小話1 胃袋を掴め
一緒に暮らし始めて3日後。トオルは夕飯を作ると言い始めた。
「無理して作らなくても」
「いや、それはダメだ。俺のような存在は"ニート"と呼ばれるのだろう?俺のプライドが許さない」
そう言いながら、トオルはスーパーで一緒に買った食材を並べていく。今日は豚の生姜焼きを作ってやると言って聞かない。
「いや、でも、包丁とか危ないしな?」
「お前にこれ以上借りを作りたくない。それに、、、」
トオルは少しだけ口元を緩めた。
「何だ?」
「いや、なんでもない。とにかく見てろ。ダークムーン様の辞書に不可能はない!」
俺は不安でしかなかった。
しかし、手出しはするなと頑なに言われてしまったので見ているしかできない。
俺は意を決してそっと見守ることにした。
◇
「お前、本当に料理初めてなのか?」
「初めてだ。常夜ではする必要がないからな」
「、、、恐ろしい子」
食卓に並んだのは、美しすぎる生姜焼きとプロの料理人並みのキャベツの千切り、わかめの味噌汁、十五穀米入りご飯。
クックパ○ドを見ながらだったとは言え、包丁すら持ったことがなかった人がここまで作れるのかと驚愕した。
匂いも美味そうとしか言いようがない。
「で、どうなの?食べれそうなの?」
「めちゃくちゃ美味そうです。早く食べたいです」
◇
「めちゃくちゃ美味いです」
「ふふ、俺の勝ちだな」
「負けだ。これは勝てない」
『ドールに負けるなんて許しません!例えどんなことでも!』
「こっちに来る前にデータベースを暗記しておいてよかった」
ダークムーンが蓄積しているというデータベースには、俺の好物は豚の生姜焼きとなっていたらしい。事実が故に怖かった。ダークムーンは一体どこからそんな情報を仕入れてくるのだろうか。
「ダークムーン何者だ?!」
「お前らの言葉であるだろう?敵をやっつけるには胃袋を掴めって」
「、、、そんな格言だったか?」
「ダークムーン様が言ってたから間違いない」
トオルはダークムーンに傾倒しすぎている気がする。いや、ドールだから仕方ないのか。
「お代わりしていいか?」
トオルがうなずいたので、ご飯をよそった。ご飯がすすむ。この生姜焼きがあれば無限に食べられそうである。
『耀、そんなに食べたら太りますよ』
「ちなみにデザートにプリンも作ってみた。プリンも好きだろ?」
「有能か!ダークムーンが怖い」
俺は本気で自分の体が心配になった。こんなに美味しいごはんを毎日出されたりしたら、俺は間違いなく肥えてしまう。
俺の顔色を見たトオルが、ニヤリと口元を歪めた。
「ふふっ、お前が太ればアーリートワイライトマンの動きも鈍くなる。そしたら仮面を奪える」
「?!」
『恐ろしいドールですね?!』
俺はトオルの策略にハマってしまったのかもしれない。
ちなみに、プリンは美味しすぎた。大好きな近所の洋菓子店のプリンを軽く超えていた。
「恐ろしい子、、、」
俺はプリンを食べながらもう一度呟いたのだった。




