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黒の銃騎士   作者: 葵
放浪編
25/37

二十三話 『真夜中』

                                       


 エリルと別れて俺は首尾よくリピローグ家の敷地から抜け出ることが出来た。

 

 さて、これからどうしたものか。旅をする、と威勢よく飛び出したものの具体的に

どうするかなんてまったく決めていない。かっこよく言えば『答えを探す旅』だが、

要するに『とりあえずどこでも行ってみる試み』という感じだからな。


 歩きながらこれまでエリルに聞いたこの『世界』の情報を思い返す。


 まず人間。グリテン帝国通称『帝国軍』とそれに対抗するために結成された

『連合軍』同士の抗争。現在は休戦協定が結ばれ両陣営の国に行き来することも

可能となっているがいつ戦争になってもおかしくないという状態らしい。


 そして『人間』そのものに対立するように存在するのが獣人を初めとする

他種族。かつて古い時代に人間と戦い敗れたために現在は他種族の多くは人間の

『奴隷』として扱われていることも少なくないらしい。

 その種族がもつ『力』の観点から言えば人間はそれほど強大ではなく、むしろ

強靭な肉体を持つドワーフ、圧倒的な魔力を持つエルフなど他種族のほうが

優位に立っている。しかし人間は『繁殖力』という武器を手に圧倒的な数を

持ってこれら他種族との戦を制した、らしい。

 戦いに負けた他種族は土地を人間に奪われ現在は各地に散って生活している

そうだ。かつて人間に負けた屈辱を晴らさんと力を蓄えているらしい。


 と、これがこの世界の情勢だ。大陸統一を目論む強大な軍事力をもつグリテン

帝国。かなりの国がすでに帝国の傘下になっている。それに対抗する連合軍は

それぞれの国の独立を守ろうという意思のもと同盟を結んだ国々。

 他種族はかつての自分達の国を再興しようとしている。この話を聞いたあと

『連合軍』と他種族が同盟を組めばグリテンに対抗できるのではないか、と

思った。というよりもエリルの話ではこのまま行けば帝国軍の勝利に終わる、

ということらしいし他種族との同盟は必須なはずだ。当然連合軍のお偉いさん

方も手は打っているようだがうまくいかないらしい。他種族とてこのままでは

いけないということはわかっているのだろうが『じゃぁ同盟を結びましょう』

とはいかないのだろう。歴史がそれを邪魔している。




 地理関係で言うとアルバノスは帝国軍傘下の国と国境が接している

最前線国だ。アルバノスを出るにしても行き先をある程度決めておく必要がある。

帝国軍、連合軍のどちらにも明確に所属しているわけではない俺にとってこのまま

同盟軍領である連合軍の国に行くか、それとも北上して帝国軍領の国に行くかで

非常に悩みどころだ。

 行きやすさで言えば連合軍領のほうが勝る。いくら休戦中

で互いの国に行き来できると言っても連合軍領から来る者達には厳重な取調べ

を行うと聞いた。俺のように得たいの知れない者を素直に入れてくれるかは

少々疑問だ。となると話は決まったな。


 先日エリルとともに訪れた街を早足で通り抜ける。アルバノスを出るにはここを

通り抜けなければならない。真夜中にもかかわらずいくつかの店から明かりが

こぼれている。酒場だろうか。何か食い物でも買って非常食として持っていき

たいところだが生憎金を持ち合わせていない。

 

 さっさと街を通り抜けアルバノス王国の入り口である巨大な門が見えてくる。

 問題はここをどうやって通るか。確か初めてエリルと出会ったときは馬車に

乗ってここを通り抜けたはずだ。門の近くに門番が立っているところを見るに

『通行許可書』のようなものを見せれば通してくれるのだろうが当然俺は

そんなもの持ち合わせていない。


 どうしたものか。あまりもたもたするわけにもいかない。力ずくでいくしか

ないか。俺はコートについているフードを目深に被る。『天』『地』は目立つ

から使えない。拳をぎゅっと握り締める。門番程度なら問題なく倒せるだろう。

 

 俺は影に溶け込むように忍び足で門番の近くまでたどり着いた。

 さてと。懐から短剣を取り出し一気に駆け抜ける。


「門を開けろ。騒げば殺す」



 門番の背後に一気に詰め寄り後ろから首筋に短剣を突きつける。


「な!? ま、まて。お前、リピローグ家と縁のあるものか?」


「? エリルとはまぁ知り合いだが」


「リピローグのお嬢様から黒のコートを着た男が着たら門を開けるように

頼まれているんだ」


 門番は小声で、しかし必死に俺にそのことを伝える。リピローグの

お嬢さんといえばエリル以外にいない。エリルが手回ししてくれていたのか。



「開けてやるからさっさといけ。面倒ごとには巻き込まれたくないんでな」


 男がそう言うのを聞いて俺は短剣を首筋から離した。


 男が門の近くの装置を操作すると門がわずかに開いた。人一人がぎりぎり

通れるかどうか、といったくらいの広さだ。


「ここから一番近い国はどこだ?どう行けばいい?」


 今しがた門を開けてくれた男に尋ねる。


「ここから一番近い国といやぁここから南にまっすぐ進んだところにある

『キルローナ国』だな。門をでてまっすぐ進めば森がある。そこを抜けりゃぁ

見えてくるだろう」


「なるほど。ありがとな」


 細かく説明してくれた門番に礼を言いながら俺は門を潜り抜けた。

 俺が出るとすぐに門は閉じられた。



 森、か。本来なら明るい時間帯に行くのが安全なのだろうがあまり時間を

かければ俺の空腹が限界を迎えるだろう。一応アルバノスで小銭を稼いで

から旅に出ようかとも思ったが先日の模擬戦で優勝したことで顔が知れて

しまったので急にギルドに顔を出せば騒ぎになる可能性がある。ことを

荒げずにアルバノスを出たい俺としてはそういう事態はできるだけ避けたい。

 そのため無一文にもかかわらずアルバノスを飛び出したわけだ。


 先ほど門番に聞いたキルローナ国で金を集めるとしよう。夕飯は多めに

食ってきたし一日くらい飲まず食わずでも問題ないだろう。


 しばらく歩くと巨大な森が視界に入る。思っていた以上に視界が悪そうだ。

 視界が悪い上に木々のような障害物が多いとなると空間転移は役立ちそう

にないし自分の足で歩かなかればならないようだ。


 分かりやすく目の前の森を表現するなら日本で言う『樹海』のような

感じだった。うっそうと木々が生い茂る森に一歩ずつ入っていく。

 

 道を照らす明かりが月だけというのはこころもとないが贅沢は言って

られない。こういうとき魔法を使える奴ならその辺の太目の枝にぽっと

魔法で火をつけたりするんだろうが生憎俺は魔法なんていうファンタジー

なものは使えない。マッチからライターでも持ち歩いていればよかった

んだが、未成年のためタバコに触れることのない俺はそれらを

持っていない。


 ペースを落としながら周囲に気をつけて進むこと数十分。


 はぁはぁと息が上がっている。視界の悪い森を手探りで進むという行為

は思っていた以上に体力を使う。そもそも森という足場の悪い場所を

歩くこと事態あまり経験したことがないからな。

 これ以上下手に進むより日が昇るまで休憩し体力を温存しておいた

ほうが効率がいいかもしれない。


 周囲を見渡し休憩するのにちょうどいい場所はないかな、と探していると

ちらっと赤い光が見えた。じっと目をこらすとその光が炎であることが

分かった。


 誰か居るのだろうか?こんな夜更けの森に?俺は怪しみながらも音を

殺して火の燃えている方へと足を進める。その火は目立たないようにと

弱弱しく燃えている。


 木の影からそっと火の燃えている地点を伺う。人の姿はない。

 トイレか何かでどっかに行っているのだろうか?それなら好都合だ。

 周囲を警戒しながら俺は火へと近づく。俺の手にはその辺で見つけた

松明の代わりになりそうな太目の枝が握られている。何をしようと

しているのかって?ちょっと火を分けてもらおうと思ってな。火があれば

獣は近づかないということを聞いたことがあるので火を焚いて一眠り

しようと思ったのだ。周囲を警戒してはいるが別にこの火を焚いた人が

戻ってきたらきたで『すいません、ちょっと火ください』といえば

多少は怪しまれるだろうが分けてくれるだろうし問題ないだろ。

 さすがにお金要求されたら困るけど、たぶん大丈夫だろ。俺だったら

火くらいタダでやるし。


 火に近づき手に持っていた松明代わりの枝をかざす。いい感じで火が

燃え移る。さすが俺。枝のチョイスがよかったみたいだ。どの枝も同じ

ように見えたが直感でこいつが俺を呼んでいるような気がしたんだよな。


 そのときざっという足音が聞こえた。こんな時間にここを偶然

通りかかる者がいるとは思えないのでおそらくこの火を焚いた

人間だろう。一応礼をしておこうと思って音のした方を振り向く。

首の動きに合わせて右手で握っている先端が燃えている枝も動かす。



「にゃ!?」


「え!?」


 振り向いた先に居たのは一人の少女だった。背丈は俺より少し

低いくらいだろうか。夜の森、月明かりが照らし出す、という

シチュエーションの効果もあってか神秘的な雰囲気を醸し出している。

 顔立ちはまだ幼いが大人になればきれいになりそうな感じがする。


 しかし一番目を引いたのは彼女の頭についている『もの』だった。

 思わず驚きの声を発してしまった原因。


 少女の頭の上には耳がついていた。猫についているような耳が。





 後に伝説として語り継がれる二人の出会い。

 

 真夜中の森にて一人の少年と獣人の少女は出会った。


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