第二節 蠢動
「サガ殿、どうやらヤマトの女王は斃れたらしいのぅ」
「クナ殿……それはまことで?」
「さればそなたはいかがする?」
「……」
「そなたに良き話を知らせよう」
「良き話?」
「実は、亡きヤマトのヒメミコには、野に隠した姫君がおると聞く」
「ヒメミコに姫が?」
「さよう。ヒメミコはヤマトの証、ただ一人の妻となるを許されず……されどその実……」
「さればヒタが……?」
「さぁ、それは分からぬ」
「……して、その姫は今……」
「野に下ったヒタの臣が、己が娘として育てている……と」
「それはまことか……?」
「まこと……? そう……まことか否かなど、どうでもよいであろう? まことであればまこと。まことでなければ……それだけのこと……そう、そのヒメミコじゃ……」
「うむ」
「そのヒメミコは、まことアサ王のヒメミコであるか?」
「何を申される……?」
「みなが信じ……みながそうだと申せば、そはヒメミコよ。例え、まことのヒメミコでなくとも……さらば……」
「さらば……みなが娘と信じ、みなが娘と申さば……」
「そう……名をトヨと申すらしい。ヒタの臣が匿っておるということは……」
「……」
「ヒメミコが亡くなれば、次はヒタがヤマト王になることであろう。されど、ヒメミコにまことの娘がおっては……」
「ヒタは王にはなれぬゆえ、娘を……」
「……かもしれぬ……」
「かもしれぬ?」
「申したであろう、まことなどは意を持たぬ。ヒタのまことの意など我らが申すに及ばず。みなが申し、みなが信じれば、それこそがまことよ……」
「……さて、そなたはこの話、どうするおつもりぞ? もし良ければ……儂もそなたに力を貸そうぞ……」
「クナ殿……」
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「女王はお隠れになられた……」
「されば、女王のために塚を作る」
「方百歩の、これまでどの王も作らなかった、大きな塚を……ヤマトの証として、女王の証としての塚を作ろうぞ」
「女王には鏡とともに塚に入っていただく。塚の中は暗かろうが、鏡とともにあらば明るくもなろう」
「女王がお隠れにならば世も暗くなろう。されど、陽はまた必ず昇る。その時には、鏡をもて、世を明るく照らそうぞ」
「オモカネ、タケ、ウワハル、シタハル、カナヤ、フツ、ミヤ……頼むぞ」
「はっ!」
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。勅使河原です。
第1話の前書きにも書いたのですが、私の子供の頃の夢は歴史家になることでした。いつか邪馬台国を発掘したい、と思ったのです。まぁ後から考えてみれば私のような浅学非才の身にあっては叶わぬ夢だったでしょうから早々に諦めたのは良かったことかもしれません。替わりに、という訳ではありませんが、妄想の中で邪馬台国のストーリーを発掘してみることにしました。
このお話に出てくる人はみんな、自分の思い描いた道を歩けずにいます。アサ王はヤマトを成さぬままに戦死してしまいます。ヒメミコに至っては、想い人とも実の娘とも離れて王の道を歩みますが、やはり道半ばにして斃れます。ヒタも同様ですし、タケに至っては負けてばかりです。
世の中は「不言実行」的なことが持て囃される風潮にあって、何か夢を語ったり目標を持つことが格好悪いように思われたりもします。そして夢を叶えられないと「大言壮語を吐いたくせに」と笑われます。結果、夢を忘れることが大人になることだ、と自分自身に言い聞かせます。「夢」とは叶えた人だけが後から語ることを許される、いわば結果の後付けになっているのが現状のようです。
でも本当は……
夢に向かって歩くだけで人は美しい。例えそれが叶えられないとしても。夢とはそれを叶えた人だけの専有物ではないはずだ。そんなことを思ったりもする私がいます。そんな思いを、登場人物達に託してみました。少しでも伝わってくれると嬉しいです。
ところで、この小説(?)は、試しに会話文だけで書いてみたらどうなるか、と思って書いてみました。いわゆる「地の文」が無いので読みにくい・分かりにくい部分も多いと思います。特に、三者以上の登場人物による会話描写は大変難しかったです。一方で、余計な文章が取り除かれた結果、全体がアップテンポになったような気もしています。尤も、解説が必要なところは全て会話文に取り込む必要があることから、いわゆる「説明がましい台詞」が多くなってしまったような側面は否めません。この辺りのバランスの悪さについては、筆力の無さを痛感しているところです。
また、最初の方はあまり「熟語」も使わないようにしていました。物語の中ではギ国と交流が進む中で少しづつ社会が進化していきます(特に技術面や戦術面)が、同時に日本語も洗練されていく中で文中の「熟語」が増えていきます。ヒメミコの口調の、最初の頃は語尾が「であろ」だったものが「であろう」に変わっていくように、人や社会が成長していく様を会話文の中で表現しているつもりなのですが、結果として最初の方は変にまだろっこしい表現が多くなったと自覚しております。とは言え、外来語(カタカナ語だけでなく熟語も含めて)を排除して文章を表現するのって、結構難しい試みでした。
この辺りは、いつか「地の文ありバージョン」も書いてみることで整理できるといいなぁ、などとも思ってたりします。尤も、その前に「第二部:トヨの章」を書くのが先かなとも思っています。
そんな訳でとりあえず「第一部:ヒメミコの章」はここで完結です。ヒメミコは亡くなりましたが、ヤマトの物語はまだまだこれからが本番(の予定)です。
最後に、もしよろしければご感想等お寄せ頂けると大変嬉しいです。またご評価やブックマーク登録などもして頂けると幸いです。折角色々教えて頂いても私の筆力の無さが原因でそれを反映することは難しいかもしれませんし、「誰誰を殺さないで欲しかった」などと言われても困ってしまうのでしょうけれど、みなさまのご感想をお聞かせ頂けると大変嬉しく思います。どうぞよろしくお願いします。




