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シャーロットの仮説  作者: ariya
呪いの本

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26/27

12.


 2週間後にシャーロットはルイスに声をかけた。


「夫人が私に会いたいと言っている。一緒に来るか?」


 少しばかり気になる。ルイスは迷わずに頷いた。


 アシュラム市立病院の一室で夫人は静かに迎え入れた。


「アルバートたちから聞きました」


 けいれんしてから意識がほとんどなかったようだ。その間にシャーロットがどれだけ必死に彼女を救命したか聞かされたようだ。


「助けていただいてありがとうございます」


 夫人は静かに頭を下げた。


「呪いも祈祷も結構だが、できれば次からは病院も必要に応じて考えてほしい」

「考えておきますわ」


 ここ2か月、体がどんどん自由がきかなくなっていたことに不安を覚えていた。ラナからは呪いだと言われて、それに傾倒して彼女の言う通りにしてしまった。

 病院へ行っても意味はないと思っていた。

 夫は助からなかったから。――


 亡きアルテミア子爵は考古学者であった。南大陸から持ち帰った遺跡の研究に没頭して、時には怖い呪いの話をしてアルテミア子爵夫人をおどかせて楽しむ子供っぽい面があった。

 彼が遺跡や、縁のない他国の宗教の話をするときは目をきらきらとさせていた。夫人はそれを見るのが好きであった。


 しかし、夫は死んでしまった。


 せき込むようになってどうしたのだろうかと気になり病院へ行くが風邪だろうと薬も処方されず帰された。

 1週間、2週間しても咳はなくなるどころか酷くなっていく一方である。

 これはおかしいともう一度病院へ連れていくと酷い肺炎になっていたためそのまま入院となった。そして数日後に急変して亡くなってしまった。


 周りから言われた言葉にアルテミア子爵夫人は頭を悩ませた。


「アルテミア子爵は南大陸の王の宝に触れて呪われたのだ」


 他人の声を耳にして、その時すとんと胸に入っていくのを感じた。


(そうか。呪いか)


 では、その呪いは一体何なのだろう。気になった夫人は仕事の合間に夫が残した資料を漁り、少しずつ呪いについて傾倒していった。ついには祈祷師を呼びこんで、呪いについてどんどん興味を持ち始めて気づけば呪いの道具を買い占めるまでに至った。


 しかし、どれも夫人の命を奪う効果はない。


 その時にラナが教えてくれた。死の緑の本。触れたものを取り殺すと呼ばれる美しい緑の本の存在を。

 変人、狂人と呼ばれる何代か前のクレト伯爵家の所蔵物であり、そのうちオークションに出されるだろう。


 毎年クレト伯爵家のオークションに参加してついに目当てのものを手に入れた。ラナの言う通り見る者を魅了する美しい緑の本であった。


(ああ、これだ。これなら私を殺してくれる)


 夫人の願いは夫と同じ呪いで命を落とすことであった。そうすれば、夫と同じ場所へ行ける。

 誰かから聞いた訳ではない。ただそう思いたかった。


 しかし、呪いは急には命を奪ってくれない。じわじわと夫人の体の自由を奪っていく。言葉を奪い、夫人の体をじわじわと蝕んでいった。内心恐怖を覚えながらもラナの言葉をよりどころに最期を迎える日を心待ちにしていた。

 そして訪問してきたのはシャーロット・ベルエイデン。

 東大陸の人間の特徴を持つ、美しい令嬢であった。


 ほんの一瞬だけ昔を思い出した。

 まだ夫人が社交界へ参加していたとき、出会った美しい極東の宝石のような女性。ベルエイデン伯爵夫人によく似ていた。――


 呪いで死ぬつもりだったのに、呪いではないと言い始めた彼女に強い反発心を持ってしまった。

 しかし、彼女の声は妙に心地よくてもう少し聞いていたいと思う自分がいた。


 そう思っているうちに生きながらえてしまった。

 彼女の言う通り呪いではなくて自分は病気だったのだ。


 自由のきかない体は嘘のように動き、言葉も発せられるようになった。幸い大きな後遺症は残らずに済んだようだ。まだ違和感は残るが生活に支障がない程に回復していくのを感じて安堵を覚えた。


 あれほど死にたいと思っていたというのに。


 体が動く、喋られる。


 これができるだけでこんなに世界は違うのかと感じ、涙がこぼれ落ちた。


 心配するアルバート、オルガに頼みもう一度シャーロットに会おうと思った。


「あなたのお母さまに会ったことがあります」


 アルテミア子爵夫人はシャーロットを見つめた。


「呪いに傾倒して友人を失っていた私に彼女は言っていました。それだけ夫のことを愛しているのねと」


 彼女自身も呪いに興味を持っていた様子で、極東の島国で伝わる呪いの話を教えてくれた。さすがに陽和国の呪いの道具を手に入れるのは難しかった。


「私の呪いの話を否定せずに聞いてくれました。あなたは呪いを信じていないようだけど」

「別に呪いを信じていない訳ではないぞ」


 思ってもいない言葉にルイスは目を丸めた。今までの話の流れからシャーロットは法医学者、医者、科学者の立場であり呪いなど信じていないように感じられた。過激な自然派を面倒だとも言っていたし。


「私だって呪いは信じるし、幽霊だって怖い」


 シャーロットはふんと話をつづけた。


「だが、病気の可能性が高いのであればそちらをとる。医学的に説明がつくのであれば治療を勧める。治療をして解決できる問題なのだから」


 論理に思わず夫人は笑ってしまった。


「それで私にあれだけ治療をすすめたのね。彼女……祈祷師ラナをおしのけて」

「あれは男だ。骨格や体格が違う。男のくせに女の恰好して夫人の傍に侍って……あの男と話す価値はなかった」


 思わぬ言葉に夫人は目が点になった。ラナが男?と首を傾げた。


「あれは男です。シャーロットさんの言う通り、骨格とか筋肉量とか力加減がとにかく違って」


 シャーロットの言葉を補強するようにルイスが言った。


「あはは……」


 夫人はおおいに笑った。


「ラナがいなくなったから真偽はわからないけど、私の前に現れないということはそうだったのかもしれないわね」


 騙されていたのだと言われても嫌な気分はせず、彼女はすんなりと受け入れた。

 緑の呪いの本もなくなってしまい、おそらくあのどさくさの中でラナが盗んでしまったのだろう。

 一応警察に届け出したものの、ラナ・モリガンが偽名であり仮初の姿であれば捕まえることは厳しいだろう。


「何故ラナは呪いの本なんかを奪ったのだろう」


 ルイスは疑問に感じていた。


「さぁ、あの男の考えることなどわからない」


 シャーロットはラナの話はしたくないとそれ以上は応えなかった。

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