93.モテ高校生は帰省する
「……俺、だから?」
「そう。雅人先輩でもなく、他でもないお兄ちゃんだから好きになったんだよ」
美咲は、俺を真っ直ぐと見つめながらそう言う。
「……それは、どうして……」
「どうしてって聞かれても、私が知ってるお兄ちゃんは人に好かれるに値するから……かな? 証拠とか、根拠はないけど」
好かれている今の状況こそ証拠だなんて言いながら、美咲はにへらと笑う。疑うわけではないけれど、涼風と麗華……さんの気持ちが嘘ではないのなら、確かに証拠になるのかもしれない。
「結局のところ、こればかりは信じるかどうかはお兄ちゃん次第だけどね? っと、いただきっ!」
「あ、おいっ! それはお土産として買ったんだぞ?」
「そんな堅いこと言わずにさっ! ほらほら、私の分分けてあげる」
「んむっ……。はぁ、分けるも何も俺が買ったんだけどな……」
口に突っ込まれたお菓子を飲み込んでから俺はため息を吐いた。
いや、美咲の意図は分かっている。
大方、暗い雰囲気になりそうだからと切り上げるためにわざとお土産を取りだしたのだろう。その証拠というわけではないが、美咲は話は終わったと言わんばかりの態度を取っている。
美咲の下手くそな気遣いに気がつかないふりをしながらも、その気遣いに小声で感謝の気持ちを伝えた。
「美咲、ありがとな」
「うん? 何か言った?」
「いんや、久しぶりの帰省だなって」
「ふぅん。違ったような気がするけど……まぁいっか」
もしかしたら聞こえていたのかもしれない。そんな風に考えてしまって、小恥ずかしくなった俺は窓の外に目を向けた。
トンネルを抜けた車窓に映る山には黄色がかった木がところどころに存在していて、季節の変化を感じさせる。
少し早めの秋の気配がした。
秋。
読書の秋。
運動の秋。
……変化の秋。
☆★☆
バスで揺られること約二時間。目の前に広がるのは見覚えのある景色。
「たった数か月戻ってきてなかっただけで、こんなに懐かしい気持ちになるもんなんだな……」
「何言ってるの……? もしかして酔った? 自分に」
「……なんか辛辣じゃない?」
早く降りろと美咲が急かしてくる。
ここは終点だし、バスを降りるのは俺たちで最後だから迷惑はかけていない……はずだ。まぁ、ただ黄昏ているわけではなく、回数券を買っているだけだから本当に何の問題もない。
購入した六回券の内、俺と美咲の分の二枚を切り取って入れる。交通系ICカードでの支払いを推奨しているくせに、ICカードでの支払いには割引が一切ないのはどうしてなのか。
そんな疑問は一旦置いておいて、バスを降りた。
「あれ? ここらへんで待ってるって言ってた気がするんだけど……」
美咲がきょろきょろしながら言う。
駅まで両親が車で迎えに来てくれる予定だったのだ。それなのに見当たらないという美咲の疑問に対する答えは、スマートフォンを確認した俺には解決済みのことだった。
「降り場じゃなくて乗り場近くで待ってるらしい。だから……あれじゃないか?」
「えっと……あ、ほんとだ! 行こっ! お兄ちゃん!」