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黒の銃騎士   作者:
放浪編
30/37

伝わる姿


「おい、お前らこの映像ー」


「もう見てるわよ。ったくうるさい奴ね」


 場所はアルバノス魔法騎士養成学園。アルバノス王国中から優秀な者たちが

集まり、将来魔法騎士となるための訓練を行う学園だ。その学園の中の2年A組

は騒然としていた。校庭にある巨大液晶に映し出されている映像を見て飛ぶ

勢いで教室へと走ってきたのだがナナたちはすでに自前の映像反映機を使って

見ていた。校庭にあるものと比べるとかなりの小ささではあるが非常に高価

なものだ。ある地点に設置された水晶の映像を各地の水晶に送り届ける

魔法映像機。とてもじゃないが俺に買えるような品物ではない。


「なんだもう見てたのか」


 そう言いながらギルバルトはいつものように仲間達の元へと早足で進む。


「顔はフードで隠れて見えないけど『天』『地』を確かに握っていたわ。まず間違いなくユウナギね」


「やっぱりそうだよな!でもなんでこんなことを?」


「わからない」


 いつものように短くリサが返答するがその顔はわずかに微笑んでいるように見える。

 

 シラカミ ユウナギ。学園史上最強といわれたユーナ・ラン・クリスタルを圧倒的な強さを持って倒した男。

 今後は彼が学園の頂点に君臨するものだと誰もが思った。

 事実俺もそう思っていた。あいつと一緒にこの学園で学び、ゆくゆくはアルバノスの戦士の中でも選りすぐりの精鋭で構成される『魔法騎士団』に入隊したいと思っていた。

 ユウナギの力はいろいろと謎が多いがそれでもその強さは誰もが認めるものとなった。

 間違いなく騎士団入りするだろうと思っていた矢先にあいつは何も言わず俺たちの前から、この学園から姿を消した。エリルが泣きはらした目で登校したことは記憶に新しい。


「一緒にいたのは獣人だろ?どういう経緯をたどればこんなことになるんだか」


 俺は呆れたように言った。だが元気そうなあいつをみて安心したことも事実だ。


「さぁね。まぁ大方困ってる獣人を見つけて助けてやるか~、っていう感じなんだろうけど普通の人間なら下手に関わりは持たないわ。けどまぁ彼ならやりそうでしょ?」


 確かに。人間と獣人は対立関係にある。連合軍と帝国軍が休戦条約を結ぶ際、同時に獣人たちとも同様の条約を結んではいるものの元来種族の違う彼らとはいつ戦争が起きてもおかしくない。そして今回のこの一件でその休戦条約が破られるかに見えた時に現れた黒いコートを羽織、フードで顔を覆い隠した男。俺たちはその正体を知っているが世間一般からすれば『謎の男』扱いだ。獣人からしても何者なのか分からぬ現状で下手に人間達に牙を剥くことはない、と思いたいところだ。



「これだけの軍勢を持ってしても止められないなんて、やっぱりさすがね」


 ナナが感嘆の声を漏らす。居なくなって改めてあいつの凄さを噛み締めているような口ぶりだ。


「キルローナはもともと黒い噂が絶えなかった。それがここにきて爆発した」


 リサが静かに告げる。キルローナの黒い噂はこの学園でも度々囁かれていたため

知らないほうが珍しい。


「これだけのことをやらかしたんだからタダじゃ済まないでしょうね」


「世の中をダメにするのはいつの時代もクソ貴族どもだよ、ったく」


 俺の言葉にナナとリサが同時に睨んでくる。やべ、そういやこいつらも貴族

だったんだっけ。


「いや、勿論お前らみたいに良い貴族もいるってことは知ってるって」


 そう言って二人を宥める。こえぇ~。おっかねぇわ。いや、俺も悪かったけど

実際キルローナがこのような結果を起こしたのは王が力を失い私欲に走る貴族

を止め切れなかったことが原因なのだから俺の言ったことも完全に間違っている

わけではない。


「この一件で事態がどう動くかは分からないけれど以前より獣人たちと緊張状態に

なることは間違いなさそうね」


 そういってナナは先ほどから反映機をじっと見つめているエリルを見る。

 その顔にはここ数日沈んでいたのが嘘のように晴れやかな笑顔があった。


「ユウナギ様……。待っています。帰って来こられるその日を」


 帰って来るのを、か。ギルバルトはエリルが先日言った言葉を思い出す。

 確か自分が何を出来るのかを知るために旅に出た、だったか。いきなり

だな、と思ったがあいつ一度考えたことはすぐに実行に移すような奴だったからなぁと変に納得しちまった。今回の一件であいつの存在は世間に知れた。

 まだ『シラカミ ユウナギ』として知れ渡ったわけではないがその名を世間が

知る日は案外そう遠くないことなのかもしれない。きっとあいつは更なる高み

に上っていくことだろう。


「っへ。俺らもがんばんなきゃな」


 再び会うその時、もしかしたら以前のように味方として共に戦うことはできない

かもしれない。だがどのような立場にあったとしてもあいつに恥じない自分になっていたい、今はそう思う。



「そうね。あいつとまた会ったときなめられないようにもっともっと強くならなきゃ」


「もとよりそのつもり」


「立派な魔法騎士になれるように訓練に励みましょう!」


 あいつの姿を見て俺たち四人は意識を高めあった。あいつと再会するその日に

備えて更に強くなるために。




「はっはっはっは!いずれ出てくるだろうとは思っていたがこんなにも早く、

そしてこんな形で出てくるとはな!!」


「知り合いなの?バルノ」


グリテン帝国内の王城の大広間で巨大なスクリーンに映し出される映像を

三大騎士と呼ばれる三人は揃って見つめていた。今話しかけてきたのは

同じく三大騎士の座に着く『ロア・ル・サンピーラ』。風魔法の使い手であり

風魔法を使わせれば天下一とまで言われている。


「ちょっとな」


「何者なの?只者じゃないようだけど」


「俺もまだ正体を掴んでいるわけではないがそうだな。いずれこの俺の前に

立ちはだかる男、といったところかな」


 その言葉にロア、そして同じく三大騎士であるゲイラ・ボル・フォーゼは

言葉を失った。とはいってもゲイラはもともと口を開かぬ男で有名だが。


「どこの国に所属しているの?立ちはだかる、ということは連合軍のどこか?」


「さぁな。前はアルバノスの少女と共に居たようだが今はその姿が見当たらないし

もしかしたらどこの国にも所属していないのかもな」


「はぁ!?馬鹿な。あれほどの力を有していてバックに国が居ないなんて考えられ

ないわ。というかあれほどの人材をなぜアルバノスは手放したの?」


「知らん」


 ロアからの質問に一言で答えた。口うるさい女は面倒でたまらん。再び視線を

スクリーンに戻す。彼の握る二つの銃。あれは名高き魔銃『天』『地』。決して

誰もつかいこなせないといわれていたがそれを使いこなすとは、ますます面白い

男だ。あの時は彼の持つ力に銃のほうが耐え切れなかったようだが絶対強度魔法が

掛けられているあの銃ならば彼の力を十二分に発揮できるだろう。

 次に戦うときは更なる苦戦を強いられるはずだ。


「それでこそ俺が認めた男。待っているぞ。君が俺の前に立つその日を!」


 そういってバルノは広間を後にした。いずれ必ず来るであろうその日に胸を

高鳴らせながら。




 邸宅内を抜けた時俺は街の様子に驚いた。

 なぜならキルローナの国民がバレンテール邸へと押し寄せていたからだ。


「ふざけるな!バレンテール!もう許さないぞ!!」


「あんたのせいでキルローナは危うく滅びかけた。いいえ、まだそれも完全に

回避されたわけではないわ!それもこれもあんたが居るせいよ!」


「あの豚を許すな!キルローナの闇はあいつだ!軍は何をやってるんだ!目の前の

罪人を捕まえろ!そいつは悪だ!」



 国民達が口々にバレンテールを問い詰めるような言葉を発している。

 俺とレイナが飛び出してくるのを目撃した男がよく響く声で告げた。


「あんた、よくやってくれた!俺はキルローナの民として恥ずかしい。でも昔から

そうだったわけじゃないんだ。貴族の力が絶大になり俺たち市民はおろか王族さえ

貴族に物を言えなくなっちまった。情けない話さ。自分達の国のあり方くらい自分

たちで変えなきゃいけないのによ」


「……」


 俺は黙ってその男を見つめた。屈強な体をしている。もしかしたら国民の代表のような存在なのかもしれない。彼を取り巻くように武装した市民が立っている。


「行ってくれ。あんたたちをこの国から逃がす。あんたはこの国を救ってくれた。

変えるきっかけをくれた。俺たちでも少しくらい足止めできるだろうから」


 俺は男の言葉に頷き走り始めた。まぁ別にキルローナを救うためにやったわけではないので感謝される覚えもないのだが好意はありがたく受け取っておく。国民もたいがいあの豚に頭がきていたのだろう。



「黒いコートを纏った銃使いか」


「まるで騎士のように堂々とした方でしたね」


「騎士、か。ふむ。名前も聞けなかったが今は『黒の銃騎士』とでも呼ばせてもらうか」


 先ほどユウナギと話したバーテは彼の後姿を見つめて言った。市民の代表を務める彼は当然この騒ぎを最初から見ていた。あの時もうだめかと思われたそのときに現れたあの少年には胸が高鳴った。自分達の怒りを体現してくれるかのような、そんな感情さえ覚えた。獣人を救う理由はよく分からないがもしかしたら彼は世界を変えてくれるかもしれない。

 このキルローナを変えてくれたのだから。彼の行動は多くの市民の心を動かした。



「『黒の銃騎士』の道を開けろ!」


 大声で後続の市民に告げる。



「バーテ!貴様どういうつもりだ!?」


  邸宅内から出てきた兵士が怒鳴り声を上げる。その目には怒りが込められている。


「どうもこうもねぇ!もうお前らの好きにはさせねぇ。ここは『俺たち』の国だ!」


「貴様ら……!」


 遅れてきた兵士たちが剣を抜く。


「国民にまで剣を抜くか! もういい、お前ら軍になんてはなから期待しちゃいなかったんだからな!!!」


 バーテにつられるように市民たちも剣を抜き臨戦態勢に入る。そのときだった。


「やめろ!!!」


 邸宅内から魔法が飛んできて兵士達を吹き飛ばした。

 中から出てきたのはキルローナの将軍であるグレイスだった。バーテの知り合いでもある。


「グレイス……!」


「微力ながら俺も手助けする。お前たちには顔向けできん。軍人でありながら……」


「お前ががんばってたのは知ってる。グレイス。また一からやり直そう。まだこの国は終わっちゃいない」


「ああ」


 市民たちに混じるようにグレイスと彼の部下が加わった。


 余談だが後にバーテの付けた『黒の銃騎士』という異名がユウナギの代名詞になるとはこの時全く思っていないことだった。



「主様!もうすぐポイント地点だよ!」


 レイナの少し後ろを俺は走っていた。キルローナの市民たちが兵士たちを足止め

してくれているらしく追っ手はいない。


「よし、さっさと出ちまうぞ」


「うん! え!?」


「どうした?」


 急に立ち止まったレイナを不審に思いながら彼女の横に立つ。すると人が一人

前に立ちふさがっていた。


「誰だ?」


 俺は油断なくそいつを注視する。肩幅は広くないし小柄だ。恐らく女性だろう。


「……」

 

 俺の質問に相手は答えなかった。まぁべつに期待してなかったしな。


「どけ。どかないならぶっ飛ばして押し通る。言っておくが俺は女だからって容赦

しないぞ」


 右手に空気を集めていく。こんなところで時間を食っちゃいられない。女は殴るな、という教えが日本にあったが今は緊急事態だしかまわないだろ。



「主様!あの人、王族だよ!あの人が着てるコートの胸元の紋章は王家の証!」


 紋章?そこまでは良く見えないが俺よりはるかに視力がよく、この国について詳しいレイナが言うのだから間違いないのだろう。そういやこの抜け道は王族のために作られたと言っていたし考えてみればここを知っているのは王家の者だけだ。


「王族が一人で何してる?国をめちゃくちゃにした俺を倒しに来たのか?」


「一つ聞きたいことがあります」


 ようやく女が言葉を発した。その声は今にも泣き出しそうなほど震えていた。


「この国は、もう一度やり直せるでしょうか?王家の権限はかつてと比べ物にならないほど失墜してしまいました。もう一度市民をまとめることができると思いますか?」


「無理だろうな」


 俺の言葉を聞いた女が目を見張る。その目から涙が零れ落ちるのが見えた。

 俺は言葉を続けた。


「やってみる前から先のことを心配しているようじゃうまくいかねぇよ。

とにかくやってみろ。この国の貴族は確かに腐っている。けど、

この国の未来を真に憂う兵士、こんな国でも国を愛する国民がいる。

そいつらと一緒にもう一度作ってみせろ。『お前』の国を」



 そう言うと女は俺たちに道を譲るように脇に移動する。


「はい。貴方達には大きな借りができました。この借りは、いつか必ず返します」


「もう何度目かわからねぇがお前らのためにやったわけじゃない。俺は俺個人の目的のためにやっただけだ。俺はそんなに高尚な男じゃねぇよ」


 そういってレイナの手を引いて走りだす。あまりゆっくりしているわけにもいかない。

 目的のポイントはもう目の前に見えている。

 レイナに先行してもらう必要はない。レイナは俺の手を握り返すように力を込めた。

 

 女とすれ違う直前彼女が「ありがとう」という言葉を言うのが耳に入った。

 


 走りながら考える。なぜ彼女はここにいたのだろうか。この脱出ポイントを王家が知っている、というのは百も承知だがなぜ俺がここを通るとわかったのだろう。

 バレンテール邸を吹き飛ばすという派手な登場をしたのだから普通なら出国門

も吹き飛ばして出て行く、と思うんじゃないか?部外者である俺がこの道を通るなんて普通は考えないだろう。

 

「主様!本当に出られるなんて思わなかった!」

 

 隣を走るレイナが嬉しそうに笑いながら話しかけてくる。


「約束したろ。俺は約束はちゃんと守るからな」


 まぁなぜ王家の人間がここに居たのかなんてどうでもいいか。今はレイナと一緒にこの国から脱出することだけを考えよう。


 俺とレイナは目前に見える脱出ポイント目掛けてひたすら駆けた。




「グレイス。彼とあったわ」


 中距離連絡魔法を発動して王女はある兵士に話しかける。


『そうですか。実に面白い男だったでしょう』


 戦闘中なのか周囲の喧騒やグレイスの荒い息遣いも聞こえる。


「ええ。彼、言ってくれたわ。貴方や国民を信じてお前の国を作ってみせろ、って」


『そうですか。私はいつでも貴方の味方です。私だけじゃない。国民もついています』


「うん。ありがとう」


 そういって王女は魔法を切った。グレイスに突然『脱出ポイントに行ってください』と言われたときは何事かと思った。しかし彼の表情があまりにも切羽詰っていたのでつい言われるがまま来てしまった。そこで数分待って現れたのが彼だった。


 きっとグレイスがこの場所を教えたのだろう。本来なら王族でない者に教えることは罪となるが今回はとても罰しようとは思わなかった。グレイスは私が彼と会うことで再びこの国を作り上げようとする思いを起こさせようとしたのだろう。実際そのとおりにことは運んだ。


「兵士と国民を信じろ、か」


 私にもまだ支えてくれる人たちがいるのなら、その人たちのために私にはやらなければならないことがたくさんある。彼らの期待に応えることは並大抵のことではないだろう。


 それでもやる、とにかくやってみる。じゃなきゃ何も始まらないから。


「ありがとう、本当に」


 王女はしばらくその場で見えなくなった彼と、そして彼と共に駆け抜けていった獣人の通っていった道を見つめていた。



 後に彼女は再びユウナギと邂逅することになる。

 その傍らには真に国を思う偉大なる将軍。その後ろに国を愛する兵士を率いて。


 



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