来訪者
お弁当を食べた後、軽く談笑して研究室に戻らずに解散することにした。
「あの …、みんな、助けてくれてありがとう。」
海斗の部屋を出るとき、照れ臭かったが勇太はみなにお礼を言った。
「気にしないでよ。」
貴司が笑顔で言った。
「引き返そうと思えばできたんだけどね。でも、何か嫌だったし、中島君がいないと寂しいじゃん。」
勇太はものすごくうれしかった。
海斗はポンと勇太の肩に手を置いてニヤリと笑った。勇太も笑い返した。
樹理奈もあきも笑っていた。
『本当に…ありがとう。』
勇太は目頭が熱くなったが、必死で涙を流すまいとこらえていた。
「もう、『ジルコニア』の気配はないけど、本当の敵がこの隙に攻撃してきても不思議じゃないわ。」
勇太たちはあきに見張り用の式神の作り方を教えてもらった。
「式神がいる間は魔力を消費し続けるの。慣れないうちは寝ている間に見張りをしてもらったらいいと思う。もし、敵に遭遇したら私に連絡して。」
勇太はあきと貴司とマンションを出た。あきは大学の駐輪場に向かったので、貴司と2人で駅の方へ向かった。
「野上さん、ちょっと昔に戻ってきたね。」
貴司が言った。
「野上さんとは附属中学から一緒だったんだけどね。もともと明るい性格だったんだ。友達が死んでから無表情になってしまってたけど、今日は良く笑ってた気がする。」
あきがいつもと違うことは勇太だけでなく貴司たちも気づいていた。
勇太はあきの名前が貴司の口から出てくる度にドキドキしていた。
「金剛先生が今日は出張でラッキーだったかも。明日、文子先生に会うの気まずいな…」
貴司はずっと研究室の心配もしていた。
電車に乗り、途中で貴司と別れて勇太は自宅に着いた。
「ただいま。」
「あら、お帰り。今日は早かったのね。」
母親は晩ご飯の支度をしていた。
「父さん、早ければ来週退院できるかも。後遺症もなさそうって。」
「そっか。良かった。」
勇太は階段を上り、自分の部屋に向かった。
『存在を消されずにすんだからみんなとご飯食べたり話したりできるんだもんな…父さんとも…退院したらゆっくり話しなきゃ。』
そう思いながら部屋のドアを開けた。
「やっと帰ってきたか。」
部屋の中のベッドの上に晴明が座っていた。
「えっ…あっ…安倍晴明!何でここに?!」
勇太はビックリして思わず叫んでしまった。
「どうしたのー?」
勇太の叫び声を聞いて台所から母親が叫んだ。
「なっ、何でもないよ!」
勇太はまだ動揺していたが、母親に見られてはマズイと思い、何とか安心してもらおうと必死で言い訳を考えていたが、
「あら、そう。」
とだけ返事が返ってきた。
「とにかく、入って来い。」
晴明が勇太に手招きした。
「はぁ…」
俺の部屋なのに…と思いながら勇太は部屋に入ってドアを閉めた。