師弟
その夜、勇太の夢の中にペリドットが出てきた。
「勇太、ありがとうな。俺はまた勇太に助けられた。」
ペリドットの宝石核は勇太の五芒星のペンダントにはまっているので、勇太とペリドットは勇太の魔力を介して繋がっていた。
勇太はペリドットに就活やクォーツとの修行、父親が倒れたこと、そして父親と初めて将来の話をしたことを話した。
「道理で顔つきが凛々しくなったわけだ。」
ペリドットはうれしそうに言った。
「実はな、もう1つ謝らなくてはならないんだ…」
ペリドットは以前勇太にオススメしてもらったラーメン屋の『いっちゃん』にターコイズと行っていたのだった。
ペリドットがラーメン好きになったのは、人間界に出てマーキュリーが初めてコンタクトをとってきた後、ペリドットの気配を感じたターコイズと遭遇して、大学の近くの『路傍園』にラーメンを食べに行ったことがきっかけだった。
その後、勇太に『いっちゃん』をオススメされて、ターコイズにそのことを話すと、ターコイズがすぐに場所と口コミを調べて連れていってくれたとのことだった。
「本当はお前と行きたかったんだけどな。でもうまかった!」
「だろ?俺も年末久々に行ってきたけど相変わらずうまかったよ!」
勇太も本音はペリドットと一緒に行きたかったが、ペリドットが『いっちゃん』の味を気に入ってくれたことがうれしかった。
「そういえば、さっきの話の野上さんの秘密って?」
それを聞いた時、勇太はペリドットが躊躇したように見えた。
「それは…」
ペリドットが口を開いた瞬間、勇太は目が覚めてしまった。
勇太はいつも通り研究室に向かい、研究の続きをした。
『今は10時28分か…修行は今日あたりから再開かな…』
ため息をつきながら研究をしていた時だった。
「みんな、きりの良い所で手を止めてくれる?」
突然、助手が言った。
5人全員が手を止めたのを見て、
「今から『扉の空間』への行き方を教えるわ。」
助手が研究の隅に置いていたホワイトボードに魔法陣を描き始めた。
五芒星を円で囲んだだけのシンプルな魔法陣だった。
「この魔法陣を7つ同じ向きに重ねるの。そうすれば『扉の空間』へ行けるわ。やってみて。」
勇太は海斗と顔を見合わせた。突然、『扉の空間』への行き方を教えると言われて貴司と樹理奈も戸惑いを隠せないでいた。
「先生、自分達で『扉の空間』へ行くってことですか?」
貴司が聞いた。
「そうよ。クォーツが待っているわ。」
勇太はクォーツの名前を聞いて複雑な気分だった。
「術、使っちゃダメなんじゃ…」
樹理奈も言った。Jewelsでなければ人間界で魔術を使ってはいけないからだ。
「そのこともクォーツが話してくれるわ。」
助手がニッコリ笑って言った。
「やったら良いのね。」
あきが床に向かって手を広げると、床に助手が描いたのと同じ魔法陣が現れた。
勇太たちも同じように床に向かって魔法陣を出し、魔法陣を7つ重ねた。
魔法陣は一瞬強い光を放ったと思った途端、周りの景色が研究室の中ではなくなっていた。
「全員来れたな。」
声のする方を見るとクォーツが立っていた。
「お前たちに『扉の空間』を自由に行き来することを許可するそうだ。ただし、魔術に関することを行う場合のみだ。」
これから『扉の空間』で自由に修行したり、魔術関係の話をするのも『扉の空間』でしても良いとのことだった。もちろん魔術以外のこと、試験勉強や試験中に来て不正行為を行うことは御法度ということとだった。
また、『扉の空間』に来るときのみ人間界で魔術を使っても良いとのことだが、
「魔術を使うところは他の人間たちには絶対見られないように。もし見られたらすぐにフラーレンに伝えろ。」
とのことだった。
「このメンバー全員をjewels入りさせるためってことなのね。」
あきが言った。
「そういうことだ。」
クォーツが言った。
エメラルド、モリオン、アクアマリン、サファイアも現れて、それぞれの師匠と今後の修行に話あうためにみな遠くへ歩いていってしまった。
「何か言いたいことでもあるならはっきり言え。」
勇太と2人きりになったクォーツが言った。
勇太はクォーツの話を聞きながらずっと不満気だったのにクォーツは気づいていた。
「もうすぎてしまって、どうしようもないことだけど…」
勇太は昨日からずっと心に引っ掛かっていることがあった。
「昨日、クォーツの力ならペリドットを元に戻せたんじゃないの?」
勇太はクォーツがペリドットにかけた術が、ペリドットにとりついていた闇ごとペリドットの身体を浄化してしまったと思っていた。
『俺の魔力ですらペリドットの魂に届いていたんだ…クォーツならきっとあの闇を完全に浄化するのは可能だったはず。それに…』
勇太は拳を固く握った。
「本当にペリドットを殺さなきゃならなかったの?何であそこまでしなくちゃならなかったの…?」
クォーツは黙ったまままっすぐ勇太を見ていた。