フラーレン
「おはよう。昨日はごめんなさいね。」
翌朝、いつも通り助手が研究室に入ってきた。
「おはようございます…」
みな研究しながら助手の動向を気にしていた。
『そろそろ時間だ…』
1限目の終わりのチャイムが鳴ったが、今日も『扉の空間』に召喚されなかった。
勇太はチラッと海斗を見た。
『今日もだ…取り合えず様子見かな。』
海斗と目が合ってそう考えていたときだった。
「中島君、ちょっと良い?」
助手は勇太に手招きして研究室を出た。
勇太はみなの視線を感じていた。
勇太はみなの方を振り向いて頷いた。
『なんだろう…さすがにまた気絶させられるとかないよな…』
研究室を出てすぐ廊下に助手が立っていた。
「安倍晴明様、今あなたのもとにいるのよね?」
勇太は驚いたが、黙っていた。
「晴明様を呼んで欲しいの。大丈夫、もうあなたには何もしないわ。」
信じても良いのだろうか…勇太は悩んでいた。
『主よ、わしは今日も現代の様子を見てくるが、もしわしに用事があるなら…』
勇太は今朝、自宅を出る前の晴明の言葉を思い出した。
『五芒星のペンダントに意識を集中させて、晴明に呼びかける…晴明、文子先生…魔術師のフラーレンって人なんだけど、晴明を呼んでる。』
「呼んだか、主よ。」
勇太の後ろから晴明の声がした。
「晴明!いつの間に。」
勇太は驚いて後ろを振り向いた。いつの間にか晴明が立っていた。
「お待ちしておりました、晴明様。お初にお目にかかります。金剛文子と申します。」
助手は晴明に一礼した。
「ほぅ、金剛…と申したか。」
晴明はニヤリと笑った。
「あやつがわしを呼んでいるのだな。」
晴明が言った。
『あやつって、まさかダイヤ?!』
勇太は晴明を瞬きせずじっと見ていた。
「はい、ご案内します。」
助手が歩き出そうとした。
「あいにく、まだ主の許可が下りておらぬ。」
助手が振り向いて勇太を見た。
勇太はどうすれば良いか分からず晴明の顔を見た。
晴明は勇太にニヤリと笑いかけた。
「主に同行しようとするかの。」
晴明は涼しげな顔をした。
助手はため息をついて、
「中島君も一緒に来て。」
と言った。
勇太は助手について歩き出そうとしたが、助手は研究室のすぐ隣の教授室の前で足を止めた。
助手は教授室をノックした。
「文子です。お連れしました。」
助手は教授室のドアを開けて勇太と晴明に入るよう促した。
『何で教授室?』
勇太は疑問に思いながら教授室に入った。
部屋の奥のデスクに教授が座っていた。
「えっ?!」
勇太は驚いた。
教授の後ろにアメジスト、クォーツ、ルビー、サファイア、エメラルド、ジルコンが立っていた。
アメジストはいつものゴスロリファッションで、クォーツは黒のスーツ、サファイアは紺のスーツ、ルビーは赤のポロシャツにデニム姿、エメラルドは緑のワンピース姿、ジルコンはランジェリーのような露出の高い白いワンピース姿だった。
「なっ、何で?」
勇太は混乱していた。
「こっちが聞きたいわよ。何であんたまで来てんのよ?」
アメジストが呆れた顔で勇太に言った。