94.モテ高校生は車に乗る
「お父さんお母さんただいまー!」
「美咲、おかえりなさい。静哉もおかえりなさい。……彼女は連れてきてないのかしら?」
「ただいま。……いつも言ってるけど彼女はいないからな」
両親のもとに突っ込んでいった美咲の後を追って車の前まで移動する。
美咲の飛び込みを受け入れながら、からかうような言い方をする母さんに軽く返事をした。ちなみに、彼女云々は毎回聞かれることだ。
毎回軽く聞かれて軽く流す……のだが、今日は美咲がいた。
「でもお兄ちゃんもうすぐ彼女できそうだもんね?」
「お、おい美咲!」
「あら? あらあら? それってもしかして同じモデルの明華ちゃん? それともーー」
「--美里さん、聞きすぎも良くない。もしも静哉に彼女ができたらきっと報告してくれるはずだからそれを待つのが一番いいさ」
車の窓から顔をのぞかせた父さんが母さんに言う。
「……確かに真哉さんの言う通りかもしれないわね。でも、静哉は奥手なんだから逃しちゃだめよ?」
「奥手って……」
「大丈夫だよお母さん! お兄ちゃんは迫る側じゃなく迫られる側だから! ねっ? お兄ちゃん!」
「……あのなぁ……。いや、まぁ俺はいいけど、そういうこと他の人に言うのは本人が良いって言ってからにしないとだめだと思うんだが……」
「なら問題ないよ。二人とも良いって言ってたから!」
「良いのかよ!」
これが外堀を埋めるとかいうやつか? いや、二人とも良いって言っているのなら関係ないか。だけど、確かに言われてみれば俺は今迫られている状況なのか……。
「とりあえず、そろそろ車に乗らないか? ほら、父さんが待ちくたびれてるから」
「た、確かに……。そろそろ乗ろっか」
「そうだね、俺としてはまだここにいても良いけど、ここにずっと停めているわけにもいかないしそろそろ美里さんも乗ろうか」
父さんにそう促されて、俺たちは大人しく車に乗り込む。送り迎え用に乗降可能な場所だけど、ずっとい続けることはただの迷惑だろう。
俺にとってはこのいたたまれないというか、あまり話していたくない話を強制終了することができたから父さんの言葉は渡りに船だった。
「もうそろそろ一年半が経つが、静哉はあっちでの生活はもう完全に慣れたか? モデルみたいな仕事も含めて」
「うん、もう慣れたかな。自分の生活の流れというか、どういう時間配分で過ごせばいいかに迷わなくなったみたいな感じだね」
まぁ、最近は関わる人が増えたせいというか、おかげで少し違った流れの日々を過ごしているけれど、夜遅くまで遊んだりしているわけじゃないから大きな支障はない。
モデルの仕事も毎日入るわけではなく、多くても週に一回あるかどうかだし、終わる時間も夕方になるかどうかだから生活には支障がない。
それどころか、えは……麗華さんと勉強会をしたおかげでテストの点数は今までで一番高かったのだから誰からも文句のつけようのない結果だろう。
「そういえば、期末は知らないけど、中間テストの結果は今までで一番高かったみたいよね? 真哉さんも私もびっくりしちゃった。……もしかして将来なりたいものとか行きたい大学が決まって頑張りはじめたのかしら?」
……俺が考えていた通りのことを聞いてくる母さん。もしかして俺の心を読んだのか? ……それは無いか。
「いや、ただ図書館で勉強会をしたからいつもより取れただけだな。期末の時はしてないから中間だけの特殊事例みたいなもんだよ」
「そうなの。勉強会のおかげなのね。それって、えっと……雅人くんとしてるのかしら?」
「んー……、まぁそんな感じ」
ここで一ノ瀬さんと麗華さんの名前を出そうものなら厄介になることは目に見えている。実際、メンバーの中に雅人もいたのだからあながち間違いではないだろう。
「あっ! その反応! 麗華さんもいたんでしょ!」
「バッ!? おまっ! 美咲ッ!」
「麗華さん? 私、気になるわ?」
美咲が余計なことを言ったせいでせっかく言葉を濁した意味がなくなってしまった。例え面識があったとしても鋭すぎるだろ……。
「あれだ。順位が一桁台の人だ。それと、雅人も居たし、美咲が言った麗華さんの他に一ノ瀬さんって言う麗華さんの友達もいたから。ただ勉強会の規模が少し大きくなっただけだ」
「フーン……。静哉ったらいつの間にか雅人くん以外の友達を増やしていたのね。しかも呼び方からして二人とも女の子かしら?」
「いや、俺も友達くらい作ろうとすれば作れるぞ……」
「中学校の頃、友達はいない! 知り合いは多い! とか言ってた静哉が……ねぇ……。まぁいいわ。そういうことにしておきましょう。さっき真哉さんに聞きすぎも良くないって言われたばかりだしね」
うん、父さんに素直に感謝しよう。
中学校の頃の俺は多分、一番モブを極めていたと思う。例えるなら集合写真に写ってるけど反射光で顔が写ることはないようなキャラクター。
雅人のような特定の友人がいなかったせいで、ぼっちを回避してモブを貫くということが非常に難しくて、じゃあな、という声はかけられるのに写真は一緒に撮らないような知り合い以上友達未満みたいな人が溢れていたのだ。
「ほら、そろそろ家に着くから用意しなさい」
質問攻めにあっている間に家が近づいていたようだ。
さっきからちょうどいいタイミングで話がそれている気がする……。




