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第16話 まるでチェリエみたいじゃないか



「チェリエ、奉花ほうかを直しに行くの? ついていっていい?」


 放課後。

 リリーが下校したのを確認したチェリエが奉花台に行こうとすると、リュートがチェリエについていくと言い出した。

 チェリエとしては、彼に隠し事するようなことはないし、なによりリュートはもうチェリエがこっそり奉花の修正をしているのを知っているのだ。


 であればむしろ、チェリエにとってもリュートがついてきてくれることは安心できてありがたいことだった。



 ◇◆◇



「う〜〜〜ん……、なんというか、これは……」


 リリーが作った奉花を見たリュートは、開口一番微妙な声を上げる。

 それもそのはずで、目の前に飾られた奉花は、季節感もなく方向性もバランスもばらばらで、作り手のやる気というものが全く感じられない。

 一番良くないのは、わからなかったり苦手であったりする中にも、誠意が込められていればまだいいのだが、それさえも全くないのだ。


 ――ただブッ刺せばいいだろう。やっつけ仕事でちゃちゃっとやろう。


 そんな作り手の声が聞こえてくるような出来栄えに、思わずリュートは唸り声をあげたのだった。


 ――花へのリスペクトが全くない。


 そんな奉花をじっと見ていたチェリエは、一歩進み出るとリリーが生けた花瓶から一本一本花たちを丁寧に取り出した。


 広げた白い布の上に綺麗に並べて、茎の処理が甘いものは処理し直す。

 花を愛おしみながら生けなおすその姿は、名ばかりの花継ぎの乙女のリリーよりも、よほど似つかわしい手つきだった。


「……アネモネを使うの?」

「はい」


 サリュートの言葉に、チェリエはこくりと頷く。

 花の力を活かすにあたって、旬の花を使うのがまず第一なのだ。

 この世界は花をテーマにしているだけあって温室栽培も盛んで、年中様々な花と触れることができるが、基本花は旬の時期に一番能力を発揮する。


 ちょうどアネモネは今まさに花を開き始める時期で、旬の花と言える。

 なおかつ、その中でも白いアネモネとピンクのアネモネをベースにしたのは、この花の花言葉が『希望』だからだ。


 原作ゲームでは、その時の民衆が求めている言葉に合わせて花を選んで飾るという定期的なイベントがあり、その都度、民衆が何を求めているのかをリサーチしなければいけなかった。


 さすがに今のチェリエに街に降りて一人一人の要望をリサーチすることはできなかったが、大体の世の傾向は調べようと思えば調べられる。


 そうして、チェリエは独自に時勢を見て、その時々にあった奉花に整え直していたのだ。


 サリュートはチェリエのすぐそばで彼女の作業を見つめていると、ふと、彼女が手先を中心に淡い燐光を放っているのを見てとった。

 よく見ると、彼女を中心に床も円状に波打つように輝きを放っている。


(これは……)


 サリュートは、嫌な予感がした。

 いや、この場をとりまく空気自体はまったく嫌なものではない。

 むしろ、暖かくて優しくて、いるだけで心が癒されるようでさえある。

 しかし――。


 胸中のざわめきに促されるまま、サリュートはチェリエの手首を掴んで、その作業を止めた。


「……リュート様?」


 チェリエが、キョトンとした顔でこちらを見上げてくる。


「……いや」


(気のせい、気のせいなはずだ……)


 間違いなく、今の【花継ぎの乙女】はリリーである。

 そのことについては、サリュート自身も自らの目できちんと確認している。

 しかし――。


 先ほど彼女が放った燐光を、どうしても偶然やまぐれだとは考えられないサリュートは、不安な気持ちを押し隠しながら「……邪魔をしてごめんね」と短く謝りながら手を離した。


 そんなサリュートに対してチェリエは「……大丈夫ですか?」「何か、気分が悪くなったりしましたか?」と甲斐甲斐しく尋ねて心配してくれたが、サリュートが大丈夫だと頑なに答えると、今はこれ以上聞いても答えてもらえないと思ったのか再び作業に戻っていった。



「……見事だね」


 チェリエの手で蘇った奉花を見ながら、サリュートが感嘆する。

 先ほどまでの哀れな惨状だった奉花台は、チェリエによって見違えるほどに整えられていた。


「チェリエって、どちらかというと可愛らしい装飾が好きだよね」


 白やピンク、黄色といった淡い花を基調に彩られた奉花たちは、慎ましやかに、しかし可愛らしく命を謳歌しているように見える。

 それまで、チェリエは自分の奉花の傾向などあまり気にしたことがなかったが、サリュートからそう言われて初めて自分がどちらかというと可愛らしいアレンジメントが好きなのだということに気づいた。


 そして――、悪役令嬢であり、デルトムントの筆頭令嬢でもある自分が柄にもなく少女趣味のように思われたのではないかと思い、妙に恥ずかしくなった。


「……す、すみません。少し、子供っぽかったですよね……」

「え? そんなことないよ? どうしてそんなこと言うの?」


 チェリエが居た堪れなくなってそう言うと、サリュートはキョトンとした顔で小首を傾げる。


「優しい色合いとか、温かみのある色合いとか、可愛らしい感じとか。まるでチェリエみたいじゃないか」


 そう言って、チェリエが飾った奉花の一つにそっと手を添えると、愛おしそうに微笑む。

 チェリエはそれで、なんだか自分が許されたような気持ちになって、胸の内にじわりと温かいものが広がっていくのを感じたのだった。



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