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1-38 ささやかな幸せ

話はアッシュ、ルーカス、アルムスで酒盛りをした夜まで少し遡る。


「アッシュさんがこの街にすんなり入ってこられたってことは何か衛士に見つからない方法でも見つけたんですか?」


「ん?その事なら夜の闇に紛れて城壁を乗り越えてきたから衛士になど会ってもいないぞ。」


「お前さん城壁をよじ登ったのか?ご苦労な事だのう。」


「んな面倒なことするかよ。俺が拠点としている村からギルド支部まで飛んできたんだよ。慣れれば便利だが失敗したら大怪我する事は間違いないけどな。」


あっさりと言ってのけたアッシュにルーカスとアルムスは暫し言葉を失った。


「お前さん、どんどん化け物じみてきてるな。」


「おっさん腕を治してもらった相手に対して化け物扱いは酷いだろ。」


「まぁ何にせよ、誰にも見られる事なく移動できるってことでしたら寧ろ好都合です。アッシュさんがこのまま屋敷に潜伏してるように見せかけたいんで、誰にも知られる事なく屋敷から出てもらって準備の方をお願いしたいんですが。」


「いいぜ、夜が明ける前に行動を始めるよ。お前らもヘマするなよ。」



夜が明ける前にアッシュはアゴルに帰りついていた。村の者もすべて眠りにつき静けさに支配されていた。なるべく音を立てないように目的の家に侵入する。この村では鍵を掛けるという概念が未だ定着しておらず楽々と侵入できた。

寝室の扉を開けると気配に気が付いたのか妙齢の女性が視線を向けてくるが声を上げる気配もない。女性は軽く頬を赤く染め静かに立ち上がると、寝巻に手をかけ留め具を外しながら近づいてくる。アッシュは慌てて女性の手を握りしめると困った顔をしながら顔を横に振り女性に耳打ちする。すると女性は顔を更に赤くして部屋から出て行った。


寝台に残されたのは幼い隻腕の少女だった。少女は深く眠りについているがアッシュは念のために更に眠りの魔法を行使する。魔法が発動したことを確認した後、素早く腕の再生に取り掛かり極限まで痛みと出血に気を遣いながら一滴の血すらシーツに跡を残さないように処置をした。明日の朝、目を覚ました少女の驚きの顔が目に浮かぶようだった。少女の寝顔を見つめていると先ほどの女性が戻ってきて涙を浮かべながらアッシュを抱きしめた。少女の母親と喜びを分かち合いその場を後にした。

アッシュは自分の家へと戻り幸せそうなフォウとサーシャの寝顔を確認してから自分の部屋に戻った。


ずっとアッシュの心に引っかかり続けたリアの腕は再生され、久しぶりに穏やかな気持ちで眠りについた。


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