第45話 逃げ出そうとすると、爆発して首が吹き飛びます
完結まで書き終わりましたので、第二部の連載を開始しました!
毎週土日に章ごとに更新をしていく予定でおります。
お楽しみいただけると嬉しいです。
チェリエがリリーの体に入れられ、牢屋に閉じ込められて半日も経たない頃、チェリエの元を尋ねてくる者があった。
「……リリー。逃げるのは諦めたんですか?」
「……祭祀長様……」
牢屋に入れられたチェリエの前に現れたのは、花継ぎ教会の最高責任者である祭祀長その人だった。
「これまで大人しく花継ぎの役目を務め上げてきたのに、どうしてこのタイミングで騒ぎを起こすんですか? もうすぐお役目を終えられるというこの時期に」
嘆かわしい、とばかりに嘆息する祭祀長。
けれど、原作ゲームの知識を持つチェリエは知っていた。
彼こそが、この世界において花継ぎの乙女の真実を知り、花継ぎの乙女を人柱にしようとしているその人であるということを。
(……生贄にされるとわかっていて、じっとしているわけがないじゃない)
チェリエは内心でそう毒づくが、口には出さない。
花継ぎの乙女自身が生贄のことを知っているとわかったら、祭祀長が今度は何をしてくるかわからないからだ。
(……入れ替わりの話を正直にすべきかしら)
チェリエは迷っていた。
自分とリリーの魂が入れ替えられたことをこの祭祀長に正直に話して、助けてもらえるだろうか? と。
①「何を馬鹿なことを」と嘲笑されて終わる。
② 逃げるための嘘だと思われる。
③ 信じてくれたとして、魂と肉体どちらに人柱としての役割があるかわからないからと、最悪二人ともに人柱にされる。
(……ダメだわ。いずれにしても、わたくしに対して便宜を図るより、祭祀長としての務めに執着している彼ではきっと話にならない)
どの結果になっても積んでしまう――。
というか、そもそもこの祭祀長をチェリエは芯から信用できないのだ。
大体にして、誠実な人間が人を騙して陥れて、人柱などにするだろうか?
考えを巡らせた結果、チェリエの中で彼に正直に事情を話して助けてもらうプランは却下された。
(……誰か、信用のできる人とコンタクトをとらないと)
そう思ったチェリエは、ひとまずリリーになりすまし、改心したふりをして隙を窺う作戦が一番適切だと判じた。
自分にリリーの真似ができるかなど微塵も自信はなかったが、ダメで元々、やってみる以外に選択肢はない。
そう思ったチェリエは、脳内の記憶にある限りのぶりっ子なリリーの様子を再現し、胸元に手を当ててきゅるるんと甘えるような様子を作ってみせる。
「……申し訳ありませんでした。最近、花継ぎの務めも、花籠の騎士たちとの交流もうまくいかず焦ってしまっていたのです」
しおらしい様子を見せて素直に自分の非を認めたチェリエに、祭祀長は「……ふむ」と言って考えるそぶりを見せる。
(――どうにか、誤魔化せてはいるみたいだわ)
態度には出さずに内心で息を吐きながら、チェリエは言葉を続ける。
「これからはもう、逃げ出そうなんてしません。花継ぎの務めもまじめにします。ですから今回は、どうかお許しいただけないでしょうか」
精一杯、改心したという思いを込めて祭祀長に願い出る。
すると驚いたことに、体のスペックが違うせいか、いつもは固くて動かせない自分の表情が、やすやすと動かせているような気がした。
(……もしかして今まで、わたくしの表情が固かったのって、顔筋トレーニングを怠っていたからかしら?)
確かに、くるくるとよく動くリリーの顔と比較するとチェリエは常に動じずのスタンスできたので、表情筋というものをあまり動かしたことがなかった。
こんな危機迫った状況で、チェリエがまったく見当違いな顔筋力の有無の偉大さに感銘を受けていると、牢屋越しで考えるそぶりを見せていた祭祀長が、
「……よいでしょう」
と言って、ゆっくりと頷いてみせた。
「それほどまでに言うのでしたら、もう一度貴女を信じてみましょう」
「……本当ですか……!?」
「ええ、しかし、もちろんこちらも保険はかけさせていただきますが」
そう言うと祭祀長は、そばに控えていた兵士たちにすっと片手をあげて、牢屋の鍵を開けさせる。
(え……、あまりにも上手くいきすぎなんじゃ……? しかも保険って)
チェリエが訝しみながらその様子を見ていると、中に入ってきた兵士たちはチェリエを取り押さえると、そのままチェリエの首に白いチョーカーのようなものをつけてきた。
(この香り……、スノードロップ?)
「それは、本来は罪人につける逃走防止用の首輪です。その首輪を無理に外そうとしたり、もしくは首輪をつけたまま我々の管理下から逃げ出した場合、爆発して貴女の首を吹き飛ばします」
え――――?
なにそれ。
どこかのアニメで見たような設定じゃない?
とチェリエが突っ込めなかったのは、残念ながら彼女の前世の槙田ちえりには、アニメを見る余裕などなかったからである。




