第15話 おめでとう。君はめでたく、ゴミ第一号に認定された
「僕は、サリュート殿下の命を受けて、彼女がこの学園でつつがなく過ごせるように守ってるんだ。彼女を害するゴミが誰で、どんな人間かを見極めて、サリュート殿下に報告するためにね」
「え……」
悠然と告げるリュートの言葉に、リリーはぴたりと動きを止めた。
チェリエを害する人間が誰かを見極め、サリュート殿下に報告する――?
「え、と、それって……」
「おめでとう。君はめでたく、ゴミ第一号に認定されたよ。このことはしっかりと殿下にも伝えさせてもらうから、君は安心して花継ぎの乙女の使命を全うするといい」
というか、そもそもリュート自身がサリュートなので、報告も何もないのだが。
とはいえ、ここにいる人間でそれを知っているのはチェリエだけなので、周囲にいる人々はリュートの役割を知ってざわめきを起こしている。
(……びっくりした。てっきり、ここで正体を明かすのかと思ったわ……)
リュートがリリーに『教えてあげるよ』と言った瞬間。
チェリエはてっきり、リュートがリリーに『自分がサリュートだ』と明かすのかと思った。
そうすることで、彼女の鼻を明かしてやろうとするのかと思ったチェリエは、結果リュートが正体を明かさないままリリーをギャフンと言わせたことにひどく感心した。
(確かに。リュート・スタンレイはトリギアからの留学生設定だから、サリュート様と繋がっていると言っても無理はないわ)
変装したままの姿で、悠然と微笑むサリュートをチェリエは感心して見つめる。
すると、チェリエの視線に気づいたリュートがこちらを見返すと、チェリエを安心させるようににこりと笑ってみせた。
「ち……、ちょっと待ってよ……。あなたがサリュート様と繋がっているって話は本当なの……、いえ、本当なんですか?」
「疑うのならご自由にどうぞ?」
「だ……、だったら、証拠を見せてくださいっ。あなたがサリュート様と繋がっているという証拠を」
「なんで僕が、君のためにそんなことをしなきゃいけないんですか? 僕にとっては何のメリットもないのに」
「…………」
そうこうしているうちに授業が始まる予鈴のベルが鳴り始める。
それはそうだ。
そもそも休み時間は10分程度しかないのだ。
教室の行き来も含めて、そうそう長く話をできるわけもない。
「ほら。授業が始まりますし、君も自分の教室に戻った方がいいんじゃないですか?」
するとリリーも躊躇うような様子を見せながらも、授業に出ないわけにはいかないと思ったのか、「ま……、また来ます。また来ますからっ……!」と言って、悔しそうな顔を見せながら自分の教室へと戻っていった。
「……リュート様、よかったのですか?」
「なにが?」
チェリエが心配になって尋ねると、リュートはけろりとした様子で答える。
「その……、彼女は仮にも花継ぎの乙女ですし、あまり関係を悪くするのは後々に良くないのでは……」
「チェリエ」
花継ぎの乙女の庇護対象国にはトリギアも入っている。
今後のことを考えると、彼女との関係は良好に保っておいた方がよいのではという気持ちから、チェリエはそう口にしたのだったが。
「僕が知らないと思ってるの?」
彼はリュートとしての芝居ではなく、サリュートとしての口調でチェリエの耳元で囁く。
「え……?」
「君が、あのゴミのやったカスみたいな仕事の後始末をしてること。彼女のやっためちゃくちゃな奉花のフォローをしていること。君だって本当はわかってるんだろう? 彼女が、花継ぎの乙女としての仕事なんて、まともにやっていないことを」
その言葉に、チェリエはサリュートには自分がこっそり裏でフォローしていたことを知られていたのかと思って目を見開いた。
実際には、完全に自発的にというよりは、花継ぎ教会の方から裏で頼まれていたのだ。
――此度の花継ぎの乙女は多少未熟な面が見受けられるため、できればマーキュリー嬢のほうでもさりげなくフォローしてやってほしい――と。
それゆえに、チェリエも気の進まない忠告をしつづけたり、当人からしたら感じが悪いと思われるだろうなあと思いながら裏でこっそりフォローし続けてきたのだ。
「……チェリエはちょっと、お人好しがすぎるよ」
そう言って微笑むサリュートは、チェリエを責めているわけではないようだった。
ふっ、とチェリエの頬の辺りを軽く摘むと、その後教師が入ってきたことで意識を前方に向け直した。
チェリエは――、サリュートにつままれた頬を彼には気付かれないようそっと抑えながら、じんじんと残る彼の触れた後が早くおさまるよう、気を落ち着けなければならなかった。
◇◆◇
――それから。
その後、リリーは休み時間になるたびにリュートを訪ねて教室にやってきたが、驚くべきことに彼女の入室を防いだのはチェリエでもリュートでもなく、彼らのクラスメイトたちだった。
彼らは――すでにうっすらと察していた。
(いや、これ。変装してるけど多分殿下本人でしょ)
(だっておかしいわよね!? 普通、ただの守護役としてつけられた人間があんな甘々な空気醸し出す!?)
確証を得たわけではない。
しかし、半々の確率でリュート・スタンレイがサリュート本人である可能性を懸念し始めたクラスメイトは、リリーよりもリュートを擁護することの方を選択した。
なにより――、リュートがいることで、今までに見たことのないいじらしい姿を、チェリエ・マーキュリーが見せているのだ。
(え……なにあれ。リュート様の前でだけ乙女の顔見せるチェリエ様、てぇてぇ……)
(しかもなんかちょっと不器用なせいでストレートに喜び表現できてないの眩しすぎでは……!?)
生ぬるく、しかし確実にいちゃいちゃとした空気を出しそうで出さない。
周囲にいたクラスメイトのほとんどの人間が思った――。
お前ら、早くくっつけよ、と。
リュート・スタンレイという人物がチェリエに堂々と近づいたことで、チェリエに対する周囲の評価は激変した。
それまで、鉄壁で氷の完璧令嬢だと思っていた令嬢が、ただの可愛いぶきっちょ令嬢だということに気付いたのだ。




