十七話 『副将戦』
「あいやぁ~、負けちったよ、あいつ」
シーサーなりの配慮なのか帰ってくるカヤには聞こえない程度の
声量で言った。
「問題ありませんわ。私が勝てば問題ないのですから」
「そぉかよ。まぁがんばんな」
言われなくても、と思いながらもニナは無言で控え席を後にする。
途中カヤとすれ違った時にはトンと彼女の肩に手を置くだけでにとどめた。
今の彼女の心境を考えたとき、とやかく言うのは得策ではないと思ったからだ。
『さて、試合も四試合目に入り副将戦です!それでは選手の紹介をしていきます!』
観客席は今までにないくらい盛り上がっていた。生徒会チームの三勝ストレート勝ち
に見えたものが副将戦まで追い詰められたとなると気持ちが高鳴らずにはいられないの
だろう。
『二年生代表はギルバルト・ゴウ・オーゼル!彼についての詳細はわかりませんが
昨年は先ほど勝利を収めたナナ選手と同じチームで大将を務めていました。どれほどの
力を持っているのか分かりませんがその実力に期待したいところです!!』
控え席の俺はギルバルトを見ながら先ほどのやり取りを思い出していた。
「ユウナギ。正直俺はお前がどのくらい強いのかなんてわからねぇ。お前の力を
信じていいのかもわからねぇ。ナナはお前のことを買っていたし、俺自身面白そう
なやつとは思うが俺とナナの算段じゃこの時点で『二勝』している段取りだった」
ギルバルトの言いたいことはなんとなく分かる。ここで自分が勝ったところで
全ての勝敗は大将戦である俺に委ねられるということ。
「ここまできたらもうお前を信じるしかできねぇ」
「俺としては何の根拠も証拠もないが信じてくれ、としか言えない。詐欺師みたい
で悪いがな」
「っへ。『確実』にお前まで回ってくるってのに全くプレッシャーに押されていない
その余裕を今はお前の自信として受け取っとくよ。んじゃ行ってくる」
終始ギルバルトは自分の勝ちを確信しているようだったが何か必勝法でもあるの
だろうか?俺としては今の俺の実力がどの程度通用するものなのか『最高』の敵を相手に
試せそうだし俺の番まで回してほしいという思いは当然ある。
『対する三年生チーム代表は『睡蓮花』の二つ名を持つニナ・ル・グローラ!
芸術的な試合で観客を魅了してきました!この試合でも華麗な花を咲かせてほしい
です!』
ニナはわぁああという観客の声援に丁寧にお辞儀をしている。
そのご二人は互の顔をみて対峙する。
「ギルバルトさん、と申しましたね。あなたについての情報は伺っています。ランクは
Cとか。恥をかきたくなければ早めに棄権することを勧めます」
「忠告ありがとう。けどそれは受け入れられない。ボロボロになりながらも俺まで
回してくれた仲間のために。そして俺のあとに控える大将のために」
「随分と大将を務める方を買っているのですね」
「俺もお前同様あいつの実力は知らねぇがあいつはこう言った。『ランクなんか関係ない』
ってな。別にだからどうだって話じゃないけどな。まぁお前のように大勢の人間に
認められているやつには分からないことだろうけど、俺は別に大勢の人間に俺の
力を認められなくたっていい。分かってくれるやつがそばにいればそれでいいんだ。
そして、俺はそいつらのために全力で戦う」
「そうですか。ならば私も全力で戦うのみです」
「おう。だがこの勝負は俺がもらう」
「何か勝算でも?」
「対戦相手がお前と決まったときに勝ちを確信したよ。魔法の『相性』でな!」
相性?私の使う魔法は水。ということは土系統の使い手ということか?だが彼が
土魔法に長けた生徒だという情報は聞いていない。
『それでは副将戦を開始します!!!!!』
審判の合図とともにニナは後ろへとバックステップで移動。先ほどのギルバルトの
言葉に対する疑問が残っているが今はそれを考えている場合ではない。勝つことだけを
考えなければならない。ある程度距離をとったところで動きを止める。対戦相手は
接近してくることなくこちらの様子をじっと伺っている。遠距離型なのだろうか?
『水魔法・睡蓮花』
魔法を唱える。私の二つ名の由来となった魔法。周囲に大きさの異なる水でできた
睡蓮の花が浮かび上がる。エリルの水の鞭と共通する効果もあるがその最大の
違いは攻撃速度の速さと一つ一つの睡蓮花へ込める魔力の量を変えられるので
緩急が付けられるということ。魔力量が大きくなれば睡蓮花が大きくなり
攻撃の威力、範囲面積が大きくなる。逆に小さい睡蓮花は速度に優れている、
といった具合にそれぞれの睡蓮花に違いを持たせている。
「それではこちらか攻撃を仕掛けさせてもらいます。行きなさい、睡蓮花!」
周囲に浮遊していた小さめの睡蓮花がギルバルトを襲う。彼は魔法で打ち消す
のではなく回避行動をとることで魔法を避ける。右に左にと器用に交わしていく。
「当たらなきゃ意味がないだろ。んじゃ次は俺だ。
ギルバルトが手を前にかざす。
『火魔法・木漏れ火』
小さい火の粉が広範囲からニナを襲う。だが無駄だ。
「弾けなさい。睡蓮花!」
向かってくる火の粉に周囲の睡蓮花を操り打ち落とす。
「器用に扱うんだな」
そう言いながらもギルバルトは次の魔法の詠唱を開始する。『勝つため』の
魔法を。
「相性云々と言っていましたが?」
「せっかちなやつだ。そう急かさなくても見せてやる」
「残念ですが勝負はこれにて終わりです。水魔法のデメリットがあると
すれば水場のない場所では本来の威力が発揮できないということ。よぉく
回りを見てみることです」
ニナの長い発言が終わる頃には詠唱はすでに完了しいつでも発動できたが
それでは芸に欠ける。相手は『魔法の芸術家』なんてもてはやされてるんだ。
ここで俺が取る行動はっと。
ギルバルトは回りを見回して声を張り上げる。
「しまった!火の粉を盛大に撃ち落としたのは水を闘技場に撒き散らす
ことが目的だったのか!!」
「これであなたを全方位から捉えられますわ。あなたの火魔法では防ぐことは
無理でしょう。降参するなら攻撃の手を止めますわ」
「っへ。さすがは副会長だ。技の使い方がうまい……俺の負けだ」
ギルバルトの言葉に満足げに笑おうとしたときだった。彼がニヤっと笑うのが
目に入る。
「なーんて言うと思ったか?どうして降参なんてする。自分の勝利を確信している
時に」
「!?もう貴方の戯言には呆れませんわ。消えなさい」
ニナはうんざりするように言い放つ。
『水魔法・睡蓮の舞』
水が撒き散らされたことでできた水たまりから次々に睡蓮花が浮かび上がる。
「いきなさい!!」
ニナの言葉を合図に無数の睡蓮花は一直線にギルバルトに向かう。
睡蓮花の数は優に50を超えている。俺に向かって全方位から睡蓮花が襲い
かかる光景はさぞ芸術的だろう。だが、その芸術を俺がぶっ壊す。
「大したもんだよ。だがこれで終わりだ」
何を言っているんだ、と思いながらニナはキッとギルバルトを睨みつける。
彼の口が動く。
『雷魔法・降り注ぐ無数の雷』
直後頭上に巨大な魔法陣が出現し音速を超えた速さで一つ一つの睡蓮花を
雷が撃ち落としていく。睡蓮花を貫いた雷はやがてひとつの巨大な雷球に
姿を変える。
「馬鹿な!?雷魔法ですって!?そんな!?そんな……!」
「言ったろ。『相性』が悪いってな。水は雷を通す。水と土は最悪の相性
だなんて言われるがそれは違う。水と雷こそが最悪の相性だ!まぁあまり語る
のも男らしくねぇからこれで終わりだ。落ちろ!」
ギルバルトの言葉を合図に巨大な雷球がバチバチと音を鳴らしニナを襲った。
雷球が地面と衝突し地面を抉る音が生じ同時に土煙が舞う。
数秒後煙が晴れた時には地面に仰向けになって倒れているニナの姿があった。
『な、なんということだ!試合を制したのは二年生代表ギルバルト選手!
特殊系統『雷』を用いた見事な戦いでした!』
すごいぞぉ、といった声にギルバルトは満足げに笑う。
控え席を見ると治療を終えたのかリサ、エリル、そしてナナがいた。
ナナのやつ、一番重症だったのに出てきやがって。ったくタフなやつだぜ、
お前は。
俺はナナに歯を見せて笑いかける。同じようにナナもニっと笑い返した。
序盤にもかかわらず主人公以外のキャラにばかりスポットを当ててしまって
少々後悔していますが次からは主人公メインの話です。
ここまでお付き合いいただいた方、本当にありがとうございます。




