26話 赤い満月
「というわけで、ダークムーンを殴りに行きたい」
昨晩考え抜いた俺の提案に、トオルは目を見開いた。
「無理だ。いくら耀が強いとはいえ、力の差がありすぎる。無謀だ」
「でも、俺はお前を失いたくない。トオルがいない日常なんて考えたくない。奴を倒すことが一緒に居られる唯一の道だと思うんだけど」
「それはわかってる。でも、万が一耀に何かあったら、俺、、、」
トオルが俺の身を案じてくれているのが嬉しい。
思わずトオルを抱きしめた。
彼もそっと背に腕を伸ばしてくれた。この温もりを失いたくない。
「ベマ、力を貸してくれ」
『嫌ですと言っても、ワタシの相棒はしつこいですからね。条件が一つあります。いざとなれば転移陣で戻ること。それでどうです?』
「ありがとう!さすがベマだ」
『そのドールがいないと仕事をしないと言われたら大変ですからね』
「ありがとな。、、、性悪ハムスターとか言ってごめん」
『ふん。それは許してあげませんから!』
こうして、俺達は2日後の満月の夜を待った。
◇◆◇
赤い満月が東の空に浮かび始めた。
それはまるで、ダークムーンがトオルを欲しているかのように見えて、俺は無意識にトオルを抱きかかえる腕の力を強めた。
「さすがに苦しい」
「ごめん」
「独占欲強すぎだろ」
「事実だから何も言い返せないな」
『砂糖が口から漏れる、うぇ』
ポケットの中のベマが吐くマネをした。
いつも通りのやり取りが、張り詰める空気を少しだけ和ませてくれた気がした。
「っ!」
突如、トオルが苦しそうにこめかみのあたりを押さえ始めた。
「大丈夫か?!」
「ダークムーン、さま、」
トオルが発したその言葉に背筋が寒くなった。
ついに、通信機能が回復してしまったらしい。
『そうか、ヒーローも隣にいるか。これは好都合だ』
その、低くて心地よさを感じてしまう声が、俺の頭の中にまで届いた。ベマが使う念話に近いものだった。
「お前がダークムーンか。俺の声は聞こえるのか?」
『聞こえるぞ、ヒーロー。いや、今は耀か』
すべて見透かされている、そう思ったら震えてしまいそうだったけれど、ここで逃げるわけにはいかない。
「単刀直入に言う。トオルから手を引け」
『はは。106号の身も心も手に入れて気が大きくなっているようだな。だが断る。これは我のモノだ』
「ダークムーン様、俺、、、」
『よくやった、106号。ヒーローを骨抜きにするなんてな。このまま仮面を奪って戻ってきなさい。今なら許してあげよう』
「俺、、、嫌です」
『嫌?私の言うことが聞けないというのかい?』
口調は優しかったけれど、凍えるような冷たさを孕んでいた。
トオルはブルブルと震えだした。
彼を安心させようと、優しく抱きしめ直した。少しばかりトオルの震えが収まった。
「ダークムーン、直接決着をつけないか。俺をトオルと一緒にそちらに送ってほしい」
『ヒーロー様直々に仮面を届けてくれると。なんとお人好しなんだろうね。ではこちらに来るといい』
地面に赤黒い魔法陣が現れ、俺らの体が暗い靄に包まれた。
地面が消え、ゆっくり下へ下へと吸い込まれていく。
俺はトオルの体をしっかりと抱きしめた。
「ごめん、耀」
「一緒に戻ろう、人間界に」
「うん」
こうして、俺達は常夜へと落ちていった。




