1話 手を貸して
わからない。
アーリートワイライトマンがいきなり叫んで倒れた。
白い強烈な光を発して。
倒れたと同時に仮面が外れて変身が解けた。
私の足元に転がるベネチアンマスク。
それを回収してダークムーン様に捧げれば、私の、私達の長年の任務が終了する。
それなのに。
私の体は言うことを聞いてくれない。
私の瞳は、うつ伏せに倒れた青年、碓氷耀を捕らえて離せない。
「106号」
彼が呟いたその名前が耳から離れない。
そこから導き出される答えは一つ。
「私は、貴方に会ったことがある?」
ドールの再生についてはダークムーン様から聞いていた。ドールの体を構成している物質は使い回されていると。だから、私の体の一部が106号の物だった可能性が高い。しかし、頭の中のデータベースを参照しても、106号についての情報は得られなかった。ドールの一覧に名前はある。しかし、名前と型以外の情報は空欄になっているのだ。人-男型ということしかわからない。
そもそも、記憶に関しては引き継がれるなど聞いていない。
それに何だろうか。
この、胸がチクチクする感じは。
ダークムーン様に頼ろうとするも、叶わなかった。
通信機能も転送機能もダメになったらしい。おそらく、さっきの強い光のせいだろう。
常夜に戻れたらダークムーン様に聞いてみよう。106号とは何者なのかを。
どうしてこんなにも仮面を奪うことを躊躇ってしまうのかを。
仮面をダークムーン様に捧げたい。
いや、だめだ。
私の中の誰かが阻止してくる。
これは一体どういうエラーなのだろうか。
『ここまでか』
足元の仮面が喋った。正確に言うと、機械的で無機質な聲が聞こえた。
「貴方、喋れるの?」
私は目を見開いた。
仮面は鼻で笑ってきた。
何だろう、胸がひどくもやもやする。
『ふっ、そんなことも忘れてるとは。こんなやつにやられるなんて、私は何とツイていないのか』
「私のこと、知ってるの?」
『お前のことなど知らない。知りたくもない、クソドールのことなど』
やたら口が悪い仮面。もやもやが一層強くなった。
そうか、これが"ムカつく"という感情か。
「貴方、この人を転移させられる?」
『できるに決まっているでしょう?ふん、情けをかけるつもりですか。ドールのくせに』
「いちいちムカつく。手を貸して。手当てしないと。さっき倒れた時に頭を打ってた」
『はぁ。こういう因果なんですかね。わかりましたよ、あんたも来るんですよね?』
「当たり前でしょう。貴方、手当てできないでしょ?」
『条件があります。ダークムーンとの通信機能は切ってください』
「安心して、さっきの光のせいか使えなくなったの」
『はぁ。では、耀の体を支えてください』
こうして私は転移した。




