25話 伝言
ゴールデンウィークが終わり、世の中は日常に戻った。
俺たちの関係は友人から恋人になり、毎日の色が変わったような気がする。
大切な人とより近くで過ごせるのが嬉しくて仕方がない。俺からのスキンシップの多さに若干引かれてるものの、本心から嫌がっているわけではないようなので
良しとしよう。
「なぁ、耀。近い。暑い」
「ダメ?」
「、、、ダメとは言わないけどさ」
「じゃあ良いよな」
俺たちの間では、しょっちゅうこんなやり取りが繰り広げられていた。
『砂糖を吐きそうです。ぐぇ』
ベマはずっとこんな感じである。
ちなみに、鋼治さんには俺たちの関係の変化はトオルのバイト初日でバレた。「旅行どうだった?」という問いに対するトオルの答えと、迎えに来た俺の"甘さ"で気づかれたらしい。
「まぁ、まだくっつかないのかなとは思ってた」などと言われてしまい、恥ずかしかった。
そんな幸せな同棲生活に、魔の手は刻一刻と迫っていた。
◇
5月半ば、同じ時間帯にバイトを終えた俺達は、その帰路でドールに出くわしてしまった。
額と足が白い、黒猫型のドールだった。
白い額には小さな黒い三日月模様が浮かんでいる。
俺はすぐに転移陣を発動させ、戦闘空間にドールとトオルを引き入れた。トオルも一緒につれてきたのは、目の届くところにいてほしかったから。俺がいない間に連れて行かれてはたまったものではない。
「私は142号。 141号 から聞いたわ。ヒーロー様は106号を気に入っちゃって、人間扱いしてるんですってね」
感情のこもっていない声が響いた。相手は猫型ではあるものの、しっかりとした言葉で話している。
「無事に伝えてくれたようで安心したよ」
俺の返答に、142号は小さくため息をついた。
「ダークムーン様から、106号への伝言よ」
「「なんだって?」」
俺たちは固唾を呑んだ。
「3日後の満月の夜、転送機能が回復する。すぐに戻ってきなさい、ですって」
ついにこの時が来てしまった。
足元が崩れていくような感覚に、必死に足を踏ん張った。
せっかく想いが通じ合ったのに。
まだやりたいことがたくさんあるのに。
ずっと一緒に過ごしていきたいのに。
「俺は、、、」
トオルは返事に困っていた。
彼は俺とダークムーンを天秤にかけているようであった。今までであればすぐにダークムーンをとっていたはずだけれど、迷ってくれているのが嬉しい。
しばらくの静寂の後、トオルが重い口を開いた。
「帰りたくない」
ようやくトオルの一番になれた気がして、思わず抱きしめてしまった。
「おあいにくさま、トオルは渡さない。彼も俺と居ることを望んでいる。返すものか」
俺はトオル越しに142号を睨みつけた。
黒猫はまた小さくため息をついた。
「これ以上はダークムーン様への反逆とみなされるわ。それでいいのね、106号?」
「、、、構わない。俺は、ヒーローとの、耀との共存を望む」
「それはダークムーン様が望んでいることではないわよ」
「、、、」
トオルは、142号の鋭い口調に気圧されているようだった。
俺はトオルを庇うように前へ出た。
「拒否した場合は無理矢理でも連れて帰れと言われているの。ヒーローの仮面よりも優先的にね」
「ダメだ!トオルは渡さない!」
「106号は連れて帰るわ」
142号は黒い毛を針のようにして飛ばしてきた。瞬時に光の盾を作り出してそれを防いだ。
トオルも懸命にダークボールで応戦しようとするものの、技が打てないでいた。やはりドールに対しては攻撃できないようだった。
俺は素早く光の弓矢を引き、徐々に142号を追い詰めた。まだコアは壊さない。
「ダークムーンに伝えろ。106号は、トオルは俺の大切な人だ。勝手に連れ帰ることは絶対に許さないと」
「残念だわ。ドール同士で争いたくなどないのに。106号、これでいいのね?」
「、、、あぁ」
「お気に入りに裏切られて、ダークムーン様は嘆かれているわ。貴方には相応の罰がくだ」
言葉の途中で、142号が激しく光った。
「っ!」
俺はトオルを抱きかかえ、素早く光のバリアを張った。
142号の体が爆発した。
肉片があちこちに飛び散り、しばらくすると黒い粒となって消えていった。
俺はトオルを抱きかかえたまま、素早く自宅に転移した。
◇
俺たちはその晩、互いの存在を確かめるように体を貪り合った。
俺は疲れて眠るトオルを抱きながら考えた。ダークムーンに逆らえば、トオルもあの142号のような目に合ってしまうのではないかと。
ならば、そうなる前に、俺がやることは一つだった。
「ダークムーンを倒すしかない」
俺は呟いた。
三日後に転送機能が直り、常夜に引き戻されると同時に、俺もくっついていければ、奴に会えるかもしれない。
《危険すぎます。奴がどんな能力を持っているのかワタシにもわかりません。こんなドールなど奴にくれてやりましょう》
ベマの念話に俺は舌打ちをした。
"ふざけるな!俺は奴を倒す!"
《まぁ、それが叶えば私も嬉しいですけどね。でも他のヒーローと共闘するならまだしも、単体での乗り込みはあまりにも危険すぎます》
ベマの言葉には一理あった。
たしかに、世界に散らばる仲間2人を誘えれば心強いと思えた。しかし、現実には彼らに連絡する手段はなく、仮に誘えたとしても付いてきてくれるとは限らななかった。
"ベマは他のヒーローと連絡できないのか?"
《できてたらとっくにやってます。昔のヒーローにはそんな力があったそうですが、兄様と姉様が創られた頃にはすでにシャイニー様の力は弱っていたようですから》
ベマの創造主シャイニーは自身の命を削りながら仮面を作り続けていたという。彼女は最後にベマにすべての想いを託して消えていったらしい。
抱き抱えたトオルの頭を撫でた。
彼を失いたくない。
そのためであれば何でもできる気がした。
破滅へのカウントダウンが始まっているとも知らずに。




