24話 二人旅⑥
「ごめん」
「いや、俺こそ」
まだ日の出の時刻に満たない頃、俺達は一つの布団でほぼ同時に目が覚めたようだった。
「その、痛くないか?」
俺は向かい合うトオルの髪を指で梳いた。
「少し頭痛はするけど、それ以外は特に。頑丈にできてるしさ」
トオルの笑みが、ぎこちなく見えて心が痛む。
「こんなつもりはなかったんだ、本当に。ごめん」
それは本心だった。今の関係を崩すようなことは避けてきた。少しの劣情も彼にぶつけまいと自分を律し続けてきたのに。自分の意志の弱さに嫌気がさした。
トオルは首を横に振った。
「違うんだ、耀。俺、いつからこんなにズルくなったんだろうな。普段の自分からは言えないからって、酒の力借りてさ。この前とは違って、ちゃんと覚えてる。耀の言葉も、俺が言ったことも」
「本当に?」
俺の問いに、トオルは小さく頷いた。
それって、つまり。
肝心なところで俺の頭はフリーズしてしまう。
「だから謝らないでほしい。ちゃんと、耀のこと、好きだから」
そう言うと顔まで布団にもぐってしまった。きっと顔が真っ赤になっているだろうと思うと愛しさがこみ上げてくる。
トオルからの好きという言葉は昨晩うわ言のように繰り返されていた。それが本心からだと分かって嬉しくならないわけがない。
俺も布団に潜り込み、トオルを捕まえた。案の定耳まで真っ赤にして布団に顔をうずめていた。目を合わせようとしてくれないので、手で優しくおとがいをこちらに向けさせた。
「好きだ」
そう言って優しく彼の唇を食んだ。抵抗されると思っていたけれど、受け入れてくれたことに嬉しくなってつい続けてしまう。
息が上がった頃、俺は彼の耳元で囁いた。
「一緒に入ろうか、風呂」
するとまたトオルが顔を真っ赤にした。
「絶対やだ」
「入りたかったんだろ?」
「このヘンタイ!」
ポコポコと俺の胸を叩いて離れようとするトオルが可愛くて離したくなくなる。
『はぁ、まったく』
少し遠くからベマの聲が聞こえた気がした。
◇
チェックアウトの時間がやってきた。
料金の支払いを済ませ、例年通り来年の予約をした。
「今年と同じ部屋を用意してもらえますか?また二人で来るので」
俺がそう言った瞬間、女将さんが俺とトオルを交互に見て心臓を押さえた。
「やだ、眼福、、、じゃなくて、お待ちしておりますわ」
女将さんはニッコリと笑いながら俺たちを見送ってくれた。
タクシーを待つ間、俺はあることに気が付き、そっと耳打ちした。
「トオル、顔が赤い」
「だって、お前があんなこと言うから」
どうやら、女将さんが挙動不審だったのはトオルの様子を見たからなようだった。
まぁいいか、事実なのだから。
◇◆◇
俺たちは帰路についた。
往路と同じ風景なはずだけれど、目に映る全てのものが色鮮やかに輝いている。
トオルと目が合うと、思わず微笑んでしまう。
彼は気まずそうに目をそらす。耳まで赤くなるのが可愛い。
新幹線に乗っている間、トオルが赤くなるのを何度も堪能した。
《ったく!前代未聞ですよ!ヒーローとドールが恋人同士だなんて!一族に怒られます、あぁぁ》
ベマは聲にならない叫びを延々と繰り返していた。
"ちゃんとヒーロー業はこなすから"
《当たり前です!あぁ、もう、信じられない!》
そんなベマの嘆きを聞き続けながら、我が家に帰宅した。
◇
夜、俺とトオルは一組の布団の上で会話していた。俺がトオルを背後から抱きしめる形で。
離れろよと言われたけれど、素直にそうするわけがない。
トオルも諦めたのか、されるがままになっている。
「今度また出かけよう。どこがいい?」
「んー、この前テレビで見たんだけど、イルカってやつのショーが見てみたい。あ、勘違いするなよ?お前を倒すヒントがありそうな気がするからな!」
「はいはい。水族館か、決まりだな。6月の休日にでも行くか」
泊まりで、と耳元で付け加えると途端に赤くなった。
「日帰りに決まってるだろ?!」
恥ずかしがるトオルは本当にかわいい。
「日帰りなら、江○電に乗ってk市あたりも周るか」
俺の提案にトオルは目を輝かせた。
「ほんとか?!この前ぶら○途中下車の旅で特集してたんだ!紫陽花、だっけ?それがたくさん咲いてる寺があるんだろ?」
「そそ。その時期なら結構咲いてると思う。楽しみだな」
このときの俺は幸せの絶頂にいた。
その後突き落とされるとも知らずに。




