ジュリアのいつもと違う朝 20
いつものようにお茶を煎れて、シャインさんの部屋へゆく。
お盆を持つ自分の右手にある指輪を見て、昨日のことが夢じゃないって実感した。
なんだか、不思議な気分だな。
いつも通りなようで、いつも通りじゃない朝だ。
ノックをして部屋に入ると、珍しくシャインさんが起きてなかった。
私はお盆をテーブルに置いてカーテンを開ける。
今日は少し暑そうだな。
ベッドを覗くとプラチナブロンドの髪が、布団の間からこぼれてる。
「シャインさん、シャインさん? 朝ですよ」
声を掛けても返事がない。
「シャインさん。シャインさんてば、朝です。朝ですよ!」
仕方なく布団を掴んで捲ろうと手を伸ばしたら、白い手が伸びて来て私の腕を掴んだ。
「!!!」
思い切り引っ張られて、私はベッドの横にしゃがみ込んでしまった。
布団の間から顔を覗かせたシャインさんが、眠そうに私を見る。
鼻と鼻がくっつきそうなくらい近い。
近い、近い、近い!
顔が近いから!!
「シャ、シャインさん。朝です」
寝起きのシャインさんは無防備で、なんだか色気がダダ漏れなんだからやめて!
淡い、淡いブルーアイが私を不思議そうに見つめてる。
その瞳に戸惑う自分の姿が映ってた。
「……ジュリア?」
「そうですよ。朝ですってば」
彼は私の腕を離すと、大きく欠伸をしながら布団を跳ね除けた。
「おはよう」
「……おはようございます」
ビックリした。ビックリした!
慌てて立ち上がった私は、テーブルに行ってお茶を用意する。
心臓がバクバクいってるじゃない。
もう!
彼はのそのそとベッドを出ると、いつもの椅子に座って眠そうに目を細めてる。
「昨日は遅かったんですか?」
「ん? ああ。考え事しちゃってね」
寝ぼけてたんじゃ仕方ないけど。
危うく乙女を布団に引っ張り込むところだよ。
「目を覚ましましょう? はい、お茶です」
「ありがと」
シャインさんは、ヘニャって子供みたいな笑顔を見せた。
ぐっ……と。
可愛いけど、堪えて。
ものすごく愛らしく見えてるけど、堪えて!
彼にカップを渡して、窓を開け放つ。
早朝の空気は少し冷えてて気持ちいい。
「今日は暑くなりそうですね。そういえば、夏でもミルクティーでいいんですか? 炭酸水とか、少し甘くしてお持ちすることもできますけど」
私が振り返ると、彼はミルクティーを啜りながら瞬きした。
「お茶でいいよ。熱めのお茶は目が醒めるから」
「分かりました」
洋服ダンスから夏向きのシャツと、制服を出して、ポケットにハンカチを入れる。靴下と下着も夏向きでね。
「着替えを手伝いますか?」
いつもなら、即座に自分で出来るって返ってくるのに。
彼は少し考えるようにして。
「……じゃあ、手伝って」
そう、言った。
——これ、初めてじゃない。
まあ、今日は少し寝坊してるし。
昨日が遅かったなら、まだ、覚醒してないのかもしれないし。
「失礼します」
私は少しぎこちない動きで、彼のパジャマを脱がせにかかる。
……髪が柔かい。
首が骨ばってる。
思ったより、ずっと腕が長いし。
胸が広い。
爽やかな柑橘系の香りがする。
鎖骨って、こんなにクッキリ見えるのね。
雑念ばっかり浮かんで来る。
こんなんじゃ、メイド失格じゃない?
私はなるべく平静を保ちながら、袖なしの下着を被せ、シャツを着せてボタンを留める。
その間、シャインさんは私を見つめてて、されるがままになってる。
少しは自分でやろうよ。
ずっと見られてると、恥ずかしいじゃない。
後はズボンを……。
さすがに——下はちょっとな。
思わず躊躇して手を止めると、クスッと笑う声が聞こえた。
笑い事じゃないから。
嫁入り前の娘がすることじゃないから!
「ズボンは自分でやる」
「……はい」
ホッと胸を撫で下ろす私に、彼は甘えるような声で言った。
「髪を縛ってくれないか?」
「……畏まりました」
ここまできたら、無心だわ。
靴下を履くシャインさんを前に、ブラシで髪を梳いて首の後ろに集め、いつも使ってる茶色の紐で結ぶ。
「痛くないですか?」
「ああ」
「……緩いかな」
「大丈夫だろ。ありがとう。下がっていいよ」
「はい」
朝から刺激が強すぎるよ。
少しクラクラしながら部屋を出て、扉の前で息をついてたら。
——くくくっ。
押し殺したようなシャインさんの笑い声が聞こえて来た。
揶揄われたんだって分かったら、少し腹が立ってくる。
顔が熱いし。
きっと、カチコチだったし。
あの人には、自分の攻撃力の高さを自覚して欲しい。
私はその場で何度か深呼吸する。
たぶん、顔が真っ赤になってるよね。
少し冷ましてから降りないと、アンジュさんに心配されちゃう。




