第十四章:七不思議の調査準備
翌朝。
珠紀は再び学園長室を訪れ、正式な任命を受けた。
「昨日の今日で、よく決心してくれました。こちらからも感謝を」
桃華は、丁寧に頭を下げる。言われてみれば、昨日は寮対抗戦が始まろうとして百鬼夜行に襲われたのだ。そしてそのまま、七不思議の調査の話と、珠紀がやるべき役割の話が始まった。
「皆さんの役に立てるなら、良いと思ったんです」
言いながら、「(我ながら、よく決心したなぁ)」と珠紀はどこか他人事のように思う。
「では。よろしくお願いしますね、珠紀さん」
そう桃華から、笑顔を向けられた。
「はい」
自分で決めたことだけれども、やっぱり重いかもしれない。そう、一瞬だけ後悔の気持ちが湧き上がった。
「(……でも、やるって決めたんだから)」
珠紀の内心を知ってかしらでか、桃華は「期待していますよ」と言うだけだ。
「ご期待に添えられるよう、尽力致します」
そんな言葉を、珠紀は返す。どうせ、失敗しても現状と変わらない。それなら、良い未来に向けてできうる限りの努力をするしかないだろう。そうに決まっている。
学園長室から出た珠紀は、手に渡された質の良い羊皮紙のような任命書を握りしめていた。そこには「七不思議調査監査役」の肩書きと、桃華の直筆の署名が記されている。
獬豸殿の自室に戻ると、珠紀は机の上に任命書を広げ、じっと見つめた。
「……正式に、始まるんだ」
責任の重さが、改めて全身にのしかかってきた。学園全体の封印強化を主導し、各寮の代表者をまとめ、七不思議を解決する——それは単なる生徒の役割を超えた、大変な重責だった。
そのとき、再び軽い身体的異変が襲ってきた。
右手が小さく震え始め、指先からざわつく熱が広がる。
「……っ」
珠紀は慌てて左手を右手の上に重ね、深く息を吸った。焦りが胸を締めつけるが、彼女は歯を食いしばってそれを抑え込んだ。
「(今、動揺している場合じゃない……。時間が少ないんだから)」
珠紀は任命書を丁寧に折りたたみ、机の引き出しにしまった。黒牡丹の寮章を胸に付け直し、鏡の前で自分の顔をまっすぐに見つめる。
「やるしかない……私にできることを、全部やる」
震えはまだ残っていたが、珠紀の目には弱々しいながらも強い決意が宿っていた。
これが、七不思議調査監査役としての初日だった。
各寮の代表者たちを招集し、最初の調査に向かう準備を始めなければならない。
珠紀は部屋の扉を開け、朝の光が差し込む廊下へと一歩を踏み出した。
学園長の指示に従い、珠紀は各寮から選抜された代表者たちを中央会議室に集めた。代表者たちは皆、快い返事をくれたのだ。
話し合いの場に指定した会議室の前に、珠紀は立った。
「……しっかりしなきゃ」
気合いを入れ、深く息を吐く。
会議室の重厚な扉を開けると、すでに数人の生徒が席についていた。皆、昨夜の百鬼夜行の余波で表情が引き締まっている。
「(うわ……。みんな、揃ってる……)」
当たり前の感想だが、圧巻だった。珠紀が最後の参加者であることをきちんと確認して、会議室の扉を閉める。
「(待たせちゃったかな……)」
そんな心配が珠紀の胸を僅かに過ぎった。だが開始時間には間に合っているはず。そう自身に言い聞かせる。
代表者たちは各寮の寮長、副寮長たちだ。寮長、副寮長が出席していない寮もあるが、それでもここに居るメンバーたちは皆異能持ちである。今回の会議の議題は、異能持ちがやるべき役割の話だからだ。
珠紀としては、一度顔を合わせた顔見知りの者たちなのでその辺りはあまり強い緊張はしなかった。
「(……だけど)」
軽く、珠紀は会議室内を見回す。飽くまでも、彼らは各寮の代表者だ。会議室内は緊張感と、元々の寮同士のライバル意識が室内に漂っている。
誰とも視線を合わせず腕を組む者、好奇心丸出しで珠紀を観察する者、互いに牽制し合う空気——そんな空気感が会議室を満たしていた。
「(大丈夫。私はやれる。やるしか、ないんだから……!)」」
よっぽどな失言さえしなかれば、この会議も乗り切れるはずだ。そう、珠紀は自身に言い聞かせる。会議中に言葉を噛んでも、内容をすっ飛ばしても大丈夫。言うべき言葉をきちんと届けられたら、問題ないのだ。
珠紀はテーブルの上座側に立ち、深呼吸をしてから口を開いた。
「皆さん、集まっていただきありがとうございます。私は獬豸殿の九条珠紀です。学園長より七不思議調査の特命監査役を任命されました。この活動では、皆さんと協力して学園の封印を強化し……私の呪いを解くことが目的です」
声はまだ少し緊張で硬かったが、珠紀は監査役としての自覚を込めて、一人ひとりの顔を見回した。
室内の視線が、珠紀に集中する。
ある者は小さく頷き、ある者は「よろしく!」と明るく声を上げ、ある者は静かに微笑んだ。他の代表者たちもそれぞれ反応を示し、チームとしての初顔合わせが始まった。
珠紀はテーブルの中心に立ち、自分がこのチームの要となることを、改めて実感していた。
「まずは皆さんの自己紹介をお願いします。私の他に、調査での役割も簡単に確認できればと思います」
珠紀が自己紹介を促すと、代表者たちが順番に口を開く。
「私は麒麟殿寮長の柳燕禊です」
禊は、落ち着いた声で言った。
「改めまして玄武殿寮長をつとめております、柳雨夕珠華です」
そう告げ、夕珠華は物腰柔らかく頭を下げる。つられて、珠紀も頭を下げた。
「え? あー…ワタシ美風。一応玄武殿の副寮長やってまーす、でもまあ気軽に話してもらっていいから、よろしく」
美風はマイペースな挨拶を済ませる。
他の寮の代表者たちも、それぞれの所属寮と名前、役職などを簡潔に述べていった。
朱雀殿、鳳凰殿、青龍殿、麒麟殿、白虎殿、白澤殿、玄武殿。すべての寮の代表者たちの自己紹介が粛々と行われる。誰も邪魔も茶化しもしない。たったそれだけだったが、そのことが、彼らの責任感の強さや誇りを珠紀には感じられた。
珠紀は頷きながら、自分の役割を伝えた。
「私は特命監査役として、全体の情報共有と最終判断を担います。皆さんの意見を尊重しつつ、公平にまとめていきたいと思います」
すると、話題は自然と桃華が提示した報酬に移った。
「結局のところ……最も活躍した寮には、優先施設利用権や特別奨学金、卒業推薦枠が与えられるって話だよな」
一人の代表者が楽しげに言った。すると、途端に空気が張り詰める。その迫力に、思わず珠紀は息を呑んだ。
別の代表者が腕を組み、静かに付け加える。
「協力はするが……自分は自分の寮を優勝させるつもりだ」
他の代表者たちも、目が鋭くなった。協力しつつも、それぞれの寮への忠誠心と競争心がはっきりと顔を覗かせる。会議室の空気に、緊張と熱気が混じり始めた。「興味ないでーす」と言う声も少し聞こえたが、代表者の大半は桃華の示した報酬が目的だろう。
それでも構わない、と珠紀は思っている。だって、珠紀も実のところ「学園のため」と思って行動をしているが、自分の呪いが薄れるかもしれないという希望も目的に含んでいるからだ。
珠紀はそんな皆の顔を見回しながら、内心で複雑な思いを抱いた。
「(ライバル意識が強い……でも、それが力になるなら……)」
「皆さんのモチベーションは理解しています。私も……この活動で皆さんと一緒に、必ず結果を出したいと思います」
珠紀の言葉に、代表者たちがそれぞれ頷いた。
代表者同士としての初顔合わせは、協力と競争の両面を孕みながら進んでいった。
珠紀は少し間を置いてから、隣に控えていた教師の軽い頷きを受け代表者たちに向かって切り出した。
「では、改めて今回の活動について説明します」
彼女は資料を軽く広げながら、落ち着いた声で続ける。合わせて、代表者たちにあらかじめ配られていた資料を、彼らも目を通す。
この資料は、あらかじめ事務員の者が作ってくれたものだそうだ。会議が始まる前に一度目を通したが、とても内容が分かりやすかった。
――ちなみに、珠紀が発表する内容も、ある程度のカンペが用意されていた。任命式の後に渡されたものだ。「うちの事務員は優秀ですねぇ」と桃華が言っていたのを思い出す。
それにしても、昨日の今日で資料が出来上がっているのだから、とても優秀と言うか優秀すぎではないだろうか。
「この学園には、古くから七つの特別な怪異現象――『七不思議』が存在します。学園長によると、それぞれが学園の封印システムの要所となっているそうです」
そう言い始めると、会議室の空気が少し引き締まる。
「そして、この学園に封印されている九尾の力を抑え込む重要な役割を担っています。すべてに関わることで封印が強固になり、私の呪いも薄れるはずです」
資料をめくる、乾いた音が会議室に響いた。代表者たちは皆、きちんと資料を確認してくれているらしい。珠紀も会議を進めながら、再度資料に目を通す。
「具体的には……たとえば『姿を消す旧校舎の階段』や『深夜に泣く人形』などがあります。他にも残り五つありますが、詳細は調査を進めながら共有していきます」
珠紀は七不思議の全体像をぼんやりと伝え、代表者たちの反応を見た。
ある者は真剣な表情で頷き、ある者は「面白くなってきたな」と目を輝かせ、ある者は静かにメモを取り始めている。他の代表者たちも、好奇心と警戒心を浮かべていた。
「七不思議は単なる怪談ではありません。学園の存続、そして私の命に関わる問題です。皆さんの力を、ぜひ貸してください」
珠紀の言葉に、室内に静かな緊張と決意が満ちた。これで、代表者たち同士の共通認識が少しずつ整い始めているだろう。分かりやすい資料を用意してくれてよかった、と珠紀は内心で事務員の者に感謝するのだった。
珠紀一人だったら、こんな資料を用意できなかっただろう。そもそも、昨日の今日で会議を行わないとならなかったのだ。
ただの生徒である珠紀にできることなんて、本当に少ないのだ。きっと、桃華も色々を見越して用意をしてくれたのだろう。
珠紀は資料をめくり、学園長から事前に指定されていた調査対象を正式に伝えた。
「最初の調査対象は、『姿を消す旧校舎の階段』です。学園の西側にある廃校舎の三階から四階にかけての階段で、夜になると突然階段が消え、登った者が迷子になる現象が報告されています」
珠紀は簡潔に説明を続けた。
「過去の被害例として、数年前に探索に入った生徒二名が行方不明になり、一週間後に別棟で衰弱した状態で発見されたケースがあります。危険性は高く、空間が歪むため方向感覚が狂いやすく、怪異に襲われる可能性もあります」
会議室に緊張した空気が流れた。
代表者の一人がすぐに身を乗り出した。
「面白そうだな。自分が先頭で探索するよ。体力で押し切ればなんとかなりそうだ」
別の代表者が眉を寄せて反対する。
「無謀だ。事前に結界を張ってから入るべきだ。ルール無視は被害を増やすだけだぞ」
また別の代表者が静かに手を挙げた。
「事前の情報収集を優先しましょう。過去の被害者の証言記録を自分が当たります。珠紀さん、調査のタイミングは夜が良いと思います」
他の代表者たちも口々に意見を出し始め、軽い作戦議論が始まった。
「白天に行った方が安全じゃないか」「いや、現象自体が夜に出やすいらしいぞ」「記録係は複数いた方が……」
珠紀は皆の声を聞きながら、メモを取りつつ最終判断のタイミングを計っていた。
代表者たちの個性と熱気が、会議室に活気を生み出している。
「皆さんの意見を参考に、初回の調査は明後日の夜に予定します。詳細は明日までにまとめます」
珠紀の言葉に、代表者たちが頷いた。
「七不思議は7つあるんだから、各寮でそれぞれを担当したらいいんじゃないかな」
ある代表者が、ふと口に出す。すると「それもそうだな」「寮の者同士で連帯が取れるかも」「緊張しなくて良いな」と他の代表者たちも意外と肯定的だ。
「……そうですね。各七不思議の調査は、それぞれの寮で分担して調査することにしましょうか」
珠紀も頷く。
「じゃあ、どの寮がどの七不思議を調査する?」「自分はこっちが良いな」「多数決で決めよう」そう、代表者たちは話を進めていく。
具体的にどの寮がどの七不思議を担当するか、七不思議との相性あるいは難易度などを吟味しなければならないだろう。
「(……これは、生徒たちだけで決めて良い内容なのだろうか)」
そう、珠紀は不安に思う。そばにいた教師は「学園長に確認してみます」と答えた。珠紀は頷く。
そして、会議が一段落した瞬間、珠紀の胸に再び重い緊張が襲ってきた。
「(……私、本当に参加者たちをまとめられるの? 「九尾の花嫁」って……結局、私は何なんだろう……)」
九尾の花嫁として選ばれた自分の存在意義が、ふと頭をよぎる。怪異たちに執着され、学園の封印の鍵とされ、皆の視線を集める特別な存在――それが自分だという現実が、まだ受け入れきれずにいた。指先がわずかに震え、焦りが再び込み上げてくる。
すると、代表者の一人が明るく声を上げた。
「珠紀さん、緊張するなよ! 自分が前衛でバッチリ守るからさ。一緒に頑張ろうぜ!」
別の代表者も真面目な顔で頷いた。
「監査役として公平に判断してくれれば十分だ。自分たちも全力で協力する」
また別の代表者は柔らかい微笑みを浮かべて言った。
「珠紀さん、一人で抱え込まないでくださいね。自分たちも一緒になって解決しますから」
他の代表者たちからも、「任せろ」「情報はしっかり集めるよ」といった励ましの声が次々とかけられた。
珠紀は一瞬、目を丸くした。
その温かい言葉に、肩の力が少しずつ抜けていく。
学園長の発表で「九尾の花嫁」と公にされ、皆から奇異の目で見られるのではないかと恐れていたのに――この代表者たちは、彼女を特別視しつつも、ちゃんと一人の人間として受け止めてくれている。
「(……この学園の人たちは、私のことを……受け入れてくれるんだ)」
胸の奥が熱くなり、珠紀は思わず目を伏せた。
恐怖と孤独で張りつめていた心に、ほんの少しの安堵と感動が広がる。
「……ありがとうございます。皆さんと一緒に、絶対にやり遂げましょう」
珠紀の声はまだ小さかったが、そこには本物の決意が込められていた。
会議室に、代表者同士としての結束の芽が生まれ始めている。そのことに、珠紀は内心で安堵した。
「(……会議が始まる前は『このまま、話がまとまらなかったらどうしよう』って思っていたけれど。何とかなりそう)」
周囲を見回す。会議が始まった時は鋭い緊張感に包まれていたが、今はその鋭さは鳴りを潜めていた。
「ひとまず、どの寮がどの七不思議を担当するかは置いといて、七不思議について調べてみない?」
ある代表者が告げた。それに他の代表者も「それもそうだな」「そもそも資料ってあるの」「どうやって調べる?」と疑問を持ちつつも肯定した。
「調べるのなら、学園の古い資料室が良いかもしれません」
そう、今までを静観していた教師が告げる。
その日の午後、珠紀は代表者たちと共に学園の古い資料室へと移動した。
埃っぽい棚が並ぶ薄暗い部屋で、皆で古い記録や日誌、怪異研究の古文書を調べ始めた。1つ目の七不思議「姿を消す旧校舎の階段」に関する伝説や過去の目撃情報を集める作業だ。
ついでに、他の七不思議についての情報も集めるつもりがある。
一つ目の七不思議の調査を、どこの寮が行うのかはまだ決まっていない。だが、学園長が「では、こちらが決めておきますね」と言っていたので何とかなるだろう。
珠紀は監査役としてノートを広げ、熱心にメモを取りながら作業を進めていた。
「(この階段の歪みが、九尾の封印の一部に関わっているなら……私の呪いとも直結する……)」
自分の体に刻まれつつある紋様や、自身に起こった変化を思い浮かべながら、一枚一枚の資料に目を落とす。焦りはあるが、集中することで少しだけ心が落ち着いた。
代表者たちの個性が、すぐに活発な意見交換を生んだ。
「この記録によると、階段が消えるのは満月の夜に多いみたいだな」
一人の代表者が古い日誌をめくりながら明るく言った。
「ともかく、夜に行けばいいんだろ!」
だが、「無茶をするな」と別の代表者が厳しい目で資料を指差した。
「過去に三人行方不明になっている。結界を二重に張ってから入るべきだ。安全第一でなければ意味がない」
また別の代表者は静かに別の古文書を広げ、珠紀の隣で囁くように言った。
「珠紀さん、見てください。この目撃者の証言……『狐の影が階段を上るのを見た』とあります。九尾との関連が濃厚かもしれません」
他の代表者たちも加わり、「空間歪曲のメカニズムは?」「事前に護符を準備しよう」「記録は自分がまとめる」などと、活発に議論が交わされた。ライバル意識は残りつつも、代表者同士としての協力体制が少しずつ形作られていく。
珠紀は皆の声を聞きながら、メモの手を止めることなく熱心に取り組んだ。
自分の呪いを止める鍵が、ここにあるのかもしれない――その思いが、彼女の集中力をさらに高めていた。学園内に封印されている九尾や、ほかの七不思議の情報についても。
それから、資料室で様々な七不思議の情報を集めることができた。
「(良かった。だけど、おかしい……)」
そう、珠紀は違和感を覚える。こんな簡単に七不思議の情報が見つかっていいものなのだろうか。得も言われぬ不安がある。
資料室の窓から差し込む午後の光が、古い紙の上に淡い影を落としていた。
それから――準備が整った。
初めの七不思議の調査は、朱雀殿の異能持ちのメンバー達に託されたのだ。そう、桃華は決定したと言った。そして、他の七不思議に対応する寮についても決定が行われた。
最初の調査対象である「姿を消す旧校舎の階段」は、学園の西側、森の奥に佇む廃校舎にある。
一度、調査メンバーたちを派遣する前に代表者たちで廃校舎前の森に訪れた。
七不思議の大半は、廃校舎にあるという。それもそうか、と珠紀は思う。恐らく、封印されている九尾に効果がある場所に学園を創設したのだ。だから、今の校舎より旧校舎の方に七不思議が集まる――そのはず。
夕暮れの空が学園を橙色に染め始めていた。木々の影が長く伸び、風が木々をざわめかせる音が不気味に響く。遠くの森の奥からは、時折、狐の遠吠えのような音が聞こえてくる気がした。百鬼夜行の残党がまだ潜んでいるかもしれない――そんな緊張が全員を包んでいた。
「珠紀さん、大丈夫? 無理はしないでね」
一人の代表者が静かに微笑みながら声をかけた。
「大丈夫だって! 調査が始まるのはこれからなんだしさ!」
別の代表者が明るく肩を叩いてくれる。
また別の代表者も真剣な目で頷いた。
「朱雀殿のメンバーたちを信じてやってくれ」
他の代表者たちからも、励ましの言葉が次々とかけられた。
珠紀は皆の顔を見回し、胸が熱くなった。心の中で、珠紀は静かに決意を新たにする。
「(これで少しでも時間が稼げるなら……。一年というタイムリミットを、少しでも伸ばせるなら……絶対に、私は諦めない!)」
夕暮れの冷たい風が頰を撫で、廃校舎の方角から漂う不気味な気配が、珠紀の背筋を震わせた。空は徐々に紫色に染まり、提灯の灯りが頼りなく揺れている。学園の美しい大正ロマン風の風景さえ、今はどこか禍々しく感じられた。
それから、珠紀たちは会議室の方に戻る。
「資料室で見つかった資料以外にも、他にも何かないかこちらの方で調べておく」
そう、ある代表者が告げた。図書館や、他の資料室、各寮にある書庫――。記録が残っているだろう場所はたくさんある。
「分かりました。何か、新しい情報が見つかった時は直ぐに教えてください」
珠紀は、周囲の代表者たちに丁寧に頭を下げた。他の代表者たちも力強くうなずいてくれる。
心強くて、安心できる。信頼できる者が居るというのは、こうも頼もしい事か。
明日からは一つ目の七不思議の調査が始まる。珠紀は気を引き締め、息を吐いた。




