橄欖石(かんらんせき)
勇太はペリドットのことを考えないようにするために、午後の研究はいつも以上に集中しようと努めたが、全く頭に研究の中身が入っていなかった。
勇太は研究を切り上げて、夜自宅に戻った。
「晴明、ただいま。」
晴明は勇太の部屋でまたパソコンと向かい合っていた。
「帰ってきたか。」
晴明は右手でマウスをクリックしながら言った。
勇太は携帯電話を机の上に置いて、ベッドにドサッと倒れた。今になって今日1日の疲れがどっと出てきたようだった。
「大也のヤツ、『今回の件は調査中』だとメールでよこしてきた。」
晴明が言った。勇太は返事をする元気がなかった。
「主よ。あの袋に入ってるものに気づいていないのか。」
勇太が顔をあげると晴明は携帯電話を指差していた。
「その袋…そうだ。ペリドットがくれたヤツ。でも、『時が来たら開いてくれ。』って言われたんだ。」
勇太は起き上がって、机の上の携帯電話と袋を手に取り、携帯電話のストラップホールに結んでいる袋のヒモをほどいた。
今まで袋の中身を気にしたことがなかったが、袋を手のひらに乗せてしばらく眺めていた。
「何か石みたいな物が入ってるのか…?」
意を決して袋の口を緩めて、袋を逆さまにした。
透明な黄緑色のドーム型の石がポトッと勇太の手のひらに落ちた。
「ガラス?ビー玉の半分?宝石?…あっ?!」
クォーツが水銀蟲を燃やした時に転がっていた物によく似ていることに気づいたが、
「さっき見たのと少し違うかな…表面が白っぽかったような…?」
勇太は部屋の天井の蛍光灯に石をかざしながら言った。
「橄欖石だ。」
晴明が言った。
「橄欖石?」
「今の時代は便利な物があるな。」
そう言うと晴明はパソコンの画面を指差した。
勇太はパソコンの画面を覗くと、
“橄欖石
かんらん石(Olivine)
鉄・マグネシウムを含む珪酸塩鉱物…
特に美しい緑色のものは、8月の誕生石であるペリドットと呼ばれ…”
どこかのサイトの説明書きだった。
「ペリドット?!これが宝石のペリドットか?!8月の誕生石…ペリドットはtwelvesだ!」
勇太は驚いた。
「そっか、みんな宝石の名前だ。まさか宝石の意味はこれだったのか…?」
勇太は晴明を見た。
「それは当人に聞くのが一番だろうよ。」
晴明がニヤリと笑った。
突然、勇太の手のひらの上で橄欖石が光を放った。
「うわっ!」
勇太はビックリして橄欖石を床に落としてしまった。
慌てて拾おうとした勇太の目の前に透けた状態のペリドットが立っていた。
「ペリドット…?」
勇太は一瞬、目の前にペリドットが立っていることが信じられなかったが、ペリドットの名前を呼んでみた。
ペリドットは歯を見せて勇太に笑いかけた。