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黒の銃騎士   作者:
放浪編
26/37

二十四話 『運命の出会い』

                                        ☆


 にゃ? 少女の口から発された言葉の意味をもう一度噛み締めるように反芻する。

 こちらの世界の挨拶なのだろうか?いや、エリルたちは一言も『にゃ』なんて

言っていなかった。というか言葉よりも気にすべき点は『耳』だろ。猫耳、というやつ

だよな。俺も知識としては知っているのだが実際にこの目で見るのは初めだ。


 エリルの言っていた『獣人』ってやつか?耳以外は少女の体に俺たち人間と異なる

ところはない。ちなみに先ほどから俺も少女も沈黙したまま互の顔を見つめ合っていた。

 きっと相手の少女も俺同様何を言えばいいのかわからないのだろう。状況的に

ここで野営しようとしていたみたいだし、勝手に他人の野営地に入った俺がまずは謝る

べきだよな。


「すまん。その、この火をちょっと貰おうと思ってな」


 絞り出すように声を出す。この状況に少なからず動揺している。というかしない

ほうがおかしいよな? だがその動揺をできるだけそれを表情に出さない

ようにはしている。もしここで俺が驚き狂ったら目の前の少女もパニックに陥る

可能性があるからだ。ここは冷静に対応するんだ。そしてさっさとこの場を去ろう。



「にゃ?」


 少女の方はまだ驚きが持続しているらしい。いや、もしかしたら『にゃ』という

言葉しか発生できないのかもしれない。『にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃにゃ』

という会話を普段しているということも十分に考えられる。種族によって言葉が

違う、なんてことは普通に考えられる。


 少女の発した『にゃ?』が疑問形のように聞こえたのでその意味を考える。

 ふむ。恐らく『どうして火なんて貰いに来るんだよ!自分の魔法で火を

出せばいいだろうが』というところだろうか。言葉が通じるかは分からないが

ここはちゃんと説明しておいたほうがいいな。よし、説明し終えたら去ろう。



「実は俺は魔法が使えなくてな。けどこんな夜の森で火もなく過ごすなんて

危険だろ?だからその、ちょっと拝借しようと思ったんだ」


 じゃぁ火の準備くらいしておけ、と言われそうだがとりあえずこちらの

状況の説明はし終えたし面倒事にならないうちにこの場を離れよう。



「あ、あの!」


「え?あ、なに?」



 踵を返し去ろうとした俺を少女が呼び止める。どうやら言葉は通じるらしい。

 俺はさっと少女の方を振り向く。少女はもじもじとしている。トイレでも

我慢しているのだろうか? 俺の予想としてはここを離れていた理由を

トイレに行っているから、と思っていたのでちょっと辻褄が合わないが。


「よかったら、その、少しお話しませんか?」


 話?いや、特に話すことなんてないんだが。どちらかというと

俺口下手な方だし。


「ああ。わかった」


 それでも了承したのは勝手に火を拝借したという後ろめたさがあったからだ。

 

 少女がこちらに近づいてきて俺から少し距離を取ったところに腰を下ろした。

 先ほどは離れていたのでよくわからなかったのだが手に果物のようなものを

持っている。なるほど。食料を調達しに行っていたわけか。こんな時間に、

と思ったもののもしかしたら眠気を覚ますために行ったのかもしれない。

 なにせこんな森で少女が一人で寝る、というのは危険だからな。


 だがふと思う。確か獣人と人間は対立関係にあるはず。当然俺も例外では

ないはずだ。まぁ厳密に言うと『異世界人』となるわけだがそんなこと

この少女にはあまり関係がないように思える。


「えーっと、話といっても俺は特に話を持ち合わせていないんだが」


 申し訳ない、という感じで俺は言った。話の面白くない男はダメ!という

のをどこかで聞いたことがあるがなるほど。こういうときに気が利く話の

一つでも出来れば『かっこいい~!』ってなるのだろうか?といっても

この状況はかなり特殊だと思うけどな。下手なことを話して少女の怒りに

触れたくないし。



「どうして、こんな時間にこの森に?」


 控えめな声で少女が尋ねてきた。それはお前もだろ、とは言わない。

 見た目は少女だが実は凶暴な性格かもしれない。エリルの話では

獣人は総じて俊敏性に優れている、と聞いたしこのように視界の悪い

場所では俺が不利だ。気に障らないように答えよう。


「急ぎの旅でな。出来るだけ早く次の国に行きたいんだ」


「魔法が使えないというのは?」


 息をつかせぬように連続で少女が質問を投げかけてくる。なんだ?

まさか質問攻めにし俺が答えられないような質問をすることで

考えにふけったところを襲うつもりなのだろうか?だとすれば

なかなかの策士だな。


「本当だ」


 ならばこちらもすばやく少女の問いに答えるのみ。来るなら来い。

俺に答えられない質問があるのならな。


「なぜ髪の毛が茶色なのですか?」


「え!?」


 髪!?思わず驚きの声が漏れる。いや、髪が茶色の理由と言われても

地毛だから、としか答えようがない。だがその答えで満足するようなら

最初からこんな質問はしないはずだ。そういえば茶色の髪をした人間

を見かけなかった。エリルは金髪だったし、全体的に金髪が多かった

気がする。目の前の少女は銀髪だ。


 俺が悩んでいると少女が再び口を開いた。


「年齢は?身長は?それと、出身の国ーー」


「質問ばっかりだな」


 怒涛の質問攻めを遮る。


「どうしてそんなことが気になるんだ?」


 特に身長という事項は必要ないだろう。そんなこと聞いて誰が幸せに

なるんだ?いや、別に背が低いことを気にしてるわけじゃないんだ。

俺はまだまだ伸びるからな。


「それは、気になったから……」


 まぁ、そりゃぁ気になったから質問をするわけでその答えは間違いじゃない。


「年は17。身長は165cm。今現在の話だがな。んで、出身の国だが

お前に言っても分からないだろうからパス。まぁめちゃくちゃ遠いところだ」


 ふむふむと少女は頷きながら聞いている。それからしばらく考え込むような

仕草を見せたあと口を開いた。


「貴方、人間ですか?」


「? ああ。そうだが? 」


 真顔でそんなことを尋ねられたのでいまいち自信がないような返事になって

しまった。え、俺人間じゃないの?


「なんだか他の人間とは違う『匂い』がしたから。あ、あたしも17歳だよ」


 先ほどまでの敬語口調ではなくくだけた感じで話しかけてきた。タメか。

 正直中学生くらいに見えたがそんなことは言わない。レディーの扱い方くらい

心得ている。本で。


「そうなのか。あーっと、俺は白神 夕凪だ」


 本来なら身長やら髪の毛の色についてより先に訪ねるべきことだと思うのだが

聞かれなかったのでこちらから名前を伝える。


「あたしはレイナ。シラカミ ユウナギって、ちょっと変わった名前だね」


「みたいだな」


 そんな風に言われることにもだいぶ慣れてきた。


「それよりこんなふうに普通に話しているが、お前獣人だろ?人間と対立関係に

あるのに親しくしていいのか?」


 俺はできるだけとげとげしくならないように気をつけて言った。相手が

気持ちよく話しているのでそれに乗っかって時間を潰して別れればいい話だが

なんとなく聞かずにはいられなかった。


「あたしにも分からないけど、貴方なら大丈夫な気がするんだ」


 何だそれ。普通に考えたら理由になっていない。だがなぜか俺もなんとなく

彼女と話していてそれほど危機感は感じない。最初は感じていたのだが

今は割りと和やかに話しているつもりだ。


「こっちも質問していいか? どうしてこんな時間に一人で森にいるんだ?」


 俺の質問に少女は顔を曇らせる。

 まずい。地雷踏んじまったか?


 しばらくの沈黙の後少女は口を開いた。


「逃げてきたの」


「誰から?」


「人間」


 短くレイナは言った。人間。あまりにも漠然とした答えだ。いまいち要領

を掴めない。俺の考えていることがなんとなく分かったのかレイナは

言葉を付け足す。


「あたし、奴隷にされそうだったの」


「奴隷?」


 そういえばエリルが言ってたな。他種族は人間たちの奴隷にされている、と。

 彼女はそのことについて不満そうな気持ちを持っていたようだし人間のみんな

がみんな獣人を奴隷とすることに賛成というわけではないのだろう。



「そう。家族と買出しに行っているときにはぐれちゃって。そしたら人間に

捕まっちゃって。そいつが奴隷商人だったの」


 奴隷商人。聞きなれない言葉だ。だが意味は分かる。奴隷の売り買いを生業と

する者たちのことだろう。どういう意思でそういった仕事をしているのかは

知らないが個人的には良い気持ちにならない。他人の自由を奪うという行為を

許せないからだ。それは俺が今まで『自由に行きたい』と思っていたことに

所以するのかもしれない。


「家族はどこにいる?」


「もっと南の町。でも一人で行けっこない。家に帰るには『キルローナ国』を

通らなきゃならない。でもそこにはあたしを奴隷として買った貴族が私兵を

要所に置いているから見つからずに行くのは無理。たとえキルローナ国を

無事に出れてもあいつはしつこく追ってくる」


 陰険な奴なのか。エリルのように貴族のみんながみんな気高いというわけでは

ないというわけか。むしろこういう陰険な奴のほうが多いのかもしれない。


 見ると少女の目には涙が溜まっている。 女の涙に男は弱い、というが

どうしようか。こういうとき『俺が家まで送り届けてやるよ』とかかっこよく

いうのだろうがそんな無責任なことを言っていいものか。だけど目の前の

少女は無言で俺の助けを求めている、ような気がする。けどなぁ、俺の

勘違いだったら超かっこ悪いしな。ふぅ。ぽりぽりと頭を掻きながら

俺は言った。


「助けがほしいなら待ってるだけじゃなくて助けを求めろ。そうしたら

一人くらいお前の味方をしてくれる奴がいるかもしれないぜ」


 どうしよ。『助けなんていらねぇよ。バーカ』とか言われたら……。

 俺、超かっこ悪いよな。まぁいいや。そういわれたらそう言われたで

ここから立ち去るきっかけにすればいい。


 少女は悩む素振りを見せた後口を開く。


「あたしを助けて」


 震える声で彼女は言った。その声には切実な思いが込められている。

ここで『無理。めんどくさいし』と言える男がいるのだろうか。

少なくとも俺はそういう部類の男ではなかった。


「分かった。だがタダとはいかないな」


「もしかして……体が目当て!?」


 先ほどとはうってかわっておどけたようにレイナが言う。どうやら

俺が了承したことで一安心したらしい。まぁ俺のように得たいの知れない

奴に助けを請うのはどうかと思うがそれだけ頼れる人間がいないのだろう。


「なわけあるかよ。文字通り金だ。俺は無一文だからな。お前の故郷が

ここから遠いとなると旅の支度も必要だしそれらの金。それと一泊して

体の疲れを取ったほうがいいだろうから宿泊代だな」


「無一文!?よくそれで旅をしようと思ったね」


 ほっとけ。ん?

 レイナの顔が再び暗い表情になる。


「本当にいいの?貴方を巻き込むことになる。今ならまだ無関係だった

ことにしてもいいんだよ」


 不安。彼女の気持ちが言葉に表れている。『人』を信じられない。

だけど『人』に頼るしかない。その『人』を面倒ごとに巻き込んで

しまうかもしれない。 彼女の心の中でさまざまな思いが渦巻いている

のだろう。何度も念を押しておかないと不安で仕方ないのかもしれない。

こういうとき何て言ったらいいんだろう。『心配するな。俺を信じろ』か?

いや、これだと言ってるだけ感があるな。


「言ったろ。助けてやるって。そんなに心配だって言うんならそうだな」


 彼女の不安を振り払えるような言葉。考えろ。びっと来るようなもの。


「俺がお前の主になってやるよ」


「にゃ!?」


 やべ、言葉のチョイスミスったか?でもこれくらいしかピンと来るものが

なかったんだよ。いくらかっこいいこと言っても説得力ないと思ってな。

 まぁ今言った言葉もどうかとは思うが。


「お前の故郷に送り届けてやるまで、俺がお前の主としてお前を守ってやる」


 どこから目線?といわれたらそれまでだが、今の俺が考えに考えて

搾り出した言葉がこれだ。


「……」


 レイナは黙って俯いている。


 ダメだったか……。そりゃそうだよな。人間の奴隷になりたくないから

逃げてきたのに助けを願った人間に突然『お前の主になってやる』なんて

言われたらなぁ。何が正解だったの? 


「あはは」


 明るい笑い声が夜の森に響く。


「え?」


「俺がお前の主になってやる、か。ちょっと強引だけど、いいよ」


 初めて見たときに感じた不思議な感覚。それがいったいなんなのか

レイナにはよくわからなかった。だけど、彼なら信じられる。そんな気が

した。『お前の主になってやる』という言葉を聞いてなぜか安心した

自分がいた。なぜなのかは分からない。だけどその言葉を待っていたような、

そんな気がした。


 


 

 いいよって、言った俺が言うのもなんだがちょっとどころか

かなり強引だったよな?俺としては『それくらいの自信がこっちにはあるから

心配すんな』ってことを伝えたかったわけで本当に奴隷にしようだなんて

思ってないぜ?それにそんなにすんなり頷かれるとこっちが不安になるわ。

 あたふたと頭で考えているとレイナが口を開いた。

 


「今日から貴方が私の主だね。ちゃんと守ってよ、『主様』」


 そういってレイナは満面の笑みを俺に向ける。


「? ああ。任せろ。俺は約束は破らないからな」


 主様、という言葉に反応したのだがなぜかは分からなかった。


 

 それから少し話した後レイナは眠りについた。よっぽど疲れていたのだろう。


 しばらくして俺も背中を木に預け眠りについた。


 



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