欺か何かじゃなければね」


詐欺?


ああ~、分かりました。中央がわざわざ彼女たちを寄越したのは、私が悪いことをして中央聖教会の名誉を汚していないか心配だったからなんですね。ふん! 失礼しちゃう。


「そんな言い方しないでください、フェニャさん! ルミナスちゃんも頑張ったんですよ、きっと! そうでなきゃ、その『流星』っていう冒険者さんも、ずっとそんなにお金を分けてくれないはずですもの。」


「では次の質問よ。なぜ伯爵の家に住んでいるの?」


伯爵「様」って呼びなさいよ! 礼儀を知らないんですか?


「伯爵『様』のお宅に住んでいるのに特別な理由なんてありませんよ~。伯爵家の方々がすごくいい人で、誘ってくださったから、お言葉に甘えて住んでいるだけです。でも、ちゃんと生活費は払っていますよ。城下の宿屋の相場を参考にしています。……引っ越した方がいいですか?」


「いいえ、そのまま住み続けなさい。これは大神官様の指示よ。」


変なの。わざわざ住み続けろなんて。中央はお父様と仲良くしたい下心でもあるのかしら?


「じゃあ、次の質問。これは私たちの個人的な質問よ」


ん? 中央の指示じゃなくて、彼女たち自身が聞きたいこと?


「『フローラの聖女』って、一体どういうことかしら?」


えっ!?


「そうよ、ルミナスちゃん! ここへ来る途中で聞いたの。フローラの街に聖女様が現れたって。詳しく聞いたら、あなたのことじゃない! どうしてあなたが聖女なんて呼ばれているの?」


「あ、あははは……。それはただの誤解です! 領民の人たちが尾ひれをつけて広めちゃっただけで! ほ、本当は一度だけ、無償で何人かの領民を治療したことがあって、彼らが喜んで勝手にそう呼んでるだけなんです! 一月の報告書でも説明しました! そうです、お二人が旅の途中で知らなかっただけですよ!!!」


「治療をしたのは分かったわ。でも、あんたの治療の奇跡って、聖女なんて呼ばれるほど凄かったかしら?」


「そ、それは領民たちが珍しがっただけですよ。わ、わ、私の奇跡の能力は昔から何も変わっていません。私の実力はお二人が一番よく分かっているでしょう?」


「……それもそうね。一般の農家の人たちが聖教会の奇跡をよく知らないのは普通のことだわ。そう思いませんか、フェニャさん?」


「不合理ではないわね……。どのみち中央には報告済みだと言うなら、これ以上追求はしないわ。じゃあ……聞くべきことは聞いたし、あんたの部屋を見せてもらいましょうか」


「へ、部屋? どうしてですか?」


「ちゃんと自律した生活を送っているか、中央の顔に泥を塗っていないか確認するためよ」


えぇ~? 本当に見るの? 私はこっそりニーラさんに視線を送った。……助けて~……。


「泥を塗るなんて大げさだけど、あなたが今ちゃんと自分を律して暮らしているかは、私も気になるわねぇ~」


えええええ!ニーラさんまで!? 部屋……私の部屋……。片付いてる、よね? 昨日メイドさんが掃除してくれたし……大丈夫なはず……。……はず!? しまった! 机の上に置いてある、読みかけの「あの本」!!! ダメだ! あの本を彼女たちに見られたら一大事よ!!! ど、ど、どうしよう!? ドアを開ける瞬間に『超自己加速』を使って本を隠すしかない!?


「ヴィルマさん~……」


「いかがいたしましたか、ルミナスさん?」


「かくかくしかじか……(小声)」


「客間をご覧になるだけでしたら問題ございませんが、ここは伯爵様のお邸宅です。礼儀をわきまえ、勝手な行動、物品への接触、勝手な見分、そして私語はお控えください。お二人はルミナスさんの客人ですが、伯爵邸は『軽々しく』見学できるような場所ではないのです。それでも向かわれるのでしたら、私が三名に同行いたしますが、いかがなさいますか?」


「え、ええ……。じゃあ、私たちは……」


(ちょっと待って、フェニャさん!)


(どうしたの、ニーラ?)


(やっぱりやめておきましょう!メイドさんがああ言うのは、遠回しに敬意を払えって暗示してるんですよ! 今になって思えば、こんな伯爵家を『軽々しく』見学しようなんて、本当に失礼極まりなかったです!もし恨みを買ったり、私たちの不作法のせいで中央とここの伯爵が仲違いしたりしたら、責任なんて取れないわよ!)


(……そうね、あなたの言う通りだわ)


「失礼……無作法でした。見学の話はなかったことにしましょう。」


やったぁ~! さすがは私のヴィルマさん! 大好き!


「承知いたしました。では、私はこれで失礼いたします」


「はぁ……。さて、私たちはここに三日間滞在して、水曜の朝に王都へ戻るわ」


「いいですね! 三日間も『フローラ』にいられるんですか?」


フェニャさん、あなたはゆっくり休んでてね? 私はニーラさんと積もる話をしたいから。


「だから明日と明後日は、あんたの仕事ぶりを見学させてもらうわよ」


「えええええっ!!!」




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