プロローグ
首都アシュラムで美しい星空が見えなくなったことは久しい。
産業革命が進んでいく中、各地で工場が作られ、蒸気機関車が走り煙が吹き荒れる。
今は雨の季節の訪れを感じさせる曇り空であり、夜の訪れとともに暗く沈んでいった。
アシュラム市の繁華街、街灯であたりを照らしているがそれでも物足りなさは感じられる。
人々は足はやと目的の場所へと向かう。
ある者は本日行われる演劇へと、ある者はパーティーへと、ある者は趣向の変わった催しへ向かった。
グレル出版社編集社員のルイス・パンドディアはある一角の建物へと訪れた。
この建物のホールにてオークションが開かれる。
参加者たちは身元がわからないように変装したり、仮面をつける者おり、何かのお祭りではと錯覚しそうになった。
ルイスは所在なさ気に隣に座る連れの方をみる。
連れはお目当ての品を待ち侘びて番号札をぎゅっと握っていた。
「あらあら、可愛らしい」
遠くから聞こえるマダムの声にルイスはため息をついた。
彼女たちが言っているのはルイスの連れのことだろう。
青のポプリン生地のドレスにフリルのエプロン、正体を隠すように猫の仮面で目の部分を隠していた。
シャーロット・ベルエイデン。
法医学の権威、ベルエイデン伯爵のご令嬢にして彼女自身も法医学医である。
着ている童話ヒロインをモチーフにしたドレスも相まって27歳には見えない。
どう見ても、どこぞの令嬢が夜のオークションに参加したかのように見える。いや、一応伯爵家令嬢なのだが。
もし彼女に何かあればきっとベルエイデン伯爵から恐ろしい目に遭わされることだろう。
ルイスはシャーロットに言われるまま紳士服を着てうさぎの仮面をつけていた。
紳士服は父が着ていたものを急ぎ着たものだ。少しばかり胸元がきつい。
仮面は連れが準備したものだ。
周りはルイスのような長身筋肉質の男を見て護衛と思うだろう。確かにそんな感じである。
なぜ2人がここに来たかというと。話は数時間前に遡る。――




