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1-19 失われたもの

サーシャは治療院の片づけをフォウと共に行っていた。

アッシュがギルドへと向かった為に新しい怪我人を受け入れるわけにも行かず出来る事は限られている。軽食でも摂ろうとサーシャが表に顔を出しても何故か誰も現れない。普段なら子供たちが我先にと注文を聞きに来てくれる筈なのだが・・・。しばしの間思案するが、恐ろしい事に気付き治療院内に急いで駆け込む。フォウを呼びつけ金貨や大切なものを万が一にと用意した地下収納へとしまい込む。アッシュからはもし何かあった場合にはすぐに逃げるようにと強く言われていた。何が起こったのか理解できないフォウにサーシャは手短に説明する。


「多分、囲まれてるわ。治療院を襲うつもりだと思って間違いないと思う。急いで逃げるわよ。」


逃げると言われてもどこに逃げて良いのかもわからないフォウは戸惑いを隠せないがアッシュの帰りを待っているリアの存在を思い出し、奥の治療室へと急いだ。何としてもリアを連れて逃げなければ。サーシャはフォウの後を追い治療室へ向かうと、そこにはアッシュの帰りを待ちながら椅子で眠りこけるリアがいた。


「リア起きて!悪い人たちが一杯来るわ。今すぐここから逃げないと!!」


サーシャは揺すってリアを無理やり起こし部屋から連れ出そうとするが、リアが頑なに抵抗する。


「アッシュと約束したの。大事なココ守るの。」


リアは首を振りながら扉にしがみつく。優しく諭してやる程余裕のないサーシャは強くリアを叱りつけるが逆効果となってしまう。2人のやり取りにフォウは狼狽しながらも外の様子を確認しようと玄関口に近づいた瞬間、けたたましい音と共に蹴破られた扉に吹き飛ばされぐったりと動かなくなってしまった。慌てたサーシャはフォウの様子を見るが頭を強く打ったらしく意識が無くガラスの破片であちこちに切り傷が出来て出血している。額に出来た裂傷が一番深く出血も激しい。顔を上げ兵士たちを睨みつけると目的があるらしくフォウやサーシャには目もくれず治療院の設備や建物を破壊しにかかる。咄嗟にサーシャはフォウの額の傷の出血を癒しの奇跡で止めてリアの元へ駆け戻る。リアはそのまま奥の部屋で兵士の前に立ちふさがっていた。


「アッシュのお家、壊しちゃだめなの。」


駆け寄るサーシャの手がリアへと届く前にリアは兵士に切り伏せられていた。あと一歩のところで間に合わなかったサーシャは世界が歪んでいくのを感じた。多分、アッシュは私の事を許さないに違いない。私がアッシュの力を利用して治療院をやらせた。結果、フォウとリアが傷つき治療院も壊された。逃げる事も出来ず守る事も出来なかった。残ったものは何もない。でもリアの命だけは繋がなければ私は本当に全てを失ってしまう。

倒れたリアの体を引き寄せると左腕は肘から先が切り落とされて胸にも深い傷が出来ている。大量の血液がリアの体から零れ落ち致命傷なのは明白だがサーシャはすべての力を込めて癒しの奇跡を行った。どんどん体から力が吸い取られる感じがする。リアの胸の傷からは変わらず大量の血液が失われて行く。自分の力の至らなさに絶望に負けそうになるが何とか踏みとどまる。持てる全ての力をリアにつぎ込むとサーシャの鼻や目から血があふれ出す。限界を迎えた力に毛細血管は千切れ真っ赤に染まる世界にサーシャの意識は沈んでいった。


サーシャが意識を失い兵士共が屋敷を壊しつくした頃、アッシュは空から降ってきた。減速など微塵も考えられていない速度にアッシュは着地すら取れず地面に何度も弾みながら近所の家に突っ込んで何とか停止していた。服はボロボロに破けあちこちに擦過傷を負っているが即座に立ち上がると治療院に駆け込んだ。アッシュがそこで目にしたものは瓦礫の下敷きになって傷だらけのフォウと血まみれのリア、そしてサーシャの姿だった。

重傷を負ったリアを救うためにサーシャは力を振り絞ったのだろう。瀕死である事に変わりがないがリアの命は繋ぎ留められていた。アッシュはすぐに治癒に取り掛かるが胸の傷は何とかなるにしても切り取られた腕の先が見つからない。傷を閉じてしまえばリアの腕は生涯失われたままになるが、このまま血を失い続ければサーシャの懸命な処置も無に帰してしまう。

悔しさに震えそうになりながらリアの胸の傷を修復し腕の傷を閉じていく。隣にいるサーシャも傷こそ少ないがリア同様に危険な状況が見て取れる。体の中の魔力が枯渇し魔素そのものが消えかかっている。アッシュは自分の一部を分け与えるイメージでサーシャの力を補って失われた魔素を定着させていく。サーシャの苦痛に歪む表情が和らいだことを確認してフォウの治療に取り掛かった。細かな外傷が多かったが3人の中で比較的軽傷だと言えるだろう。すでに一部治癒が施されておりアッシュが手を施すほどのものではなかったがフォウの傷をそのままにする理由もなくすべて癒した。アッシュはすべての治癒を終え比較的綺麗な場所に3人を並べて寝かせるとその場で声を殺して泣いた。


悔しかった。歯痒かった。自分のせいで3人が襲われた。まだ幼い子供の体に償いきれない傷を残した。アッシュ自身が3人に留守番を命じたのだ。危ない時には逃げて良いと、守るべきものは自分の命だと教えたところで力が無いものは守る事も逃げることもままならないのだ。ひとしきり涙を流して座り込んでいたがリアが譫言のように何かを繰り返し呟いている。


「ご、ごめん・・・な・・さ・・。お・・やく・・そ・・く・・・。」


リアの譫言を聞いた瞬間的にアッシュは理解した。3人の傷の中でリアだけ剣で切られたような傷を負っていた意味を。巻き添えなどではなく意図的に切り伏せられた事実に気付いてしまったのだ。アッシュの怒りは人であることを止めてしまいそうなほどにどす黒く大きな炎をアッシュの中に宿らせた。



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