勇太の行方
「先生、勇太はどこに…?」
そう言って海斗は研究室の中に入ろうとした。
「ダメ!」
あきが海斗の意味腕を掴んで引き留めた。
「白々しいわよ。文子先生…いえ、フラーレン。エレベーターの時間稼ぎは成功したみたいだけど、逆に確信に変わったわ。」
海斗と樹理奈と貴司は驚いた。
「えっ?!」
「先生が?!」
「どういうこと?!」
あきが続けた。
「そのままよ。この人がフラーレン。私たちを監視している魔術師だったのよ。」
助手の表情が一瞬変わったが、
「もう、隠し通せないみたいね。」
とためいき混じりに言った。
「フラーレンの名前は聞いたことあったみたいね。そう、私はフラーレン。黙っててごめんなさいね。さぁ、研究再開して。」
あきはまだ海斗の腕を掴んだままだった。
「私たちに中島君を忘れさせようとして、中島君をどうする気なの?」
「何?!」
海斗が助手に詰め寄ろうとしたが、
「だから入っちゃダメだって。1歩先に忘却術が仕込まれているから。」
とあきが海斗を制止した。
「先生…どうして…中島君はどこに行ったのですか?」
貴司が言った。
「解らないことがあるんだけど。」
あきが言った。
「死者を蘇らせるのは魔術界では禁じてるはずよね?」
助手は驚いた顔をした。
「…そこまで解っているなんて…さすがね。あなたはあの人たちが一目置いてるだけあるわ。」
「野上、どういうことだ?!」
海斗はあきの手を振り払った。
「でも、残念だけどこれ以上は私からは話せないわ。」
助手は手を4人に向けると、海斗の足先に魔法陣が現れて4人に向かって大きく拡がり始めた。
「うわっ、罠型の『忘却術』だ!」
貴司は後退りしながら叫んだ。
あきも海斗も樹理奈も魔法陣を踏まないように後退りした。
「ごめんなさい…もう、これで終わりにしたいの…」
助手がそう言った直後、
「樹理奈!危ない!」
バチバチと音がして火花が助手に向かって弾け、助手はその場で倒れた。
「大丈夫?」
魔法陣は消えて、薄い紫色のワンピースを着た雅子が現れた。
「雅子…どうしてここに?」
樹理奈が聞いた。
「中島君のこと、アメジストとクォーツの話を盗み聞きして知ったの。急いで人間界に来てみたんだけど、この校舎に結界が張られてたからなかなか入れなくて…良かった、無事で。」
雅子が笑って言った。
「勇太は…勇太はどうしたんだ?」
海斗が言った。
「魔術界に行ったわ…というか連れ去られた同然かも。」
雅子が言った。
「罠の痕跡がある…中島君はここでフラーレンに嵌められたのね。」
あきが研究室のドアの先を見て言った。
研究室の中の景色がグニャリと曲がって、灰色の霧が研究室中に充満した。助手の姿も見えなくなった。
「…急がなきゃ。中島君、このままじゃ、消されるわ。」
雅子が言った。
「ここの研究室、魔術界と繋がっているのよ。行きながら話するわ。」
そう言って雅子は研究室の中に入って行った。
4人は雅子について行った。
あきが立ち止まって、手からビー玉ほどの大きさの青白く光る物体を出した。
「魔力蛍ね。用意良いわね。」
雅子が言った。
「アクアに頼んでいたヤツだな。」
海斗が言った。あきが頷くと魔力蛍はふわふわと研究室の奥へ飛んでいった。
「松下君を介してアクアに頼んでおいて正解だった。魔力蛍は初めて食べた魔力の味を覚えて、またその人の方へ行って魔力を食べに行く性質があるの。この魔力蛍には中島君の魔力を食べさせたから…」
「中島君のところに案内してくれるんだね?!」
貴司は興奮ぎみに言った。
5人は魔力蛍の後について行った。
「蛍っていうけど虫っぽくないわね。」
樹理奈が言った。
「魔術界固有のものだから。雅子さん、知ってること話して欲しい。」
あきが言った。
雅子が頷いて話始めた。