1-20 暴走
少々荒っぽい表現がありますので、残酷な描写が苦手な方はご注意下さい。
治療院の外に出たアッシュは未だ近くに待機していた兵士たちを見つけると冷静さを必死で保ち中心にいるリーダー格と思われる男に何事か尋ねてみることにした。
「お前たちは誰の使いで何をしに来たんだ?」
「お前がアッシュとやらか、ローギッド卿がお待ちだ。ついてくるがよい。」
然も当然といった風に悪びれた様子もなく告げた男にアッシュは近づき顔面を拳で打ち抜いた。炸裂した頭部だったものが辺りを赤く染める。
「半分不正解だ。ローギッド卿とやらの使いは分かった。何をしに来たかを聞いている。」
腕に残る不快な肉片を男の服で拭いさりながら、残った兵士に再度問いかけ立ったまま痙攣を続ける頭部を失った兵士を邪魔だと言わんばかりに蹴り飛ばす。
「キサマ、我々がローギッド卿の私兵だと知っての狼藉か。」
アッシュは喋る兵士の言葉を最後まで待つことなく炭化させた。周囲に熱気と人の焼けた嫌な臭いが立ち込め残った兵士は言葉を失った。
「最後にもう一度だけ聞くがどんな命令を受けてきたんだ?よく考えて喋れ。」
アッシュが萎縮してしまった兵士に詰め寄って行くとズボンを濡らしながら腰を抜かして尻もちをついた。
「ろ、ローギッド子爵様の命で・・・ち、治療院もどきの解体作業を命じられました。あ、あの、す、すべて子爵様が新たに保証するので邪魔するものは処分し、するようにと。」
アッシュはやっと合点がいった。こいつら貴族共は奴隷や下層庶民など所詮家具程度の価値しか見出していないのだ。壊れれば新しいものを用意してやるといった具合にアッシュや庶民からすれば永遠に分かりあう事などできはしないだろう。諸悪の根源はローギッドなのだろうが命令を受け疑問も持たずに遂行した奴等にも虫唾が走る。ちゃんと解答できた一人以外を適度に火加減された炎で動かなくなるまでじっくりと焼き殺した。生き残った一人の兵士は地獄の光景を目に焼き付け、更なる地獄へと続く道をアッシュに案内させられるのだった。
ローギッド子爵邸に案内されたアッシュは迷うことなく門番を殺し遺体を邸宅に投げ込む。壁に当たって赤い花を咲かせるものもあれば窓を突き破り屋敷の中で体を飛び散らせる。爆ぜた体が悲鳴の連鎖を生む。ワラワラと出てくる私兵たちはまとめて炎で薙いで黒く奇妙なオブジェへと変貌させて行った。アッシュが門から屋敷の玄関口に到達するまでに2種類の人間に分かれていた。使用人や奴隷たちは怯え動こうともしない。もしくは逃げることを禁じられていて動くことも叶わないか、どちらにせよアッシュの眼中にはそういったものたちは映り込まなかった。もう一種類は身なりの良い馬鹿と、懲りずに襲い掛かって来る私兵共だった。弓でアッシュを射抜こうと大量の矢を浴びせられるが頭を守りながら手近なものを投げつけ撃破する。最初の内は数の暴力に物を言わせアッシュへと剣を届かせる者もいたが、すでに誰にもどうする事も出来ない。
アッシュは迫りくる兵士を掴むと壊れるまで武器として扱った。振り回し投げつけ殴打する。炎で焼き払う方が余程早いのだが楽に殺してやるつもりは全くない。館の中に入って身なりの良い者を広間らしきところに集め始めた頃には私兵は品切れか抵抗するものはほとんどいなかった。屋敷を探しメイドにも協力してもらって6人ほど集めることが出来た。アッシュは血まみれになった顔をメイドに持ってこさせた清潔な布で拭うと貴族たちに向き直った。
「この中にローギッド子爵はいるか?」
アッシュが尋ねると一斉に一人の男に注目が集まる。小太りで髭を蓄えた如何にも肥え太った豚ですって感じのおっさんだ。年は60代といったところだろうか下卑た髭が無性に苛つく。アッシュはローギッド子爵の前に立つと胸に手を当て朧気ながら記憶にある貴族っぽい挨拶をしてみた。
「お招きに預かったアッシュと申します。ご丁寧な招待にお礼に参った次第でございます。」
アッシュが恭しく頭を下げた事で集められたものたちが思い思いに発言を始めた。
「貴様、貴族に手を出すという事が・・・。」「無礼だわ。」「ふざけるな殺してやるぞ。」
アッシュは冷徹な笑みを浮かべたまま発言した者たちの膝を蹴り砕く。しばらくの間、悲鳴や呻き声が続いたが収まるのを待ってから口を開く。
「許可なく喋るな、舌を切り取るぞ。ところで子爵様、何故に治療院の者に手を出したか聞いておこう。うちの従業員が死にかけたのだが?」
「そ、それは申し訳ない事を・・・した。あ、新しい従業員を手配するとしよう。それでよいか?」
「ああ、それではリアの腕を返してもらおうか?今すぐに返してもらえれば命は助かるかもしれん。」
「う、腕?新しい奴隷でも、女でも用意する。お主も新しい者の方が良かろう?」
アッシュは子爵に近づき左腕を掴むと強引に体から引きちぎった。子爵の悲鳴が部屋中にこだまし周りにいた者たちもあまりの光景に悲鳴を上げた。悲鳴を上げている者たちはちぎられた子爵の腕で滅多打ちにされ頭部を潰され椅子の上で体をビクビクと震わせている。
アッシュが一息つく頃には椅子の上で生き残っているのは2人しかいなかった。
「お前たちはこの豚とどういった関係だ?」
「わ、私は妾でございます。隣は私の息子です。何卒、どうか慈悲の心で私の命をもって息子を助けて頂くことは出来ないでしょうか?どうか。どうかお願い致します。」
女は震える声だがしっかりとアッシュを見つめながら懇願した。何処の世界でも母親は強くあるものだなと感心するが豚の妾と息子なら生かすに値しない気もするし教育によって人格がすでに歪んでいるかもしれない。アッシュは青年を見つめて問う。
「お前、名前は何という?」
「あ、アルムスと申します。」
「母親の命を犠牲にして生き延びるか、お前の左腕を犠牲にして母親共々生き残るか好きな方を選べ。」
アッシュは近くに転がる剣をアルムスへと投げ渡し開いている椅子に腰を下ろして決断を見守る。アルムスは立ち上がり剣を手に取ると震える手でしっかりと握りしめる。
「アルムス。気にしないで私の胸を剣で刺しなさい。大丈夫だから・・・。」
母親は目を閉じて待っているがアルムスは意を決して剣を壁に突き立て自ら刃に向かい体当たりをする。アルムスと母親の悲鳴が響き渡る。一度では腕は落とせず床に大きな赤い染みを作りながら何度も何度も繰り返し刃へと体を叩きつける。やがて力を失った左腕が床に落ちるとアルムスも同時に力尽き崩れ落ちた。アッシュはアルムスの傷口を癒した後、母親に今回の経緯を説明した。
自らと息子の身に起こった事が代償として不当と思うのならまた実力行使をするがいい、しかし慈悲は一度しか与えないと念を押しアッシュはアルムスの左腕をもって館を後にした。




