一服しようそうしよう
「ナニココ」
俺の発した情けない呟きは、風に乗って遥かな空へ…
そんなロマンチックな表現してる場合ではない
なんだこれ
どこだこれ
…夢か?
夢にしてはリアルすぎる…というか超寒いよ!
何が寒いって風が冷たいしすごい強い!
風がゴウゴウと音を立てて吹いている、風の又三郎なんて可愛いもんじゃない
暴風だ
俺の今の服装なんて草臥れたYシャツにネクタイとスラックス
上着も無いし寒いに決まってるだろ!
さっきまで暖房の効いた事務所に居たんだからしょうがないじゃない
いくら俺がメタボ気味だからって寒いもんは寒い
このままでは凍えてしまう
とりあえず、岩の上に座ったままでは尻が凍って割れてしまいそうだったので
行く宛ても無いまま歩き出す
(財布…あ、持ってた)
尻ポケットには使い古した財布が入っていた
とにかくコンビニにでも行って暖かいコーヒーが飲みたい
ここがどこだかわからないけれど、コンビニくらいあるだろう
中国とかフィリピンに出張で行ったときでもセ○ンイレブンあったくらいだし
ちょっと月が七つあったり成層圏に達しそうな木が生えてるとこでもコンビニくらいあるだろう…
あるよね…
無いか…
自販機でもいいよ!
あるよね!?
結論:無かった
あれから3時間ほど歩き続けたが、行けども行けども草原が続くばかり
コンビニどころか自販機も無いし第一村人すら発見できず
俺は地面にへたりこんでしまった
胸ポケットからスマホを取り出す
圏外の表示がさらに俺を憂鬱にさせる
デジタルの時計表示は4時を少し過ぎたくらい
眠い、しかしこのままここで眠ったら凍死してもおかしくない
眠気を覚ます為に煙草を吸うことを考える
強い風で火が点かないライター
風除けも無い草原で、身体を縮めて何回も何回もライターのスイッチを押しこむ
ひと押し毎に涙が溢れてくる
なんでこうなったんだろう
つまらない人生ではあったけど、一応できるだけのことはしてきた
他人に後ろ指差されるほど悪いこともしてないし
誉められるようなこともしてないけれど
とにかく身の丈に合った人生過ごしてきたつもりだ
それなのに、こんな何処とも知れない辺鄙なところに飛ばされて
このまま凍えて死んでしまうかもしれないなんて…
シュボッ
心が折れかけたその時
やっとのことで火が点いた
俺は慌てて煙草を吸う
それこそ風俗の姉ちゃんの乳首だってそこまで吸わないよってほど
死に物狂いで煙草を吸った
紫煙は立ち上がる暇も無く風に飛ばされていく
一本吸い終わる頃には、遠くに見える山脈越しに昇る朝日が見えた
まるで俺を励ますかのような朝日にしばし視線を奪われていると
陽光を背に、何かがこちらへ飛んでくるのが見えた
空に浮かんだ芥子粒大の物体は、見る間に大きくなっていく
…速い
めっちゃ速い!
「はや…ブゴっ!」
そうして俺は、謎の飛行物体になぎ倒され、短い一生を終え…たわけではなかった
「迎えが遅くなってスマン!ゴトウ殿!」
謎の飛行物体改め、竜に乗った騎士鎧の言葉を聞きながら
全身打撲で死にかけている俺は
あの世からのお迎えに茶を出そうかどうか迷っていた




