二十、心の底に埋めた秘密
私とアリネーは連れ立って客間へと向かいました。そこに座っていたのは、今日の出演者でもなければ、名だたる貴族でもなく……一人の、質素な身なりをしながらも異国情緒を漂わせる貴婦人だった。
その方は……ええ、間違いなく「夫人」と呼ぶべき方で、年齢は四十代ほどに見える。しかし、強烈な違和感を抱かせるのは、その立ち居振る舞いや顔立ち、そして体つきから溢れ出る気品でした。ゆったりとして気高く、華やかな挙動。若かりし頃はいかほどの美女であったろうかと、思わず想像を巡らせてしまうほどです。
待ってください……これ、この方から放たれているオーラは……ま、間違いありません。初めてアリネーやアンジェママと対峙した時と同じ感覚です! まさか……いえ! 似すぎています。もし違うと言われたら、逆に信じられません!
この方こそが……。
アリネーのお祖母様!アンジェママのお母様! 『大賢者アマラ』様です!けれど、だとしたら、これって……!
「お祖母様!」
アリネーが飛びつきました! やはり正解です! 『大賢者アマラ』様ご本人でした!でも、それにしても……若すぎるにもほどがあるでしょう!!!
「ああ……可愛い初孫の顔を見に来たわよ。まあまあ、アリシア、本当に立派に成長したわね! 大きくなるにつれて、ますます可愛くなって!」
「えへへ! 背もずいぶん伸びたでしょう!?」
「ふふ、そうね。何年も帰っていなかったものねぇ。ほら、もうお母様より背が高くなっているじゃない」
「当然よ、なんといっても『私』の娘だもの! 私の遺伝子をしっかり受け継いでいるんだから、どんどん可愛くなるに決まっているわ!」
「ふん、あまり調子に乗るんじゃないよ。あんただって私の遺伝じゃないか。……まあ、娘を立派に育て上げたことだけは事実のようね。少なくとも、私よりは上手くやったみたいだわ」
えっ? 何ですか今の状況。火花が散っています? 『娘を立派に育てた』? 『少なくとも私よりは上手くやった』? それって、アマラお祖母様の娘はアンジェママですよね。どう解釈すればいいんでしょう。これ……アンジェママを褒めているのか、それとも貶しているのか!?
それなのにアリネーはといえば、どうして……? 全然わかっていない様子でぽかんとしています! そうだ!アリネーは当時の事情を全く知らないんでした! これ……これじゃあ、あまりにも不公平ですよ。
「お祖母様、お祖母様、どうして今日ここにいらしたんですか!? あと半日早ければ、あたしたちの今日のステージを観ていただけたのに!」
「ふふ、半日早ければ、かしら?」
「アリシア、騙されちゃダメよ。お祖母様の様子を見る限り、おそらく一日中客席に座って今日のステージを最後まで見届けていたはずだわ」
「ええっ!? 本当なの、お祖母様──?」
「ふふ、そうよ。ちゃんとチケットを買って入場したわ。あなたたち、今日は本当によくやったわね。イベント全体の段取りも、現場での対応も素晴らしかったわ! それに、数年見ないうちにアリシアの魔法もずいぶん進歩したようね! あの精密なコントロールには、私さえも目を見張ったわよ」
「お祖母様、全部見ていてくれたの?」
「ええ、もちろん。あの三人の殺気は朝のうちに察知していたわ。あなたたちのパフォーマンス中に、どうやって攻撃魔法を混ぜ込み、あの二人を鮮やかに制圧したか……。それに、ヴィルマちゃんが後ろの男をどうやって秒殺したかも、すべて感知していたわよ。ヴィルマちゃん、腕を上げたわね。お疲れ様、よくやってくれたわ!」
「勿体なきお言葉です。当然の務めを果たしたまででございます」
わぁ、すごすぎませんか? ……いや、待てよ。あの三人の殺気なら私にだって感知できました。ならば『大賢者』であるアマラお祖母様なら、できて当然ですよね? さすがは『大賢者』の称号、その名に恥じぬといったところでしょうか。
「それで……私たちのパフォーマンスはどうでした? お祖母様、どう思われました?」
「もちろん、最高に素晴らしかったわ! 魔法と歌と踊りをあんな風に組み合わせたステージなんて、長い人生で一度も見たことがないもの。よくやったわね! あなたたち……」
アマラお祖母様が私の方を向きました。
「あなたが、あの聖女様かしら?」
えっ!?
「お祖母様、聖女というのは冗談みたいなものですよ。彼女はルミナス。ルミって呼んであげてください。今はあたしの妹なんです」
「あら? そう。ルミちゃん、こんにちは。今日のあなたのパフォーマンスも素敵だったわよ! 甘く心に響く歌声だけでなく、あんな規模の奇跡をさらりと呼び起こせる神官なんて、長く生きているけれど本当に初めてお目にかかったわ」
「え、えええ……あ、あ、ありがとうございます、アマラお祖母様! 勿体ないお言葉です!」
「あら? 私のことを知っているのね。まだ自己紹介もしていなかったはずだけれど?」
「ええ、あたしがルミィにお祖母様のことをお話ししておいたんです」
「そういうこと。さあ、ルミちゃん、近くにいらっしゃい。ここに座って。あなたがアリシアの妹になったのなら、それは私にとっても新しい孫娘ということだわ。よく顔を見せてちょうだい」
「はい! よろこんで!」
私は歩み寄り、アマラお祖母様の隣に座りました。
「ええ……いいわね。やっぱり良い子だわ。お祖母ちゃんが抱っこしてあげましょう」
「はい! ありがとうございます、お祖母様!」
アマラお祖母様にぎゅっと抱きしめられ、思わず少し感動してしまいました。アマラお祖母様からは、どこか不思議な香りが漂ってきます。おそらく『エルフ』特有の香水の類なのでしょうか。
それから私の頭を優しく撫でてくれて、なんだか照れくさくなってしまいました。
「いい子ね。アリシア、どこでこんなに純粋な子を見つけてきたの?」
「あはは、これも一つの縁ですよ。お祖母様、ルミィは本当にすごいんですから。今度ゆっくりお話ししますね」
「ええ、ええ。でも、あまり長くは居られないのよ。二、三日したら出発するつもりだから」
「えええっ!? もっとゆっくりしていかないんですか?」
「うーん……ダメというわけではないけれど、また考えておくわね」
「お母様、この数年……特にこの一年は色々なことがあったのよ。せめてあと数日は滞在して、アリシアとゆっくり話をしてあげてちょうだい。それに、アリシアが最近成し遂げたことを聞けば、きっとお母様も帰りたくなくなるはずだわ」
「あら? そんなに面白いことがあるの? いいわ、いいわ。ならもう少し長居させてもらいましょう」
「やったー!!! お祖母様、大好き!」
「ふふ、いい子ね」
…
…
…
その後、私たちは庭園と大広間で打ち上げを開催し、今日の出演者の皆さんや主要なスタッフの方々を招待しました。イシャっち、ルカ、それにドロシーちゃんも一緒です。
みんなで和気藹々と飲んだり食べたり、異なるジャンルのパフォーマー同士が交流したりと、実になんとも賑やかな光景でした。特にアリネーは、一分一秒たりとも休まる暇がないほど代わる代わる皆に捕まって、次から次へと乾杯を求められていました。
ふう……。
少し疲れましたね。先に部屋に戻って一休みしましょう。
私はシャンパングラスを一つ手に取って、こっそりと部屋に戻り、書斎の椅子に腰を下ろしました。
窓の外に広がる澄んだ夜空を眺めながら、『聖教会の御命書』を取り出します。
「はぁ……」
どうするのが正解なんでしょうか。
コンコンコン……。
えっ? あら? 誰でしょう。ゲストの方は一階(日本式の二階)へは上がって来られないはずですが。
「どなたですか?」
「アマラよ、ルミちゃん」
えええええっ!?
私は慌てて『聖教会の御命書』を隠し、部屋のドアまで走ってアマラお祖母様をお迎えしました。
「アマラお祖母様! どうしたんですか? 私に何か御用ですか?」
「ふふ、ほら、下は活気あふれる若者ばかりでしょう。私の知り合いなんて今日の出演者くらいなものだし、一通り挨拶を済ませたら、どこの誰とも知れない年寄りに付き合わせるのも悪いと思ってね」
「うーん……そうですね、分かります。アリネーはあんな感じですから、いつも何かしら忙しくしていて、私もゆっくり話せないことがよくあるんです。でも、きっと手が空いたら、真っ先にアマラお祖母様のところへ駆けつけると思いますよ」
「ふふ、ルミちゃんは本当に口が上手いわね」
「そんなことないですよ、本当のことです。そうだ、それなら……私がアマラお祖母様のお話し相手をしましょうか? 退屈しのぎに。さあ、どうぞ中に入って座ってください! あ、私も居候の身なんですけどね」
「ふふ、面白い子。あなたはもうここの次女様じゃないの?」
「それはお父様とアンジェママが良くしてくれているだけで、自分から次女だなんて名乗るなんておこがましくて……」
私たちは小さなソファに座り、世間話を交わしました。アマラお祖母様がここ数年過ごしていた『エルフ』の『イトナの森』での生活についても聞かせてもらいました。私も『エルフ』の暮らしぶりを聞くのは初めてだったので、とても興味深く、思わず観光に行きたくなってしまうほどでした。
「私の話ばかりしてしまったわね。少しお休みしましょうか。ルミちゃん、今度はあなたのことを聞かせてくれる?」
「ええと……何からお話ししましょうか」
「そうね、今あなたの心にある悩み事から聞かせてもらおうかしら? 大丈夫なの?」
「えっ!? い、いえ大丈夫です、お気遣いありがとうございます、アマラお祖母様」
「あら?」
アマラお祖母様の視線……アンジェママにそっくりです。すべてを見透かしているようなあの目。分かりました。彼女は宴会の居心地が悪かったからではなく、私に気づいてついてきたのですね。
「すみません、確かに少し困りごとがありまして……仕事上の問題、と言いますか。実はアリネーにも聞かれたのですが、彼女を心配させたくなくて、詳しくはお話ししていないんです。本来、私自身で解決すべきことですから」
「そうなの?アリシアもそれ以上は問い詰めなかったのかしら?」
「ええ……たぶん、私を信じてくれているんだと思います。アリネーは私を甘やかしてくれますけど、正しい教育とは子供に自分で困難を乗り越えさせることだと理解しているはずですから」
「あら?アリシアだけでなく、ルミちゃんも考え方がとても大人なのね」
「そうですか? あはは、たぶん私が実習教師をしているからかもしれません。教育関係の本から学んだ受け売りですよ」
「なら、あなたの悩みは私に話す必要もないかしら?」
「ええ……対処できます、たぶん。……自分なりによく考える時間が必要なだけだと思います」
「立派だわ。お祖母ちゃんはあなたを応援しているわよ。でも本当にダメな時は、ちゃんと私たちに助けを求めるのよ」
「はい、分かりました!」
「それでね、少し気になったのだけれど、ルミちゃんの本職は神官だから、あんな風に聖詠の基礎ができているのよね?」
「そうです。中央聖教会では毎日歌の練習がありましたから、習慣みたいなものですね」
「それに、あなたは絵師でもあるのかしら?」
「えっ? はい! 部屋の絵具の匂いが強すぎましたか? ああっ!アマラお祖母様、観察力が鋭いですね」
私は少し後ろめたい気持ちになり、思わず机の横にある布を被せた未完成の絵に目をやってしまいました──アンジェママが内緒でダンスの練習をしていた、あの姿を描いた絵です!
しまった、視線を捉えられました。アマラお祖母様はアンジェママが踊ることに反対しているんですよね?
ど、どうしよう……。
い、いや違う……これは……チャンスです! でも……今の私にはアマラお祖母様の心に響くほどの重みがありません。彼女は私の言葉を信じてくれるでしょうか? どうすればいい?
賭けてみるべきですか?
分かりません。そもそも私はアマラお祖母様のことを何も知らないんです! 安易に動くわけには……。
「とても心を込めて描いている絵のようね」
「えっ?アマラお祖母様……? どうして……? だって、布を被せてあるのに」
「『魔力記憶』という言葉を知っているかしら?」
『魔力記憶』? 聞き覚えがあります……日常的に使う言葉ではありませんが、聞いたことは……。
「そ、それは聞いたことがある気がします。たぶんアリネーが言っていたかな? でも、ちゃんと理解できてはいないみたいで」
「『魔力記憶』というのはね、私たちが日常生活で使う道具に、使う過程で無意識のうちに自分自身の魔力が注ぎ込まれ、目に見えない刻印となる現象のことよ。署名のようなものね」
「あ! 思い出しました。『鑑定魔法』の原理ですね!アリネーが言っていました!」
「知っているじゃない。だからね、私には見えるのよ。その絵には幾重にも重なった、濃厚で豊かな魔力が込められている。つまり、あなたは毎回全神経を集中させてその絵を描き、魔力を何度も何度も注ぎ込んでいるということだわ」
「えっ!? さすがは大賢者アマラお祖母様! 見ただけでそんなことまで分かるんですか? すごすぎます!」
「ええ。だからね、見せてもらってもいいかしら?」
これ、どうしましょう! どうすればいい? どうすればいいの? 阻止すべき? それとも適切な時を待つべき? でも、アマラお祖母様はあと二、三日で発ってしまうかもしれない。他にチャンスはあるんでしょうか?
どうしよう……混乱してきました。これはチャンス? もしこの絵をアマラお祖母様に見せたら、彼女は追求してくるでしょうか? その時、私はすべてを打ち明けるべき? そして、あの時の約束を取り消して、アンジェママをもう一度舞台へ戻してあげてほしいと頼むべきなの?
いいえ、ダメです。それは私の約束です。アンジェママに、誰にも言わないと約束したんです。
たとえそれが、最初からすべてを知っているはずのアマラお祖母様であっても。
私はアマラお祖母様のことを……まだ理解できていません。
ただ闇雲にすべてをさらけ出して、勝手に事態が好転すると信じるなんて、あまりにも考えが甘いすぎます。
普段の私ならそうしたかもしれません。私は……そういうところが大雑把ですから。
でも、アンジェママの想いは「あ、ごめんなさい~」で済ませられるような軽いものではないんです。家族のために自分の夢を葬り、十七年間隠し続けてきた秘密なのですから。
けれど……何もしないわけにはいきません。
「アマラお祖母様、見たいですか? 私が心血を注いでいる大作を」
「少しだけ興味があるわ。構わないかしら?」
「構います。未完成だから恥ずかしいとか、そういう理由ではありません。私は他人に制作過程を見られるのを気にしませんし、実際もう完成間近なんです。ただ、自分が思い描いた理想の高さにまだ届いていないだけで。でも、それも理由ではありません。アマラお祖母様、私はむしろ、あなたにこの絵を見てほしいと思っています。でも、今ではありません──一つ、約束をしてくれませんか?」
「約束?」
「アマラお祖母様、あなたが再び出発してここを離れる前に、必ず私を訪ねてください。私のこの作品を、しっかりと見届けるために」
「おや? いいわよ。そう言われるとますます興味が湧いてくるわね」
よし、これで時間を稼げました。……あっ!? そうだ!
来た、ひらめいた!
「それじゃあ、交換条件として一つ教えてくれませんか?」
「あら~? 条件をつけるなんて、生意気な子ねぇ」
「へへ~、その方が面白いでしょう? でも、どうしてもってわけじゃありません。アマラお祖母様さえ良ければ、でいいんです。逆に、話しづらいことなら何も言わなくて構いません。でも、さっきの約束はどちらにせよ有効ですよ」
「ふふ……なんだか妙な条件ね。いいわ、いいわ。私に聞きたいことなんて、どうせうちの家族に関わることでしょう?」
「アマラお祖母様、私、アリネーが生まれた時のことを知りたいんです。あなたは……いえ、その場にいらしたんですよね? 教えていただけませんか?」
以前、アリネーと話した時、彼女が生まれた際に取り上げを手伝ったのは、おそらくアマラお祖母様だろうという結論に至っていました。
「え……? 急にどうしてそんな話を? あなた、一体何を考えているの?」
アマラお祖母様の表情が少し険しくなりました。娘の家に突然現れた「義理の娘」が、急に立ち入った家族の話を持ち出したのです。警戒されるのも無理はありません。
「正直に申し上げます。まず、これは私とアリネー二人の推測であって、アンジェママには確認していません」
「なら、どうしてアンジェ本人に聞かないの?」
「アンジェママが自分から口にしないのは、言いたくないからです。それがアリネーの前提なんです」
「ええ、あの子はそういう性格だものね。アリシアは本当によく分かっているわ。……いいわ、それで、あなたたちの推測とやらは何かしら?」
よし、本題に入ります。私の予想が当たっていると仮定して……。
「アマラお祖母様、これから話すことはすべて事実です。私とアリネーが対話の中で導き出した推測です。もし信じていただけないなら、アリネーの手が空いた時にもう一度確認していただいても構いません」
「ええ、いいわよ。話しなさい」
「アンジェママがアリネーを産んだ時、お産は順調ではありませんでした。難産だったはずです」
「続けなさい」
「それでもアリネーは無事に生まれ、アンジェママも健在です。それは当時、『帝王切開』が行われたからではないでしょうか」
「……」
「一般の家庭では、『帝王切開』は極めて危険な行為で、母親の生存率は一割にも満たないと聞きます。ですが、貴族の間では珍しいことではありません。高額な報酬で腕の良い治療魔法使いや、回復の奇跡を使える聖職者を雇えば、母親を救うことができるからです」
「よく勉強しているわね」
「それはもちろん、アリネーの学習の成果です」
「たとえそうだとしても、それほど大層なことではないでしょう? それで? あなたが本当に知りたいことは何?」
「ですが、アンジェママの出産の際、治療魔法使いも聖職者も呼びませんでした。なぜなら、アンジェママにはパッシブスキル『自己再生』があったからです」
「あら……そんなことまで知っているの?」
「アリネーから直接聞きました。でも、お祖母様、心配しないでください。そこが重要なのではありません。……私たちの推測は、当たっていますか?」
「ふふ、おませな二人組ね。……教えてあげないわ」
「分かりました。では……私の推測を直接申し上げます。アンジェママは『帝王切開』の後、『自己再生』の効果によって後遺症が残った。おそらく傷跡が癒着するような原理で、もう子供を産めない体になってしまったのではありませんか?」
「それは……続けなさい」
「そしてアンジェママは、自分でもそれに気づきながら、決して口には出しませんでした。この不慮の事故……不幸を、アリネーのせいにしたくなかった。彼女に負い目や自責の念を感じさせたくなかったからです」
「それがあなたの推測なのね? ……どうしてそんな昔のことをそこまで考えるの? あなたが生まれるよりもずっと前のことでしょう?」
「私はアリネーを本当の姉だと思っています。家族なんです。アンジェママもお父様も、私にはなくてはならない家族……私の命の一部ですから……」
「ええ……」
「あの人たちのために何かしたいんです。恩返しをしたい、力になりたい。……これらはすべて私の本心です。一点の曇りもありません」
「分かったわ、もう十分よ。あなたが本心を話していることは伝わったわ。ほら、涙がこぼれているわよ。少し拭きなさい」
「あ……すみません」
分かりました。私がなすべきことが。『聖教会の御命』の期限が二週間であるならば、この二週間こそが、私が何かを成し遂げられる最後のチャンスです。
「アマラお祖母様! 私の推測がどこまで当たっているかは分かりません。ですが!私が言いたいのは、私!神官として、私の『神聖治療』の奇跡を使い、アンジェママの当時の後遺症を治療したいんです!!! 私……もう時間がありません!」
「待ちなさい!!! 今、なんて言ったの!?」
「私の『神聖治療』の奇跡を使って……」
「『神聖治療』!? 嘘を言っている……わけじゃないわね?」
「嘘じゃありません! どうしたんですか?」
「ちょっと待って! あなた、『神聖治療』が使えるの!? あなた! まさか!? どうしてこんなところにいるの!?」
「ど、どういう意味ですか?」
「待って……少し整理させてちょうだい」
……
……
……
「ルミちゃん。お祖母ちゃんは年寄りだから、時々背中が痛むのよ。ちょっと治療してみてくれる?」
アマラお祖母様が自分の腰と背中を指差しました。
「古傷ですか?」
「いいえ、老化よ。年をとったせいね」
それなら……。
「分かりました。では、少し服を失礼して……」
私はアマラお祖母様の背中を見つめ……無意識のうちに言葉が紡がれました……。
「全能なるオリシュスよ、汝の慈悲を乞い、願わくば彼女の姿を元に戻し、苦痛を除きたまえ……『神聖治療』!!!」
聖なる光が私の手から放たれ、アマラお祖母様の背中を包み込み、そしてゆっくりと消えていきました。
すると、アマラお祖母様は立ち上がり、体を動かして、その場で二、三回ぴょんぴょんと飛び跳ねました。
「これ……どうやらあなたは嘘をついていないどころか、真実を語っているようね」
「どういう意味ですか? 私にはよく分かりませんが……」
「いいえ、ええ。今、すべてが分かったわ。あなたの『神聖治療』は本物。だからこそ、そんな考えを持ったのね……。いえ、それでもやはり少し気にかかるわ。あなた、なぜ中央聖教会の本部に残って大神官になるための修行をせず、わざわざ派遣神官になったの?」
「アマラお祖母様の仰る意味は?」
「中央聖教会が、あなたのような優秀な奇跡の使い手を放っておくはずがないわ。一体何をしたの?」
「あ! そ、そのことですか? ……ちょっと気まずいんですけど、言わなきゃダメですか?」
「ダメよ。年寄りは好奇心が人一倍旺盛なんだから」
「う……分かりました……」
私は、愛するアシランお兄ちゃんを捜し出すために、派遣神官の冒険者になって外の世界へ出ることを選び、そのために修行時代は全力を尽くしてサボり倒したことを、アマラお祖母様に打ち明けました。
「つまり、ルミちゃんは愛する人のために、進んで誰かに使われるような端役の道を選んだということね?」
「ま、まあそんな感じです……というか、大神官になるより、私はお兄ちゃんと一緒にいたいんです。いえ、比べることすらできません。お兄ちゃんは私の命で、私のすべて。大神官なんて、これっぽっちも興味ありません……」
そうだ、その通りですよ! 私は何を悩んでいたんでしょう!? 『聖教会の御命』なんて! 私の心の中に、そんなものを悩ませる隙間なんて一ミリもありません!!!
「あはは!!! 神官なんて! 辞めてもいいんだわ!」
思わず心の底から笑いが込み上げてきました!
「どうしたの、急に晴れやかな顔をして。何か吹っ切れたのかしら?」
「はい! あはは! はは! へへ! ありがとうございます、アマラお祖母様! それで、アンジェママの件ですが……」
「分かったわ。あなたのその気持ちは素晴らしいわね。後輩という立場上、 アンジェに直接聞くのは気が引けるのでしょう?」
「そうなんです。まず私の思い込みかもしれないし、それに『神聖治療』の奇跡で本当に治せるのかも分かりません。アマラお祖母様から話を通していただければ、何事もスムーズに運ぶ気がして」
「ええ……もし『神聖治療』の奇跡ならば、いいえ、むしろ『神聖治療』こそが唯一の可能性だわ」
「本当ですか!?」
「ルミちゃん、アリシアはあなたが『神聖治療』を使えることを知っているの? 彼女、奇跡についてなんて言っていた?」
「知っています。彼女は、奇跡とは理屈に合わないもので、原理はないけれど世界の法則すら超越するものだと言っていました。奇跡を呼び起こす者は、傷ついた者の健康な姿を想像し、それを現実に変えるのだ、と」
「ええ、それがオリシュスの奇跡よ。ルミちゃん、知っているでしょう? 『神聖治療』はオリシュスの奇跡の中でも『治癒』系統の第三段階。つまり最上位の『治癒』奇跡よ」
「もちろん知っています! 修行中に習いましたから」
「では、他に誰が『神聖治療』を使えるか知っているかしら?」
「誰が……? それはよく分かりません。大神官様たち、とか……?」
「私の知る限り、この長い人生の中で、それができる人間はたった一人しかいなかったわ」
「たった一人? そんなに珍しいものなんですか?」
「ええ、若い世代の皆さんは知らないかもしれないけれど、長く生きているお祖母ちゃんには分かるわ。『神聖治療』の希少さがね。ルミちゃん、あなたはずっと『神聖治療』を使って仲間を治してきたの?」
「はい、そうです」
「なら、あなたとパーティーを組んだ仲間は最高に幸せ者ね。それは死者蘇生に限りなく近い能力なのだから」
「そんなに深く考えたことはありませんでした。ただの治療じゃないかって……」
「表面上は同じに見えるけれど、中身は別物よ。……そういえば、あなた、さっき祈っていなかったわよね?」
「祈り? ああ、はい。私は祈らなくても使えるんです。ただ、さっきは無意識に何か口走ってしまいましたが」
「そこが『神聖治療』と低階層の治癒奇跡の違うところよ。術者が治療の目的を自己暗示することで、『神聖治療』の効果を最大化できるの。さっき傷跡の話が出たけれど、傷跡を治した経験はあるかしら?」
「あります! そういえば、あの時も無意識に二、三言口にしていました」
「間違いないわ。今のように、あなたは私の腰を『元の状態に戻した』。それは『神聖治療』にしかできない芸当よ。『聖光治療』や『治療』では、そこまで意のままに効果を操ることはできない。それが『神聖治療』の特別なところなの」
「へぇー! そうだったんですか? 修行ではそんなこと習わなかった気がします」
「それはおそらく、今の時代に使える者がいないからでしょうね。だから教えようがない。……もっとも、あの大主教様が何を考えているかは知らないけれど。ちなみに、彼が私の知る唯一の『神聖治療』の使い手よ」
「そうだったんですね。それなら……アンジェママの方も……」
「分かったわ。そんなに急いでアンジェを助けてあげたいのね? ええ……すべてお祖母ちゃんに任せなさい」
「本当ですか! よかった! それじゃあ……」
「今夜、話しましょう。あなた、あまり時間がないのでしょう?」
「え……あ、はい……。私は……おそらく……いえ、何でもありません。今夜試せれば、それで十分です! 他のことは重要じゃありません!」
アマラお祖母様が私の頭を撫でてくれました。
「いい子。何事にも道は必ずあるものよ。あまり堅苦しく考えすぎないこと。勇気があるからといって、わざわざ茨の道を選ぶ必要はないわ。例の仕事の問題、あとどれくらい時間があるの?」
お祖母様が単刀直入にそう言った時、すべてを見透かされているのだと感じました。
「およそ二週間です」
きっとお祖母様はだいたいの状況を察して、気休めを言ってくれているのでしょう。でも、それだけで十分でした。ありがとうございます。
「なら、まだ猶予はあるじゃない。もう少し考えなさい。あなた自身の心の中にある本当の想いを。……どうあるべきかではなく、あなたがどうしたいか、をね」
「分かりました。ありがとうございます、アマラお祖母様」




