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黒の銃騎士   作者:
学園編
18/37

十六話 『炎剣』VS『炎狼』

                                        

「おつかれさま」


 ニナはたった今次鋒戦にてチームに一勝をもたらしたシーサーを労うように

言葉をかける。


「はいよ。あぁ、タオルはいらねぇよ。汗なんてかいてないからよ」


 その言葉でニナはシーサーに渡そうとしていたタオルを膝の上に置く。


「それにしても連結魔法が使えたならあらかじめ言ってくれてもいいのでは?」


気を取り直すようにニナは言った。


「っへ。敵を騙すには味方からって言うっしょ?」


 いつものように軽い口調で返すシーサーに対して思うところがあったものの

口を閉じる。シーサーのもたらした一勝の貴重さを十分に理解しているからだ。

 敵ながらシーサーの対戦相手であるエリルの実力は非常にすばらしかった。

同じ水魔法の使い手だからこそ水のない地理的不利な状況において

あれだけの試合を見せたエリルの健闘を称えるようにニナは彼女に拍手を送った。

その彼女に一切主導権を握らせることなく完勝してみせたシーサーに対しては

賞賛というよりも気味の悪さを覚えた。得体のしれないものを見たときの

ような感じだ。普段は飄々としているが何を考えているのかわからない男だ。

仲間ではあるものの油断はできない。


「それじゃ行ってくるわ」


 カヤが立ち上がったことでニナはシーサーについての考えをやめた。

 今考えるべきことはシーサーのことではなくこれから戦いに行く

カヤのことだ。


「カヤ、貴方なら勝てるわ」


「二度も同じ相手に負けるわけにはいかない。絶対勝つよ」


 カヤは真剣な眼差しでニナを見つめながら言う。

 今まで見てきた中で一番気合に満ちていた。


「俺から言うことは特にねぇわ」


 それがこれから戦いに向かう仲間に言うことか?と思わず顔を顰めてしまいそうに

なる言葉をシーサーが平然と言ってのける。もうすこしデリカシーというか

人の気持ちを考えて発言してほしいものだ。



「カヤさん。健闘を祈ります」


 大将を務めるユーナがいつもと変わらぬ冷静な口調ながらもカヤを鼓舞する。


「うちの勝利で優勝を掴んでくるよ」


 そういってカヤは闘技場へと歩いて行った。






『さぁいよいよ中堅戦!三年生チームが二勝し優勝にリーチをかけております!!

どちらのチームにとっても非常に重要な試合となりますがなんという運命の

いたずらでしょう!!昨年激闘を繰り広げた二人の戦いを一年の時を経て

再び見ることができるとは!!それでは選手を紹介します!!』


 審判の実況に主に学園の生徒を中心に歓声をあげる。

 まるで去年の試合を思い出すように。



『二年生チーム代表は『炎剣』のナナ・サン・フォーラル!

昨年は唯一生徒会チームから一勝をもぎとった選手です!

今年はどんな勝負を見せてくれるのでしょうか!』


 ナナは審判の挨拶に応えるように小さく一礼する。

 その仕草は普段は軽い調子の彼女からは想像できないほど真剣な様子だった。


『そして三年生チーム代表は『炎狼』のカヤ・オル・フラート!昨年は接戦の末

当時一年生のフォーラル選手に惨敗してしまいましたがこの雪辱をこの勝負で

晴らすことができるのでしょうか!!』


 カヤは審判の言葉を気にする様子はなくただ黙って対戦相手であるナナを

見つめている。その目は今にも飛びかかりそうな野獣のようだ。


「悪いですけど今年も勝たせてもらいます」


 挑発的にナナが言い放つ。先輩が相手ということもあり丁寧語を使っている。


「うちは二度もあんたに負けるつもりはないから。さっさとはじめよ」


 これ以上話すことはないと言わんばかりにカヤは審判を見つめる。空気を読んで

コールせずにいた審判は一度小さく頷く。



『それでは中堅戦を開始します!!!!!』


 審判の試合開始を告げるコールが言い終わると同時にナナはカヤに向かって走り出す。


 対戦相手であるカヤは召喚獣を使って戦う遠距離タイプ。遠距離からの

攻撃は非常に厄介だが懐に入ってしまえばあたしの勝ちだ。

走り出すのと同時に唱えていた詠唱を唱え終えたので

右手を前にかざす。


「出て。『炎剣』」


 ナナの呼びかけに応えるように炎が彼女の右手を纏い『剣』を形成する。

 あたしの二つ名の由来となった魔法。術そのものは中級魔法だけど刃に巻き付いた

炎の使い方によっては上級魔法をも上回る。あたしの一族は代々この魔法に長けている。



「さすがに二つ名の由来となっただけあって詠唱が早いね。けどそれはこっちも

一緒!!!!」


 動かずじっと詠唱を唱えていたカヤがナナに一秒ほど遅れて魔法を発動する。


「来い。『炎狼』」



 カヤが術名を唱えた直後彼女の立っている地面近くに魔法陣が出現し音を立てて

炎を纏った巨大な狼が現れる。


「燃やし尽くしなさい!」


 カヤの命令に従うように現れた狼は口を大きく開く。


「っち!」


 ナナは炎狼の口の奥に赤々と光るものを見て舌打ちする。『ブレス』だ。

炎と炎とでは同系統の魔法なので相性の優劣がなく術者の力量のみによって勝負がつく。


 ナナは右手に握る『炎剣』に魔力を込める。


 直後、炎狼の口から灼熱の炎の息吹が吹き出てナナに襲いかかる。



 ナナは走るのをやめ足に力を入れ、冗談から『炎剣』を振り下ろす。

 振り下ろされた『炎剣』から巨大な炎の刃が発生し『炎狼』の放ったブレスと

ぶつかりあう。炎と炎がぶつかったことでジュウウウと周囲の空気を焼かんとばかりに

音を上げる。



「はぁはぁ」

                                        

 ブレスを相殺できたもののナナは息遣い荒くして膝に手を当てる。

 召喚獣を使う戦いの最大の利点は術者本人の魔力に加え契約した召喚獣自身の魔力をも

使うことができるので自身のもつ本来の魔力量以上の魔力を込めて魔法を使える

ということ。

 ただしデメリットとしてはそもそも召喚獣と契約を結ぶことの難しさにある。召喚獣の

正体は『魔獣』だ。理性を失った獣との契約は魔獣のランクが上がれば上がるほど困難と

されている。ランクはS~Eまであり、『炎狼』はAランクに位置している。

カヤが『炎狼』を使役できるのはカヤの一族が代々『炎狼』と契約し続けている

ということに由来する。




「ブレスを相殺するとは流石ね。去年はあたしの『炎狼』の扱いの下手さが

原因で負けたけど今年はそうはいかない。っま、もうそれはわかってるだろうけど」



 自信満々の顔で言い放つカヤにナナは顔を歪ませる。素直に思った『強い』と。

 昨年以上に自身と『炎狼』の魔力を扱うのに長けている。


 ナナは膝から手を話剣を構え直す。すでに魔力を五割ほど消費してしまった。

先手必勝で相手が魔法を唱える前に懐に潜り込もうと思ったが油断しすぎていた。

 相手はこの一年で自分の想像をはるかに超える成長を遂げている。とにかく

ここからは慎重に……


「慎重に勝負しようとしているんだろうけどそうはさせない」


 まるでナナの考えを読んだようなカヤの発言にナナは目を見開く。


「ブレスを一回しか出せないと思ってんなら甘いよ?」


 口の隙間から煙が立ち込めていた『炎狼』がもう一度口を開く。

そこには先ほど見たのと同様に炎がうごめいていた。


「うちはあんたに負けて本当に悔しかった。火を使うことに関しては自信があったのに

同じ火の使い手である当時一年のあんたに負けて何度も泣いた。

けどね、今は感謝してるよ。あんたのおかげでうちはもっと強くなれたから」


 そう言って笑うカヤがナナにはとても眩しく見えた。そうか。この人はこの一年きっと

私の想像を絶するくらいの努力をしてきたのだろう。勝てるのだろうか。才能にかまけて

努力を怠ることのあった自分が。自信が持てない。それほどに今目の前にいる先輩は

強い。



「これで終わりよ。うちの全ての力を込めてあんたを倒す!!!

吠えろ、えんろぉおお!!!!」



 カヤのこの一年の思いを込めるように『炎狼』が炎の息吹を吹く。

熱く情熱的な炎の激流が再びナナを襲う。


 どうすればいい……もう一度受け止めればいいのか?

そんなことをすれば魔力を使い果たし戦うことができなくなる。だが他にどうすればいい。


 勝つ、なんてでかい口を叩いてきちゃったけどごめん。無理そう。ナナは諦めるように

握っていた剣を下ろす。


 ちらっと控え席を見る。そして目を見開く。そこにはあたしを送り出したときと変わらぬ

表情のギルバルトがいた。彼の目が告げている。『お前なら勝てる』と。

『俺まで回してくれ』と。そうだ。そうだった。二人で約束したんだ。

 

 あの日、この学園の入学式で初めてあった時に意気投合し誓い合った。

『必ず最強の生徒会チームを倒して優勝してやろう』という約束を。

あいつらの最強伝説を打ち砕いてやろう、と。


 下ろしていた剣をもう一度構え直し短く詠唱を唱える。


『火魔法・衣火』


 火魔法の中でも下級に位置する魔法。文字通り炎を纏う魔法だ。


目の前のカヤはなんの真似だ?とばかりに眉をひそめている。その顔を驚愕の表情に

変えてやる!あたしは負けられない。必ずギルバルトまで回さなければならないんだ!!


 足に力をいれ、そして走り出す。


「うあああああ!!!!!!!!!!!」


 雄叫びをあげながら迫り来る炎の息吹をまっすぐ見つめる。どうせ完全に防ぎ切ることは

できないのなら最低限の魔力を防御に回し残りの魔力は『勝つため』に『炎剣』に込める。



『ゴオオオオオオオ』と凄まじい音とともに炎がナナの体を襲う。


 熱い。熱い。熱い。自身の炎を纏っているため相手の炎の威力を軽減できるもののそれでも

互の魔法の威力の差は一目瞭然。


 ピッピッピと制服に取り付けてある装置が点滅を始める。自動防御魔法が発動しようと

しているのだ。これが作動してしまえば負けが確定してしまう。諦めて立ち止まりたい。

そうすればこの熱さから解放される。だけどそれはできない。負けられない。

あたしにだって背負うものがあるんだから。



「うわぁあああああ!!!!」



「炎の息吹に突っ込むなんて……」


 驚きの声を上げるもののカヤは動じていない。彼女は見たところ火を纏っていたものの

とてもじゃないが防ぎきれないだろう。うちの勝ちは動かない!


 自分の勝ちを確信し悠然とカヤは立っていた。その直後だった。


 炎の息吹の中からぼろぼろのナナが飛び出す。


「っな!?」


 衝撃のあまりカヤはただただ立ち尽くすことしかできない。


 皮膚に火傷を負い、息をぜえぜえと切らしながらもその目に闘気を宿す少女がこちらに

向かって気合の一声とともに剣を振り下ろした。




 カヤに刃が当たる直前に自動防御魔法が作動する。



 カヤ同様彼女の勝利を確信していた観客は予想と反する結果に声を出せずにいる。

 最初に声を上げたのは審判だった。


『な、なんということだ!!!!カヤ選手の勝利に見えましたが

勝負を制したのは二年生代表ナナ選手だー!!!!!!!実に、実に

見ごたえのある試合でした!!!』

                                        

 審判の声でようやく結果を受け止めた観客が歓声を上げる。


「あんたね、最後くらい先輩に花を持たせなよ」


「はぁ……、悪いけど、こっちにも負けられなー」


 言い終える前にナナは力尽きるように地面に倒れた。



「はぁぁ~。負けちゃった。でもまぁ、うちの全てを出し切ったよ」


 倒れたナナに医療班が駆け寄ってくる中、一人控え席の方へと歩き出す。

 その目から涙がこぼれないように空を見上げて続けて。



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