中級魔術師(アンカット)
次の日の魔術修行は海斗と一緒だった。
「ペリドットの弟子も中級魔術師になったってな。」
オパールが勇太の前に立って言った。海斗とペリドットはオパールと勇太の様子を見ていた。
「中級魔術師はまず魔法陣をマスターしてもらう。魔法陣は術式を組み合わせて円や図形で囲むことでより強力で複雑な術を発動させることができる。術式の組み合わせ方で威力が変わってくるからな。ほら、これが模範例だ。」
オパールは勇太に1冊の本を渡した。
“基本的な魔法陣集 ジルコン著”
「基本は術を理解することだ。そうすれば魔法陣は自ずと頭の中に入ってくる。」
勇太は魔法陣集を開いてみた。漢字や図形の様なものが円形に描かれているものばかりだった。
『…読んでも全然分からん…』
勇太はそう思っていると、
「とりあえず、これ、見ながらやってみろ。」
オパールは1ページ目に書かれている魔法陣を指差した。
『爆…△…?▽…?なんだこれ?』
勇太から少し離れたところに本に書かれた通りの魔法陣が現れた。
「じゃあ思いっきり魔力をこめてみろ。」
オパールに言われた通りに魔力をこめた。
すると、ドォーン!という大きな音とともに魔法陣が爆発した。
「うわっ!」
勇太は驚いてしりもちをついた。
「大丈夫か?スゴいな!俺、こんなにでかく爆発させたことないぞ!」
海斗が勇太に寄ってきて言った。
「魔力量は弟子どもの中で1番あるのは本当のようだな。」
オパールが言った。ペリドットはニヤッと笑った。
「術は大きく分けて3グループある。攻撃系、防御系、補助系だ。今までやってた術式は補助系ばっかりだったけど中級魔術師からは攻撃系と防御系もできるようになってもらうからな。」
オパールが言った。
「それって…俺たちも戦うってことですか?」
勇太が聞いた。
「あぁそうだ。」
ペリドットが答えた。
「この間みたいにまた捕まるわけにはいかないだろ?」
オパールが海斗を見て言った。勇太と海斗は黙ってしまった。
「まぁ、すぐではないから安心しろ。今、お前らが束になって戦ったとしても勝てないからな。」
オパールが言った。
『オパールって原田さんをナンパしてたって言ってたけど、一応まともなんだな。』
勇太はふとそう思った。
しばらく、勇太と海斗は爆発の魔法陣の練習をさせられて講義室に戻ってきた。
「俺、昼ご飯食べたら、家戻って就活行ってくる。」
海斗が背中を伸ばしながら言った。
「大変だな。」
勇太が言った。
「勇太は病院か薬局にするのか?」
海斗が聞いた。
「そのつもりだけど…まだ決めてない。」
勇太が自信なさげに答えた。
「俺たちは『最後の4年制』だから薬局は入りやすいだろうな。実務実習の後からでも間に合うんじゃないか?実習先で雇ってもらうパターン、少なくないみたいだから。」
海斗が言った。
勇太たちの学年が4年で卒業して国家試験受験資格を得られる最後の学年、いわゆる『最後の4年制』だ。1つ下の学年は『6年制』になるので、勇太たちが卒業後に新卒業生が出てくるまで2年ある。
「そうだな…就活サイトに登録して色々と調べ始めるつもりなんだ。会社説明会もあったら行き始めようかな。」
勇太が答えた。
「そっか。 勇太は真面目だよな。俺にも色々教えてくれよ。」
海斗が言った。
『海斗って俺に対しては上から目線じゃないんだよな。成績も男としても上だと思うんだけど…対等な友達と思ってくれているってことかな?』
勇太にとってそのことがとてもうれしかった。
リチウム(雅子)の件から海斗との距離がより近く勝手に感じていたのだった。