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十七、開幕公演(午前)

「あら? 賑やかね。今日は何かのお祭りかしら?」


「奥様、おはようございます! 地元の方ではないのですか?」


キャンペーンガールの女の子たちは目が回るほどの忙しさで、次々と野次馬たちに今日の公演イベントを紹介していました。


「ふふ、どうかしらね? 最後にここへ来たのはいつだったかしら。あはは、年寄りは記憶力が頼りなくて、あまり試さないでちょうだい~」


「お年寄りだなんて、まさか! 奥様、あんなにお若く見えるのに! でも大丈夫です! 今日は我が『フローラ城』城南新区の竣工セレモニーなんです! 式典はもう終わりましたけれど、今は出し物の真っ最中ですよ! チケットを買って入場なさいませんか?」


「出し物? どんなパフォーマンスかしら? 演奏? そういえば、この建物が皆さんの演奏ホールなの? ずいぶん大きそうね」


「はい! これこそが新しく落成した『フローラ演芸ホール』です! 領主エレナガード伯爵が出資して建てられた、最大二千名の観客を収容できる最新鋭の総合ホールです!!! 現在、世界最大の全室内型パフォーマンス会場なんですよ!」


「へぇ~、二千人の室内ホール? 大したものね。……『ヴォールト』技術を使ったのかしら? 意外だわ~」


「『ヴォールト』?」


「ふふ、気にしないで。さあ、今日のプログラムを教えてもらえるかしら……」


「お嬢ちゃん、ちょっといいかい。チケット売り場はどこだ?」


「お客様、地面のこの赤い線に沿って進んでください。そうすればチケットオフィス──券売所に辿り着きます!」


「分かった、ありがとう。おい野郎ども、急ぐぞ。チケットが売り切れてアリシアちゃんのパフォーマンスが見られなくなったら大変だ」


「アリシアちゃん?」


「奥様、ご存じないのですね。皆が呼ぶ『アリシアちゃん』とは、我らが領主の令嬢──『アリシア•エレナガード』様のことです! その親しみやすいお人柄で領民から絶大な人気があるので、皆さんは親しみを込めて『アリシアちゃん』と呼んでいるんですよ!」


「あらあら、そんなことになっているのね。あの子も出演するの?」


「はい! これが今日のタイムスケジュールです! 詳しく説明しますね……」


キャンペーンガールの女の子は背後のパネルを指差しながら、通りすがりの老婦人にセレモニーの演目を紹介しました。


「ふむふむ……演目が多いわね。基本的には私の知らない人ばかりだけれど、これだけ盛大なら私もチケットを買いましょうかしら? 料金は?」


「一般席は銀貨一、中等席は銀貨五、特等席は銀貨十となっております」


「一番安くて銀貨一枚? 室内ホールでこれだけの演目を見るのに?」


「はい!!! それこそが領主様の方針なんです! 私たちは大衆のためのホールですから!」


「あら? 面白いわね。この赤い線に沿って行けばいいのね? 分かったわ、ありがとう」


「とんでもございません!!! 良い一日を!!! あ! お客様、あちらへ!」


通りすがりの老婦人は赤い線の方向へ半歩踏み出し、また足を止めました。


「ひっ、ひぃぃぃぃ────!!!」


「どうしたんだい? お前さんは案内係だろう? 俺の質問に答えろよ」


体格のいい巨人族の男性が案内係の女の子に尋ねているようでしたが、その女の子は腰を抜かさんばかりに怯えていました。


「おいおい、嬢ちゃん。俺たちだって曲がりなりにも冒険者だぜ。そんなに怖い顔に見えるかい? それとも何だ、面構えが凶悪すぎて失礼だってのかい?」


「残念だなぁ。あのなんとかっていうお嬢様の出し物を見たかったんだけどよ。俺たちはお呼びじゃないってか? イケメンじゃなきゃ相手にしてくれないのかねぇ」


男の背後には、あまり友好的とは言えない風貌の男が二人立っていました。一人は小柄で、もう一人はひょろりと痩せています。


「わ、わわわ私はそんなこと言ってません!!! ど、どなたでも興味のあるお客様は大歓迎です!!! な、何かご不明な点がございますでしょうか!」


「へへっ、そうでなくっちゃな。早く教えてくれ。その、なんとかいうお嬢様? ああ、領主令嬢様だ。パフォーマンスはいつ始まるんだ?」


「そうだよ~、俺たちはわざわざ駆けつけたんだ。見逃したくないんだよ~」


「ケケッ、応援に来てやったんだ。見られなかったら一大事だぜ」


「り、領主令嬢様……ですか!? え、ええと、午後の予定に……」


案内係の女の子は、指を震わせながらパネルのスケジュールを指し示しました。


「あ? じゃあ、その回のチケットを買うとするか」


「お、お客様……チケットは全日共通で……個別の販売はしておりません……」


「あん?」


「あ! な、なな何でもありません……何も言ってません……」


その時、不意に一つの手が案内係の女の子の肩をそっと叩きました。


「お嬢ちゃん、道に迷ってしまったわ。助けてもらえるかしら?」


「えっ!? 奥様! はい、もちろんです!」


貴婦人は慈愛に満ちた優しい眼差しで女の子を見つめ、それから視線を三人の男たちへと向けました。あまりに唐突だったせいか、三人は呆気にとられています。


「あら? あなたたち、まだ何かあるのかしら? 年寄りの私は、お話が終わるまで大人しく待っていればいいのかしらね?」


「……」


「ふふっ、いいや。どうやら俺の兄貴が生まれつきの強面で、嬢ちゃんを怖がらせちまったみたいだ。チケットを買ってくるよ。買ったら、午後また戻ってくるとしよう。お前ら、俺の分まで取るなよ。俺は中等席を買うんだ」


「俺は一番安いやつでいいや。特等席はあんたに任せたぜ」


後ろの二人はそう言い残して去っていきました。


「……」


先頭の男も老婦人を一瞥すると、無言でチケットを買いに向かいました。


「はぁ……助かった──ありがとうございます、奥様!」


「あら、私、何かしたかしら? さっきの三人、そんなに怖かった?」


「怖かったですよ! 冒険者なら見たことがないわけじゃないですけれど、さっきのは……その……うまく言えないんですけど! とにかく無事でよかったです。奥様、チケットをお買いになるんですよね? 赤い線に沿って進めば……でも、少し待ってからの方がいいかもしれません。あの三人がまだ近くにいるはずですから……」


「あ! そうだわ。私、道に迷ったんじゃなくてチケットを買いに来たのね。本当に、年寄りは物覚えが悪くて、自分が何をしようとしたかすぐに忘れてしまう。それじゃあ行くわね、さようなら」


「さようなら!」





「総監! 照明チーム、準備完了!」


「了解、お疲れ様! 司会者は?」


「こちら準備万端です! 問題ありません!」


今日の司会は私です。アリネーが、私には司会が向いていると言ってくれました──下ネタさえ言わなければ、とのことですが。ひどいですよ、大衆の面前でそんなこと言うわけないじゃないですか……ええ! 言いませんとも! 多分!


「ナレーション部門は!?」


「ドロシー、準備オーケー!」「ルーカス、準備オーケー!」


ドロシーとルーカスの『ナレーション部門』は、幕間に各出演者を紹介する役割です。本来は司会の私が兼任してもよかったのですが、仕事量と自分自身の出番を考慮して、アリネーがもっと明るい若者に手伝ってもらおうと提案し、私はあのデコボココンビを思いつきました。


結果、リハーサルの時は皆で大爆笑して、人選に間違いはなかったと確信しました。


「音響、準備完了!」


「皆さんありがとうございます! 全力を尽くして、今日の公演を完璧なものにしましょう!」


私たちは近距離通信魔道具『対話機』──アリネーがマリア王女に渡したネックレスと同じ、魔力波動の原理を利用した音声伝達魔道具──を使って、会場運営に必要なコミュニケーションをとっています。そして、私たちの総監はもちろん……


「はい!お嬢様!」


……


……


……


パチパチパチパチ…………


最初の演目が終わると同時に、客席から激しい拍手が沸き起こりました。


「ああ、エレガント! 実にエレガントです! やはり最近領民の間で絶大な人気を誇る、エイルウィンさんのハープ独奏! 何と言いましょうか、そう、生演奏の迫力はやはり一味違いますね!!!」


場内放送システムを通じたルーカスの声が、演芸ホールの拡声器から響き渡ります。


「そうね!エイルウィンさんのあの清らかな調べが、このホールの中で幾重にも反響して……。あの臨場感は、まさに別次元の体験だったわ!」


ドロシーもルーカスの言葉に調子を合わせます。アリネーがこのあたりの掛け合いを彼らの自由に任せたのは、正解だったようですね。


エイルウィンさんが再び観客に向かって直立不動で一礼すると、拍手は次第に収まっていきました。


さて、ここからは私の出番です。


「お疲れ様でした!エイルウィンさん! 一言ご感想をいただけますか?」


私は手に持っていたマイクをエイルウィンさんに手渡しました。


「ありがとうございます、ルミナスさん! こ、コホン! ご来場の皆様、おはようございます!!!」


(おはようございます!!!)


観客席から大音量のレスポンスが返ってきます!


「エレナガード伯爵、そしてお嬢様、お招きいただきありがとうございます! この世界最大の室内ホールの最初の出演者になれたこと、本当に光栄に思います。もう、興奮が止まりません!!!」


(おおおおお──!)


ルーカスの煽りに乗せられて、会場全体がさらに盛り上がります。


アリネーの話では、伝統的な演奏会というものは、聴衆が貴族か富豪ばかりで、演奏後に拍手をもらうのが精一杯。演奏者が感想を述べるなんて、あり得ないことだったそうです。


けれどリハーサルの時、ルーカスが調整室で勝手に盛り上がり始め、それにスタッフたちが同調して騒ぎ出したのです。


結果として、伝統的な死気の漂う雰囲気よりも、こうした活気あるスタイルの方が大衆向けの普及には適していると判断され、アリネーはルーカスたちに自由なパフォーマンスを許したというわけです。


「ううっ……これまでの歳月を思うと……」


あらら、エイルウィンさんが感極まって泣き出してしまいました。語りながら涙を流す様子を見るに、彼女の音楽家としての道のりも決して平坦ではなかったのでしょう。


「……『フローラ』の放送のおかげで、皆様に私を知ってもらうことができました。……これからも精進いたします! ありがとうございました!」


「ありがとうございました、エイルウィンさん! 皆様、今一度盛大なる拍手を……」


エイルウィンさんが舞台を降り、次のプログラムへと移ります。


「続いての演目を紹介しましょう! 皆様ご存じ、冒険者たちに大人気の『吟遊詩人の仲間たち』です!」


パチパチパチパチ……(客席から拍手)


「『吟遊詩人の仲間たち』は五人の吟遊詩人によるユニットです! 聞くところによると、彼らは全員現役の冒険者だそうですよ!」


「ルカ、その通りよ! 『吟遊詩人の仲間たち』は昼間は迷宮探索に勤しみ、夜は観衆と歌い明かす、まさに冒険者たちの星なのよね!」


「でも吟遊詩人といえば、普通は自由気ままに一人で歌うものでしょう? どうして五人組なんて珍しい形になったんだい? 何か深い理由があるのかな?」


「もちろん知っているわよ! それは……って、これは裏情報だわ! こんな大勢の前で言えるわけないじゃない!?」


おおおおお────(客席から歓声)


「そんな言い方をするなんて、何か面白いネタがあるんだろう!? 独り占めするなんてズルいぞ!」


「ど、独り占めなんてしてないわよ! プライバシーの問題よ!お嬢様も教えてくれたでしょう、個人のプライバシーを尊重しなさいって! でも、確かにちょっとしたエピソードはあるわね。気になる方は、後日広場で本人たちに直接聞いてみてちょうだい! それではお待たせいたしました、『吟遊詩人の仲間たち』の登場です……」


ドロシーとルーカスはこんな風に、冗談を交えながら各出演者を紹介していきます。セリフのほとんどは、出演者データ以外は彼女たちが自分で考えたものですが、まさかこの二人にこれほどの天賦の才があるとは思いませんでした。


おかげで司会の私は、次の演目の紹介と、出演者との簡単なインタビューややり取りだけで済むようになりました。膨大な出演者データを読み上げなくていいので、本当に助かっています。





気づけば、もう私の出番です。ふぅ……。


舞台裏で衣装に着替え、静かに呼吸を整えます。


しょせんは素人の私による、客寄せパンダ的な最初で最後の公演。緊張はしていませんが、いつもよりは少しだけ神妙な気持ちです。


もしお兄ちゃんが見ていたら、なんて言うかしら。


いいえ、構いません。彼が帰ってきたら、もう一度歌ってあげればいいのです。一対一で、今度はたっぷり褒めてもらいましょう。ふふっ、想像しただけで楽しくなってきました。


「あれ?ルカ? どうして先生の姿が見えないのかしら?」


始まりました。私の紹介です。


「何を言ってるんだい、ルミナスさんなら、もちろん『あれ』だよ!」


「『あれ』?」


「そう、例の『あれ』だ!」


「まさか……逃げ出しちゃったんじゃ!?」


えええええええ────────(客席からどよめき)


ちょっと!? 何ですかそれは! リハーサルと違うじゃないですか、二人とも!


「まさか。ルミナスのことを本当にそんな風に思っているのかい?」


「まさか! 私たちの頼もしくて可愛い先生──ルミナス先生が逃げ出すはずないじゃない! ちょっと場を盛り上げようとしただけよ! でも、みんなで一緒に彼女の名前を呼べば、きっと最高の応援になるわ!」


「え、えぇっ!?いいですよ!でも、なんて呼べばいいんですか!?ルミナス様は『オリシウス聖教会』の神官様で、『フローラ冒険者ギルド』の指導員で、おまけに学校の先生ですよ!?何より、無償で数え切れないほどの重症者を救ってきた、みんなの命の恩人なんです!神官様?先生?それとも……」


「何言ってるのよ! 呼ぶべき名前は決まっているじゃない!……」


何を企んでいるんですか! やめて、やめてください!!!


「……聖女様──────!!! 皆様! 割れんばかりの拍手と歓声で、我らが『フローラの聖女』──ルミナスさんをお迎えください! 未公開の新曲──『祈り』を披露していただきます! 聖女様! 聖女様!……」


(聖女様! 聖女様!……)


あああ! 本当に逃げ出したくなってきました! おのれ……っ!!!! やってくれましたね! ああもう!


(聖女様! 聖女様!……)


はぁ……。さっきのせっかくの緊張感が台無しです……。これが怪我の功名というやつでしょうか? まあいいです、やるべきことは変わりません。開き直りましょう。


私は舞台裏からゆっくりと歩み出しました。皆が「聖女様、聖女様」と叫んでいます……。ええい、もう……いいでしょう! 聖女でも何でもやってやりますよ! 出陣です!


舞台の照明が徐々に暗くなり、淡いブルーのライトが差し込みます。ロマンチックで、どこか厳かな空気が場を包み込みました。


私はステージの中央へと進み、熱狂する観客を見渡しました……。よし、覚悟を決めました!


「皆様、こんにちは~! 今日は楽しんでいますか? 幸せですかー?」


(最高だー!!! 楽しいぞー!!!)


客席から次々と歓声が上がります。すべて我が領民たちの声。中には私が治療したことのある方の姿も見えます。それに「先生ー!」と叫んでいるのは……あ! 学校の子供たちですね! ふふっ、あなたたち……司会をしていた時は気づきませんでしたよ。


「皆様~、私もとっても嬉しいです! それでは、一度心を落ち着けて……。今日お届けするのは、優しくて穏やかなバラードです」


皆がしんと静まり返りました。うんうん、聞き分けのいい良い子たちです。


ふぅ……。


深呼吸を一つ。


準備は整いました。


数えきれないほど練習し、歌詞も振り付けも体に染み付いています。あとは、踊り手の……いえ、歌い手の心を込めるだけ。まあ、本質は同じことですね。


私は定位置に立ち、そっと目を閉じました。


伴奏が静かに流れ始めます……。私のこの曲、録音再生技術を使った独唱曲としては史上初なのではないでしょうか?


この歌……歌詞はアリネーが書いてくれたのですが、私の想いと完全に重なっていて、本当に凄いんです。大好きなんです! 練習中、歌っているうちに何度も感情移入してしまいました。


さあ! 私の歌声を聴いてください!!!


「青い空の彼方にも、陰りがある──」


「山々に咲き誇る花も、やがて散る――」


清らかで澄み渡る少女の歌声が反響し、ホール全体を貫いていきます。


「豊かで実りある人生も、必ず終わりが来る――」


「ただ、あなたの慈愛だけが、形なく、けれど永遠に世に在り続ける」


観客は息を呑み、舞台中央の歌い手を凝視しています。その耳は、調和の取れた神聖な響きに釘付けになっていました。


「星々は天の海に沈み、導く光は永遠に輝き続ける;」


「丘は塵となり、御名は決して朽ちぬ。」


歌い手が纏う純白の法衣とドレスがスポットライトを反射し、淡いブルーの背景と相まって、まるで暗闇に差し込む一筋の曙光が大地を照らしているかのようです。


「秋風は落ち葉を忘れ、雪が足跡を覆い尽くす;」


「だが貴方の恵みの声だけは、時を超えて新たに響き、千年を越えて響き続ける。」


舞台の照明効果のせいか、あるいは歌い手が神官であるからか。はたまた、彼女がかつて数多の病人を救ってきた慈悲の心の現れか。舞台に立つ少女の姿は、観客の目には間違いなく、本物の「聖女降臨」として映っていました。





「世に在るすべての至善しぜんは、貴方のために存在する――」


「貴方は始まりの朝の光、終わりの夕暮れの光、我らの魂の帰るべき場所――」


「両手を合わせ、頭を垂れ祈る、どうか聞き届けてください、不肖なる我らの祈りを――」


「永遠の命は求めず、ただ心の安らぎを願い、財宝は望まず、ただ心の喜びを願う。」


その瞬間、夢か現か──神聖な金色の光が舞台中央から溢れ出し、ホール全体を包み込みました!


(あああああ!!!)


客席のあちこちから驚嘆の声が漏れ聞こえます……。


固唾を呑んで見守っていたはずの観客たちが、抗いようのない奇跡を前に、思わず声を漏らしたのです。


(こ、これは!?)


(から、体が……!? 疲れが……全部消えていく!!!)


(指先の小さな傷まで治ってるぞ!!!)


(本物の、本物の奇跡だ……!!!)


「炎も焼き尽くすことはできず、深淵も飲み込むことはかなわない」


「絶望の果、沈黙の中でも、我らは貴方の聖名を呼び続ける――」





(うおおおおおおおおおおおおおおおおおお──────────────────────!!!)


えっ? 何事ですか!?


歌い終わり、音楽が止まった瞬間。客席から地響きのような大歓声が沸き起こりました。


(聖女様! 聖女様! 聖女様! 聖女様!……)


「皆さん!!! 落ち着いてください! 一体どうしちゃったんですか!?」


「わあああああ───!!!ルカ! 今の見えたでしょ!? 感じたでしょ!?!」


えっ!? ドロシーちゃんまで!? 一体何が起きたというのですか!?


「あああああ───! 当たり前だ! き、奇跡だ!ルミナスさんの奇跡だよ! 会場の皆さんも感じたはずだ! 二千人! この会場にいる二千人全員がだぞ!!!」


「な、なななな何事ですか!? 誰か教えてください! どうして急に私の奇跡だなんて騒いでいるんですか!?」


「そうですよ! 『治療』と『鼓舞』の奇跡です! 皆さんも感じましたよね!?」


(感じたぞー!!!)


(実感した!!!)


(今、最高にハイだぜ!!!)


(傷が治ってる!!!)


客席の歓声は一向に衰える気配がありません……。これ……まさか私、さっき……無意識に奇跡を召喚してしまったのでしょうか?


「およそ二千人に対して同時に放たれた奇跡です!!!」


(うおおおおおお───────!!!)


私が無意識に『霊魂鼓舞』の奇跡を召喚してしまったから!? それで会場全体のテンションが異常なほど高まっているのですか!?


そ、そんなの予想外すぎます!!! ど、どうしましょう!!!


「ご来場の皆様、ごきげんよう! 今日のパフォーマンスはいかがでしたか? 皆さん、とても興奮されているようですね?」


(そうだとも─────!!!!)


(見て!アリシアちゃんだ!)


(伯爵令嬢様だ!)


あ!アリネー!アリネーがステージに上がってきました!


「それでは、一度落ち着いて、聖女様の言葉を聴きましょうか!」


あ、そうでした、感想を言わなきゃ!


「コホン……。少し予想外のこともありましたが、皆様……今のパフォーマンスは合格点でしたでしょうか?」


(満点だ! 満点! 満点!)


「ありがとうございます! 私自身、この歌が大好きなんです! 皆様にも気に入っていただけたのなら、これ以上の喜びはありません!」


(大好きだー! ───)


「それでは……」


私が手短に感想を述べても、皆様は相変わらず興奮冷めやらぬ様子で歓声を送ってくれました。


「ご来場の皆様、改めて本日のご参加に感謝いたします。これにて午前の部は終了となります。皆様、美味しい昼食を召し上がって、午後二時にまた午後の部を楽しみにお戻りください。よろしいかしら?」


(オーケー─────!!!!)


アリネーの宣言とともに、午前のプログラムは大盛況のうちに幕を閉じました。


……超広域奇跡のことは、なかったことにしましょう……。そう、舞台効果だったことにすればいいんです! どうせ聖教会の人たちは誰も信じやしませんから! ははは!



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