60.脇役高校生は遅れる
平日が過ぎ、撮影の日である土曜日つまり夏休み初日、いつも通りの時間に起きて準備をする。今日は久しぶりの外での撮影の予定だった。
外を見ると雲が空を覆っていて、今にも雨が降り出しそうな調子に見える。今日は水着ではないが、海などできるような涼しい服装の撮影をする予定だったため、小雨くらいなら問題ないのかもしれない。
とりあえず朝ごはんに目玉焼きとインスタントの味噌汁を飲んで、食後のコーヒーを飲みながらニュースを付ける。
「あー……午後からは雨の予報か。一応傘持っていこうかな……」
雨の日は基本的に嫌いだ。撮影の日ならましだが、長髪で目元が隠れかけている俺の髪が濡れると目に髪の毛が刺さったり雨が髪を伝って目に入ってくるのだ。
まぁ、平日の朝は早く家を出ているせいで天気予報を見ることができずに傘を持っていかなくて濡れるというのが定番な流れなため、土日に濡れることはほとんどない。
といっても、天気予報は必ず当たるわけではないし何度か雨に降られたこともある。それに、平日もあまりにも雨が降りそうだったら傘位なら持って行っている。
テレビを見ていたらメッセージの通知が鳴った。何かと思い確認してみると、その相手はマネージャーさんからだった。
「ん? なになに? 今日の撮影はやるってだけか。あ、でも時間が少し早くなってって、やばっ! もうそろそろ出発しないと間に合わないじゃん!」
俺は急いで着替えを済ませて荷物の準備をする。持ち物は大体決まっているからいいのだが、髪を整えなければいけない。
鏡の前に立って急いでセットする。屋内やスタジオでの撮影ならこのまま行っても問題ないのだが、今日のような屋外で撮影をするときは絶対に髪を整えるようにしている。
どこから聞きつけたのか分からないが、屋外で撮影をするときはその会場に撮影が始まる前からいるファンもいるし、SNSなどで拡散されたのかは分からないが、撮影をしていると知らないうちに野次馬が増えていく。
俺は神代光生が日裏静哉だとばれるわけにはいかない。だから、もしものことを考えて必ず髪をセットするのだ。
いつもより少し雑だが、髪のセットを完了させてから家を出る。なるべく急ぎ足で、撮影場所まで向かっていく。
それでも若干遅れてしまったようで、撮影現場にはスタッフと今日一緒にするメンバーである涼風がすでに待っていた。
「遅くなってすみません!」
「おっ、光生くんやっと来たわね。でもまぁ、私も連絡するのが遅れてしまったからしょうがないわ」
「静哉くん遅い! もう私準備終わっちゃってるよ!」
「悪い! 急いで着替えてくる! もう少し待っててくれ!」
俺は急いでメイクアップアーティストさんのところへ向かう。撮影用の服に着替えることすら終わっていないし、髪はとてもじゃないがセットしたとは言い難い。
この状態だと日裏静哉と神代光生の中間くらいで、髪が上がっているおかげで神代光生と判断できるというレベルだ。
「お疲れ様です。入ります」
「お、光生くんお疲れ! 今日は雨が降ると悪いってことで少し早めに始めるって話になったんだよね」
「やっぱりそうですか? ご飯食べてからテレビを見てたらいきなり早めるっていう連絡が来たから焦りましたよ」
「というと……10時くらいだから随分遅い朝ごはんなんだね。ちゃんと夜更かしせずに寝てる? 睡眠不足は肌にとって一番の敵だよ」
「大丈夫ですよ。睡眠時間は充分に取ってます」
俺は平日は早く起きて休日は遅く起きるという生活習慣だが、実は寝る時間自体は変わっていない。
冬は寒くて布団から出ることができなくなってしまうため起きる時間が遅くなるのだが、夏は夏で微睡みで過ごすことが好きなため起きるのが遅くなってしまう。
夢なのか現実なのか分からないぼーっとした時間、あの瞬間が好きで何度も寝なおしてしまう。
「じゃあ早速着替えてね。今日は海コーデだっけ?」
「そうですね。水着の上に重ねて着ることをイメージした服らしいです」
「なるほどなるほど……じゃあ着がえて来次第髪のセットをするから着替えてきてね」
とりあえず更衣室に入る。海やプールで着ることをイメージしている服だから前面がチャックになっていて簡単に脱ぐことができるようになっている。
これなら水の中に入った後に体が冷えることも防いでくれるだろうし、また入ろうとした時に簡単に着替えることができるだろう。
一応水着を想定しているらしいが、中は半袖の物を着れば大丈夫ということになっている。着替え終わって更衣室から出ていく。
「じゃ、髪を整えるから少しじっとしててね」
「お願いします」
「今日は表面にしかワックスがついてないから不自然に見えてたんだね。よっぽど急いでいたことが簡単にわかるよ」
「そ、そうですか……」
確かに朝は急いでいたが、不自然に見えるほどだとは思わなかった。次は余裕を持った時間にたどり着けるようにしようと心に決めた。
「よし! 行っていいよ。ばっちりだからね」
「ありがとうございます、行ってきます」
外に出ると、涼風がすでにカメラの前で待っていた。




