第三十五話:本性と埋まらない溝
山城麻理花は、冷めた瞳で御鶴城の死体を見下ろしていた。
(…つまらない男ね)
たった一人の生徒すらまともに組み敷けないとは。
(しかも相手はあの影君よ。…まあ“あれ”が出た時点で御鶴城の負けは決まってたようなものだけど)
ぽっかりと開いた背中の穴をまじまじと観察する。血の色にも臭いにも、死体には片腕がないことも麻理花には全く何の感慨も与えていないらしい。奈緒も知らない麻理花の素顔がそこにはあった。
(しかも奈緒ってば、ほとんど九連君と一緒にいる。…あの裏切り者)
麻理花はすうっ、と大きく息を吸い込むと、悲鳴をほとばしらせたのだった。
夢を見ていた。梓を殺す夢だ。首を絞め、ナイフであちこちを刺し、屋上から突き落とす。それを背後から兄さんが観察してー
「ああぁあああぁっ!」
玲治は絶叫とともに覚醒した。「うぁ、はっ、はっ」
全身に汗をかいていた。シャツが素肌に張り付いて気持ち悪い。
「梓…」
夢なんかじゃない。自分は現実に梓を殺そうとした。首を絞めて。そんなつもり、なかったのに。
「俺は、俺は何てこと。梓…許して、」
「その梓が許さない、と言ったらお前は死んでくれるのか?」
ビクッと玲治は大きく体を震わせた。
「どうなんだ、この役立たず」
「ごめ、ごめんなさい」
佳那汰にぐいっと胸ぐらを掴まれ、玲治は怯える。
「わざわざ遊子様に足を運ばせ、あまつさえ背負わせて。なんたる失態だ」
言外に恥知らずと言われた気がして、玲治は何度もごめんなさいを繰り返す。
「…やっぱりお前はあの時死んでいれば良かったんだ、玲治」
「…っ!」
「何故お前なんかが生き残って、母さんたちが死ななきゃならなかった」
「ごめ、兄さんごめんなさい、」
兄にすがろうと伸ばした手を、汚いものかのように荒々しくはね除けられた。ぱちっ、と虚しい音が響く。玲治は眼を見開いて、涙を溢れさせた。
「どうしたら、どうしたら兄さんは俺を許してくれるの?自殺でもすれば、いいの?」
「許す?僕が?お前を?」
はんっ、と鼻で笑われる。胸が痛む。
「許すわけないだろう。何があろうとも、僕はお前を憎み続ける。お前が死んでも、僕はお前を絶対に許さない」
「兄…さん」
「……」
佳那汰は顔を逸らし、玲治の居室を出て行く。伸ばした手は決して取られることはなく、玲治は体を丸めて、泣いた。
市立月舘病院外科棟五階。奈緒は516号室にいた。疲れた眼で、ベッドに眠る少年を見る。少年ー九連日向は静かな寝息を立てていた。着ているものは、病院が貸し出した薄青色のパジャマ。白いギプスが奈緒の眼をさす。
「早く起きろ。あんたの半身が大変なんだから」
奈緒は、日向の双子の弟である影によって出来た手の甲の裂傷を反対の手で軽く撫でた。