二十三、稀世の傑作
私たちはアマラお祖母様の案内に大半の時間を費やしました。邸宅へ戻る道すがら、アリネーはここ数年、特にこの半年間に起きた出来事を熱心に話し続け、さらには魔法工房も見せたいとはしゃいでいました。
「あなたたち三人だけで『地下城』を攻略したというの?」
「そうですよ、お祖母様。お祖母様も攻略に挑んだことがあるんですか?」
「当然よ。『地下城』といえば六大迷宮の中でも三本の指に入る難関だもの。若い頃に当然試したわ」
「お祖母様たちはどこまで行けたんですか?」
「私と私のパーティーは、深層の副階層主のところまでね。……あそこは、今もあの死霊魔法使いが守っているのかしら?」
死霊魔法使い……それって、うちのパルちゃんのことですよね。
「ええっ! お祖母様!?あの『無限魔物召喚の部屋』はどうしたんですか? 仕掛けは解いたんですか?」
「何を言っているの?」
「中層の階層主の前に、魔物が絶え間なく召喚される部屋があったでしょう?」
「ああ、そんなのもあったかしらねぇ。ええ、次から次へと現れる魔物を叩き潰して……結局三十波くらい戦ったのかしら? 大体そんな感じだったわ」
「ええええ!!! お祖母様のパーティーは力押しで突破したんですか!? 仕掛けを解かずに? 一体何人のパーティーだったんですか?」
「当時は十二人の大編成よ。……何よ、その言い草は。まさかあそこ、戦わずに済む仕掛けがあったというの?」
「あったんですよ!」
「思いもしなかったわ。でも、あの時はそれ以降、無理に攻略を続けようとは思わなかったから、研究もしなかったのよね」
「では、アマラお祖母様のパーティーでも、あの死霊魔法使いには勝てなかったんですか?」
「パーティーが持ちこたえられなかったのよ。あの死霊魔法使い、最初から十二体もの『魔晶スケルトンソルジャー』を召喚したでしょう? 前衛たちがそれを見て戦意を喪失してしまったの。だから撤退せざるを得なかったわ」
「ただの『魔晶スケルトンソルジャー』ですよね?アリネー、私たちが戦ったのと何か違うんですか?」
「おそらく同じものだと思うけれど……。お祖母様、もしかして当時のパーティーには『闘気纏身』の戦士がいなかったんですか?」
「いたわよ。でも『闘氣纏身』の戦士なんてそう簡単に見つかるものじゃないわ。当時は一人いただけでも豪華な編成だと言われたものよ。けれど、それでも攻撃力が足りなかった。メイン武器を数本もへし折って、ようやく副階層主の部屋に辿り着いたのが精一杯だったわ」
メイン武器を数本も折った? なぜ?
「それに……みんな割に合わないと感じたのよ。あまりにも危険すぎるし、何より『地下城』の魔晶級モンスター――あの魔晶骨の硬度が高すぎて、装備や薬の消耗が激しすぎた。数日間潜っても完全に赤字だったわ。一番の要因は、一人しか突破口になれる戦士がいなくて、戦術のバランスが崩壊していたことね」
おかしいですね。……私たちの経験――『レッドスピネル』での攻略とは、話が食い違っているような気がします。そんなに難しかったでしょうか?
「それで、あなたたち三人だけで突破できたというのは、どういう仕組みなの?」
「それはですね……お祖母様。まず、あたしたちには二人の『闘氣纏身』の戦士がいました」
「二人!?アリシア、あなただけじゃないの? ヴィルマ ……いえ、あなたたちが言っていた、あの『流星のアシラン』かしら?」
「はい!アシランくんです!アシランくんはすごいんですよ! あたしよりも強い『闘氣纏身』の戦士なんです!」
アリネー、お兄ちゃんの話題が出た途端、全身がキラキラ輝き出しましたね。
「どうして今の世代はそんなに『闘氣纏身』がゴロゴロいるのかしら。アンドレ本人に始まり、彼が教えたあなたやヴィルマ。さらにその『流星のアシラン』とやらまで?」
「違いますよ!ヴィルマおば様やあたしはお父様から教えを受けましたが、アシランくんは独学で身につけたんです!彼こそが本物の天才なんです!」
「へぇ……そんなことがあるのね」
「でも、実際のところどうなんです?アリネー。どうして魔晶級の魔物相手にあんなに余裕だったんですか?『闘氣纏身』の戦士が一人増えただけですよね?」
「それはね、ルミちゃん。お祖母ちゃんが教えてあげるわ。『闘気量』と『精錬度』の差よ。その二つが十分であれば、武器に纏わせた闘気は、魔晶骨を断ち切るほどの強度を得ることができるの」
「はい! お兄ちゃんもそんなことを言っていた気がします。つまり、切断できるかどうかが鍵なんですね?」
「その通り。一点突破力の重要性ね」
「ふむふむ……アリネーとお兄ちゃんは『精錬度』がものすごく高かったから、魔晶骨もスパスパ切れたんですね。どおりで深層の第三区域でも、野菜を切るみたいにサクサク進めたわけです」
「野菜を切るみたいに? ……ルミちゃん、今の言葉、聞き捨てならないわね。アリシア、一体どういうことなの?」
「それは……二つ目の鍵。ルミィの『霊魂鼓舞』のおかげです」
「『霊魂鼓舞』は知っているわ。でもそれが一体……待ちなさい、アリシア。『霊魂鼓舞』で闘気量がどれくらい跳ね上がったというの?」
「あたしの観察では、少なくとも五倍は上がっていました」
「五倍ですって!?」
アマラお祖母様は絶句してしまったようです。私にはまだよく飲み込めていないのですが、彼女はいきなり私の肩をガシッと掴みました。
「ルミちゃん、お前は……全く、稀代の至宝だな!!!」
「ええっ!? ど、どういう意味ですか!?」
…
…
…
話し込んでいるうちに、私たちは邸宅へと戻ってきました。私はそのままお二人には付き合わず、自分の部屋へと戻りました。私には、成し遂げなければならないことがあるからです。
部屋に入り、私は『レモンお兄ちゃん』のぬいぐるみを抱きしめて、小さなソファに深く腰を下ろしました。
ふわりと、心地よい香りが鼻腔をくすぐります。
昨日受け取った『聖教会の御命』。その中身はすでに焼き捨てました。今、私のデスクの上にあるのは、空になった封筒だけです。
もちろん、御令の内容はすべて脳裏に刻み込まれています。
──期限は、二週間。
「ルミィ、この『フローラの祈りの間』は二週間後にオープンするわ。あたしたちと『オリシウス中央聖教会』に深い付き合いはないけれど、礼儀として、開幕式の招待状を中央聖教会に送っておいたの」
「それで、中央からは誰か来るんですか?」
「最初は誰も来ないと思っていたわ。でも、返信にはこうあったの。……大神官オランディ様を派遣する、って」
「ええっ!!!?」
これが、今日『フローラの祈りの間』を見学した後、アリネーがこっそり教えてくれたことでした。
だからこそ、御令の期限が二週間だったのです。報告すべき相手である大神官オランディが、自らここへやってくるから。
『聖教会の御命』。それは中央聖教会出身の……いえ、聖教会のすべての神官にとって絶対の命令。失敗や怠慢は、神官資格の剥奪と、奇跡の権能の回収を意味します。
けれど、今回の任務内容はあまりに……。
一度は自分の中で答えを出したつもりでした。神官でなくなっても構わない、奇跡を呼ぶ力がなくなってもいい。 お兄ちゃん とアリネーさえいれば、私は幸せなのだと。
たとえ私が力を失っても、二人は変わらず私を愛してくれる。それは確信しています。
なら、恐れることなんて何もない。
冒険者のいろはをまた一から学んで、今度は魔法使いを目指すのもいいかもしれません。教師の仕事だって続けられるはずです。
ですが、アマラお祖母様は何度も私に示唆しました。「自分の才能を簡単に投げ出すな」と。
彼女の言う通りです。本当は、私はこれからもこの奇跡の力で多くの人を助けたい。現状に甘んじるのではなく、自分に何ができるのか、どうすればもっと尽くせるのかを考え抜くべきでした。こんな簡単な道理なのに、自分のこととなると、どうしてすぐに見失ってしまうのでしょう。
結局、すべては原点に戻ってきました。
でも、それは「今」悩むべきことではありません。
「よし、始めましょう! 私の最高傑作を!!!」
聖教会の御命? そんなもの、どこかへ飛んでいってしまえ!!!
「さあ!!!」
私は勢いよくキャンバスの覆いを取り払いました。そこには、アンジェママの舞う姿を描きかけの絵が現れます。
アマラお祖母様との約束のためにも、一刻も早くこの絵を完成させなければなりません。
どのような効果があるかは分かりません。でも、私の直感が「この絵を完成させろ」と強く告げているのです。
私は細部を削り出すように、筆を動かし始めました。
…
この二日間で、アマラお祖母様のことが少しずつ分かってきました。彼女とアンジェママの間に横たわる深い溝も。二人とも成熟した大人ですから、決定的な部分に触れなければ、表面上は平和に過ごせます。
アマラお祖母様は卓越主義者です。だからこそ、若かりし日のアンジェママに常に高い要求を突きつけました。
けれどそれは、彼女が自分自身の身を守り、この乱世を生き抜く力を身につけさせるための親心でもあったはずです。お祖母様は「親は子を愛するものだ」という私の言葉を否定しませんでした。
若き日のアンジェママには、確かに一族の才能がありました。ただ、彼女はダンスに心を奪われてしまった。もしあの時、きちんと言葉を交わせていたなら……ダンスを続けながら学ぶという道もあったのかもしれません。(あくまで想像ですが。)
今日のアマラお祖母様の反応を見る限り、彼女はアンジェママを見直し始めているようです。お祖母様は、アンジェママが家を飛び出した後、何も学ばず無為に過ごしてきたと思い込んでいたのでしょう。だからこそ、アリネーの優秀さは突然変異の天賦の才であって、アンジェママの教育とは無関係だと決めつけていた。
けれど、アリネーの目から見たアンジェママは「何でも知っている万能な母」であり、実際、領内にある『転移魔法陣』のような名もなき功績が厳然として存在しているのです。
なぜこれほどまでの認識のズレが生じたのか。それはひとえに、アンジェママが意地を張り続け、自分の努力や成果を一切お祖母様に話さなかったからに他なりません。
私の持つ筆が、飛ぶようにキャンバスの上を躍ります。アンジェママの表情を思い浮かべ……背後にある真実を知った今、私の理解は以前とは違っています。私は作画を修正しました。
アンジェママが求めていたのは、承認……。いいえ、「公平で客観的な視線」です。
──彼女はこの十七年間、努力して知識を蓄える傍ら、隠れてダンスを磨き続け、あの絶世の舞を完成させた。
アマラお祖母様は、娘に立派になってほしかった。安穏とした生活を送ってほしかった。
──事実、アンジェママはすでに、誰もが認めざるを得ないほど立派で優秀な大人になっていた。
でも……。
アンジェママの反抗がなければ、今日のアリネーは存在しません。
アマラお祖母様の独善的な教育がなければ、その後の物語も始まらなかった。
だから、結果として見れば、二人はどちらも間違っていなかったのです。「全ては運命の導きです」。
それはアンジェママの口癖です。私が「オリシュスの奇跡」と言うのと同じように。
今なら分かります。なぜ彼女がその言葉を口にするのか。
──彼女は反抗し、必死に抗い、けれど最後には妥協を選び、夢とは無縁の人生を歩んできた。
──本来なら悔やみ、恨むべき人生だったはず。けれどアリネーの誕生と成長が、彼女の人生に新たな意味を与え、悔いも恨みも消し去ってくれた。
それが「運命の導き」。アンジェママの半生そのもの。
私は何度も何度も筆を重ねながら、自問自答しました。
「あの時、アンジェママはどんな気持ちで隠れて踊り続けていたの?」
脳裏に、アンジェママとアマラお祖母様が魔法で激しくぶつかり合い、やがて引き分けて互いを認め合う……そんな光景が浮かびました。
……いいえ、違います。アンジェママは戦闘タイプではありません。そんな解決はありえない。
やはり、鍵はダンスです。二人は互いをどう見ている?
『ダンスなんてすべきじゃなかった。私が止めさせたのは正しかった。だからこそ今のあなた、立派な伯爵夫人でアリシアの母であるあなたが出来上がったのよ』
──これが現在のアマラお祖母様の考え。だからこそ、自分は正しかったと信じている。
『踊りたかった。家を捨ててでも。……実はお母様が知らないだけで、私はやるべきことをこなしながらでも、こんなに立派に踊れるようになったのよ。でも、絶対に教えてあげない。だって、お母様は私のことをまともに見てくれないもの』
──アンジェママはきっと、そう思っていたはずです。
「さあ! 私を見なさい!」──それは、アンジェママが教えてくれた『踊り手の心』の神髄。そして、彼女自身の心の叫び。
もし、彼女がその言葉を誰に向けて叫んでいたのかと問われれば……それは観客でも、世界中の人々でもありません。
……ああ、そうか。私はずっと勘違いをしていた。だから描けなかったんだ。
…
…
…
「あああああ!完成しました!!!」
あの日から、私はギルドの仕事以外の時間を計三日間注ぎ込み、ようやくこの絵を描き上げました。
おそらく、私の中で答えが出たからでしょう。修正したい箇所が次々と溢れ出し、表情だけでなく背景までも大幅に変更した結果、三晩を費やすことになってしまいました。
自分では神速の筆致で描いたつもりだったのですが。
なんとかアマラお祖母様が出発される前に間に合いました。
「これ……私……」
私はあまりの疲労に、そのままベッドに倒れ込み、意識を失ってしまいました。
…
…
…
コンコンコン……。
「ルミ嬢?もう朝ですよ。今日はギルドのお仕事はありますか?」
目が覚めると、もう金曜日の朝でした。凝り固まった肩を動かしてみると、どうやら一晩中ピクリとも動かずに眠りこけていたようです。
「あ、イシャっちですか?今起きます」
金曜日はイシャっちがこの邸宅へ見習いメイドとしてやってくる日です。
「洗面用のお湯をお持ちしました。入ってもよろしいでしょうか?」
「ん……?ええ……いいですよ、どうぞ……」
イシャっちが部屋に入ってきました。水盆をそっと置き、足音をほとんど立てずに私に近づき……あっ!?
彼女の視線が一瞬、私の油絵に止まりました!昨日、描き終えた後に布をかけずに寝てしまったんです!すっかり忘れていました!
「これ……はは……イシャっち、あなたは何も見ていない、そうですよね?」
「はい、私は何も見ておりません」
「いやいや!?絶対見たでしょう!?見ちゃってますよね!」
「問題ありません。ルミ嬢が見せたくないとおっしゃるなら、メイドである私に視界は存在しません。アンジェ奥様の舞う姿は、私の脳内から一時的に消去されました」
「『一時的に消去』って言っちゃってるじゃない!!!」
「ふふっ……ルミ嬢、私にお手伝いさせてください。計画の内容は存じ上げませんが、協力者がいた方がよろしいでしょう?これほど大きな絵を、まさかお一人で運ぶおつもりではありませんよね?」
「ええっ!?イシャっち!大好きです!」
今思えば、本当にあなたが必要でした!
…
…
…
夜、私たち家族は全員で食堂に集まり、夕食を摂っていました。
「それでね、お祖母ちゃんはこの一週間、本当に楽しかったわ。アリシア、あなたがたくさんの新しいものを見せてくれたおかげよ。本当によく頑張っているわね、お祖母ちゃんは嬉しいわ」
「そんなことありません!全部があたしの手柄というわけではないんです」
「さて、お祖母ちゃんはそろそろ出発しないといけないわ。予定より二日も長居してしまったもの」
「ええ~、お祖母様もう行っちゃうんですか?寂しくなります」
「ははは、私も寂しいわよ。でもお祖母ちゃんにも先約があってね、これ以上お待たせするわけにはいかないの」
「……分かりました。それで、お祖母様はいつ出発されるんですか?」
「そうね……明後日の朝にしましょうか。もう一日だけ居させてもらうわね」
「やったぁ!明日は週末ですから、お休みです!またお祖母様と一緒に過ごせますね!どこへ行きましょうか……」
突然アマラお祖母様が発たれることになり、なんだか実感が湧きません……。でも、幸いなことに私の絵も完成しています。
「アマラお祖母様!私たちの約束、覚えていますか?」
「もちろんよ、ルミちゃん」
「約束?ルミィ?何の約束なの?」
「私の新しい油絵のことです」
「油絵?」
「そうなのよ、アリシア。あの日、ルミちゃんの部屋で布がかけられた油絵を見たのだけれど、そこから放たれる異常に強力な『魔力記憶』に惹きつけられてしまってね」
「ああ、それは普通ですよ。ルミィの描く絵には、いつも強い『魔力記憶』が宿っていますから」
「でも、ルミちゃんは見せてくれなかったのよ。おかげですごく気になってしまって。それで、出発する前に見せてくれるという約束をしたの」
「ああ、そういうことだったんですね」
「ええ。さて、ルミちゃん。ようやくその絵を見せてくれるかしら?」
私はそっとアンジェママを伺いました……。きっと、大丈夫ですよね。
「はい……イシャっち!」
「はい!」
「準備はいいですか?」
「すべて整っております。皆様がお食事をされている間に、ルミ嬢の作品は大広間へ運んでおきました」
「助かりました、ありがとう!それでは皆さん、私のこの稀世の傑作を一緒に見に行きましょう!」
「はははは……」
私がいつも自分の絵を『稀世の傑作』と呼ぶので、みんな慣れっこになっています。よし!問題ありません!誰も異常には気づいていないようです!
「へへへ……」
私たちは大広間へ移動しました。私の油絵は大広間の中央にあるイーゼルに置かれ、相変わらずあの布がかかっています。私は歩み寄り、布をほんの少しだけめくって状況を確認しました。……よし、大丈夫!
準備のために今日のギルドの当番も早めに切り上げたのですが、やはり私一人では無理なこともありました。イシャっちが手伝ってくれて本当に良かったです。
それでは……ふぅ……。
「コホン。えー、私の稀世の傑作をお披露目する前に、まずは皆様に解説をさせていただきます!」
パチパチパチパチ……。
アリネー が真っ先に拍手をしてくれました。あはは、嬉しいです。
「実は、およそ二ヶ月前、私はある夢を見ました。そして……その光景を目にしたのです……。それは、あまりにも、あまりにも美しく、私の心に深く焼き付いて離れませんでした。ですから、私はその光景を絵に描きました!それがこの作品です!……」
「……皆様!私の新作をご鑑賞ください!『夢蝶の舞姫』!」
…
…
…
アンジェママが眉をひそめたのが見えました。でも、大丈夫!
私は勢いよく布を跳ね除け、作品を披露しました!布をめくった瞬間、額縁にライトが反射し、場は一瞬にして静まり返ります。全員の視線が、完全に私の絵に釘付けになりました!
金色の額縁の中に描かれているのは、一人の踊り子の姿!
「これ!?ルミィ?」
「アリネー、焦らないで! まだ話は終わっていませんから!」
「う、うん……」
「皆様! これこそが、私が夢の中で見た舞姫です! 幻影のように儚く、それでいて真実味を帯びた彼女の舞は、私の心に深く刻まれました! まさに幻の蝶が夢に入り込み、妖精が現れ、女神が降臨したかのようです!」
私がそう言い切った瞬間、その場にいた三人の表情がぴくりと動きました。アリネーはもちろん、アンジェママもアマラお祖母様もです! やっぱり! あなたたち三代は全員『嘘見破り』持ちなんですね!? 私の予想通りです!
「きっと、私が最近ずっとダンスの練習をしていたから、日中の思いが夜の夢になったのでしょう!」
あはは、三人とも、『嘘見破り』の警報が鳴りっぱなしでしょうね!? でも、まだ終わりじゃありませんよ!
「そして、どういうわけか夢の中の舞姫の顔だけが思い出せなかったのです! ですが、私の心には自然と、最も相応しい舞姫の顔が浮かんできました。そう! 皆様が見ている通り!アンジェママのお顔です!」
皆の後方に立っていたアンジェママは眉を固く結び、気まずそうな……いえ、いつもの『アンジェママの微笑み』を浮かべていました。
でも、構いません!
「皆様、いかがですか! 上手く描けていると思いませんか!? あの女神が降臨したような感じが出ていますか!?」
「わあああぁ……出てるわ!ルミィ、あなたすごすぎる! さっきのデタラメな説明はともかく、この絵は本当に綺麗! この舞う姿……美しくて、息を呑むほどだわ! それに、この顔はどこからどう見てもお母様じゃない!お母様、見てください!ルミィがお母様を描いたんですよ! ……『踊り手の心』まで描き出されているわ! 本当にすごい!」
「ああ、アンジェ、見てごらん。ルミちゃんが君をこんなに立派に描いてくれた。筆致がなんて繊細なんだ。顔が似ているだけでなく……これ、これはどういうことだ?」
お父様も気づいたようです。これが単なる想像ではなく、現実の光景であることに。当然ですよね。アンジェママを深く愛しているお父様なのですから。
「これは……」
お父様が絵に近寄りました。
「ありえない。ルミちゃん、これ……一体どういうことなんだ? まさか……君、君は『見た』のか?」
えっ? な、何ですかその質問? 私が見た? 何を? いえ、それよりお父様、どうしてそれを知っているんですか!? 完全に私の予想を超えています!?
その時、アンジェママの微笑みが消えました。私の位置からは、彼女の顔が戸惑いと困惑で満たされていくのが見えました。
一体……どういうこと?
「見……私、何を見たのでしょう?お父様、よく分からなくて……」
だめだ、これは予定外です! ここでさらにデタラメを重ねたら……。
「……いいえ!お父様! 私は確かに見ました! でも、それは言えません!」
「やはりそうか。アンジェ……そうなんだな?」
「私は……」
普段、お父様の前であんなに強気なアンジェママが、言葉を失っています。
「もう言わなくていい。ずっと前から気づいていたんだ。裏庭に刻まれたこの数年間の足跡を、私はずっと見ていた。私の『追跡』スキルのことは知っているだろう?」
裏庭の足跡? 『追跡』スキル? まさか、お父様はずっと気づいていたというのですか?
「なっ……!!!??? そ、それじゃあ、あなた……どうして私に聞かなかったの!?」
「君が言わないのは、私に知られたくないからだと思っていた。それに……すまない、君が『それ』を失ったのは私のせいだ。私の力が足りなかったせいだ。そんな私が、自分から聞き出せるはずがないだろう……」
「だったら、今さら何を言っているのよ!!!」
アンジェママが激昂しました!アマラお祖母様との喧嘩以外で、彼女が本気で怒るのを初めて見ました。
「お母様、お父様! お二人とも……」
私はすぐにアリネーの手を抑えました。今は私たちが介入すべき時ではありません。
「私は……あ、今は違うんだ! さっきまでは知らなかった! でも、今、この目で見てしまったんだ! もう、抑えがきかないんだ!」
「何を見たっていうのよ!? ただの絵じゃないの!? 何が……」
隙をついて、お父様がアンジェママを強く抱きしめました!! なんて速い動き! ……いえ、それより、こんな大勢の前で……若輩者や年長者の前で!
正直、私の書いたシナリオを大幅に逸脱しています!
「これを見てもまだ足りないというのか!?ルミちゃんの絵をよく見てくれ! この中の君の表情を! 私でも気づいた。これはあの頃、広場で踊っていた君の顔だ。私を一目で虜にしたあの顔だ! この『私を見なさい!』という表情が! ……これほどの年月が経っても、君の踊りたいという心は、何一つ変わっていなかったんじゃないか!!」
「う……私……」
「そんな君を見て、どうしてこれ以上耐えられる!? どうして知らないふりを続けられるんだ!」
「じゃあ私にどうしろっていうのよ!!! すべてを暴いて何になるの!? 返してくれるの!? 私の夢を! もう何年も経ったのよ! すべては元には戻らない! 今さらそんなこと言って……私がこれまで積み重ねてきた努力を、全部無駄にしろっていうの!?」
アンジェママは怒り、そして泣き崩れました。
『これまで積み重ねてきた努力』……それは、娘を育てるために夢を諦め、それでも誰にも悟られないよう一人で抱え込み、娘であるアリネーに負い目を感じさせないように生きてきた、その日々のことでしょう。
(ルミィ……一体どういうことなの?)
アリネーが私の手を強く握りしめます。どこから話せばいいのか……。
(私も、こんなことになるとは……。でも、アンジェママと約束したんです。誰にも言わないって……)
(……そう。分かったわ、理解したわ。そういうことだったのね)
えっ!?アリネーのその眼差しは!?
「いいや! まだ間に合う! 君はまだ若い! 君が再び舞台に立ちさえすれば! ……今なら……父上たちはもういない。あの頃の約束だって……」
お父様の視線が、かつての約束の最後の当事者――アマラお祖母様へと向けられました。
「そうね、アンドレ。まだ、私がいるわ」




