第12話「痕跡」
めずらしく、まばゆい朝の光で目が覚めた。
いつもなら来るはずのペットが、今日は私を置いてみんな寝ている。
「何気に初めてだな」
寝ているペットの頭を撫でながら、昨日のことが頭に浮かんできた。
服……着てみるか
軽く背伸びをしながら、買ってもらった服を手に取った。
今頃の服は、ほんと無駄な装飾品が多いな……でも、確かに可愛いか
意味の分からない構造をしている服をなんとか着て、朝食を食べながらもまた昨日の事を思い出していた。
変人のやろう……なんかスマホを落としたって言ってたよな。人間世界じゃ、不便になるだろう。かわいそうな……ん
飲んでいたスープが口に入らなくなった。
スマホ、家にあるじゃないか……!
スマホを見つけたあの日、結局リエに渡すのも違う気がして持ち帰って、適当な場所に放置していた。
え……返すか? と言うよりも、また探しに来たらまずくないか?
朝ごはんを急いでかきこんで、家のどこかに置いたスマホを急いで探した。
タンスにはしまってない……というより収納スペースには邪魔だから置かないはずで……
考え事をしていると、私の頭にペットが乗っかってきた。
「すまん。今、大事なことを考えているんだ。あとにしてくれ」
ペットを床に降ろして、再度思考を巡らせる。
スマホを理解できていない状態だから、魔法も使えないし……
部屋の中をぐるぐると回っていると、ドアからノック音が聞こえた。
まさか……な
すぐに魔法を使ってドア前に居るものを確認すると、そこには見慣れない顔の男が立っていた。
茶髪で青い目を持ち、そこそこの身長と筋肉がある。
ここから人間界までは、なかなか遠い……こいつ、何用で来た誰だ?
ゆっくり扉に近づいて、開けられないように薄く結界を張った。
「誰だ」
そういうと、何やら安堵したような声が聞こえて来た。
「急にすみません。ちょっと道に迷ってしまいましてー」
なんだ。そんなことか
緊張感も一瞬にして解けた私は、扉を開けた。
「あ、どうもー」
「道に迷ったんだろう。どこに行きたい」
「あ、普通に街中の方に行きたいんですが」
「あー、分かった。少し歩くぞ」
「わざわざ、すみませんー……」
男は深々と頭を下げて、私の斜め後ろを歩き始めた。
なんか、語尾が気になるやつだな……
「なんでこんな森の奥に来たんだ」
「度がつくほどの方向音痴でして、ナビを見ていたんですが、山道に入ってからおかしくなってしまいまして」
「そうか」
そういえば、ドワーフの中にも方向音痴で私の家まで来た奴がいたな……
無論、顔なんて思い出せないが、はっきりと出来事だけは思い出せる。
確か、あのドワーフも私の家に忘れ物をしていったな……どこで拾って何に使うのか知らんドラゴンの虫歯なんて、全く面白いやつだよな
「こんな場所で一人で暮らしてるんですかー?」
「ああ。自然に囲まれてる方が、気分が落ち着くし、ペットがどうしてもな。ここがいいと言って聞かないんだ」
「あー、ペットのため。お優しい方なんですねー」
男の口調に若干の苛立ちを持っていると、前方の方に人間界の建物が見え始めてきた。
私が最初に見たあの、高い建物群の一つだ。
「あ、ここからならもう分かると思いますー。どうも、ありがとうございましたー」
「よい。もう迷うでないぞ」
「はいー」
しっかし、危なっかしい人間はいつの時代にもいるもんだ……
きょろきょろしながら歩き出した男をしばらく見ながら、私は家に引き返した。
「ただいま」
意気揚々と扉を開けると、扉に押されて何かがひこずられるような音が聞こえた。
ん……?
玄関に入って確認すると、そこには男の持っていたであろう巾着に包まれた何かが置いてあった。
いつのまに……?
仕方なく届けようと触ると、巾着の縛りが解けて、中身があらわになった。
「は……?」
体が止まった。
目の前にはドラゴンの虫歯が落ちていた。
あいつ……!?
巾着を魔法で縛って、すぐに私は空に飛んだ。
どこにいる……
木が邪魔していて視界が悪い。
やむおえん……疲れるが、同時に魔法を使うしかないか
久しく異なる魔法を同時に使った。
透視で木の下が見えてくる。
まだそんなに遠くには行っていないはずだ……
よく目を凝らすと、挙動不審に動く男が見えた。
よかった……
すぐ近くに降りて走って向かうと、男はすでに私を目でとらえていた。
え……
「見つけた……」
男がそう言ったかと思うと、私の目の前に久しぶりに見る魔法陣が現れた。
これは……
「逃げきれないですよ」
さっきとはまるで別人のように、はきはきと喋りだした男の手から、魔族が扱う攻撃魔法が飛んできた。
まずい……
ここで跳ね返してしまえば人間界に被害がいくし、防御魔法を展開しても、結局はどでかい音で誰かに見られてしまうかもしれない。
やむおえん……
魔法の力量を計算し、同等の力を持った魔法を打ち出した。
これで相打ちになってくれれば、被害はまだ最小で収まってくれる。
私の計算通り、男の打ち出した魔法は私の魔法によって消えていき、空には何も残らなかった。
次の魔法を打たれるよりも前に、男の後ろに転移して、背後から魔法で体を縛った。
「おい、お前。生き残りの魔族か」
「違う……」
「じゃあ、なんだ」
話を聞こうとしたが、男はだんまりを決め込んだ。
面倒なやつだ……
軽傷で済むほどの魔法を男に当てると、男は噛み殺した悲鳴を上げた。
「もう一発、欲しいか?」
男の前に出ると、男は渋々固い口を開けた。
「ドワーフと魔族の子です……」
「は……?」
全く理解が追い付かなかった。
「それは……無理あるだろうお前」
「本当ですよ……事実、俺はすで二百年生きてる。だから、生き残った最後のエルフを見つけに来たですよ」
「いや……話が繋がっていない。そこで、なんで私を攻撃した?」
「たまに魔族側の力が暴発するときがあるんです……だから、あなたを探してどうにか俺を殺してもらおうとしてたんですよ。魔族を演じ切れば、きっと殺してくれると信じて」
男は意気消沈した様子で顔をふさぎ込んだ。
「このドラゴンの虫歯はどこで手に入れた?」
「あれ……あ、すみません。落としたみたいですね」
「どこで、手に入れた?」
「それは、おやじのです。ドラゴンの虫歯と何かがあれば、僕の体を蝕む薬が作れるんですよ。でも、素材を忘れてしまって、探してました」
なるほど……たぶん、残りのものは手に入らないな
「お前の父親。一度私の家に来たことがあるな」
「え」
「お前と同じように、ドラゴンの虫歯を玄関に忘れていったよ」
「そうなんですね……」
となると……この家系は代々、魔族を嫌っていて死にたがりな奴らなのか
「分かった。今日から、私の家で静かに住め」
「え」
「あそこなら、いつでも私がお前の暴走する魔族を殺してやる。恨みは大きいからな」
怒りで震える手を何とか鎮めて、男の体を縛っていた魔法を解いた。
「ただ、嘘だと分かった瞬間、お前は即座に殺す。いいな」
「分かりました。では、掃除やらなんやらは任せてください。めちゃくちゃ綺麗にして見せます」
「長年生きていると、理解が早くて助かるぞ」
そんなこんなで、男が私の家に住むようになった。
あれ……もっと重大な何かを忘れているような……まあ、いいか
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