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【完結】恋愛トラウマ持ち令嬢は逆境に負けない 〜婚約者を正ヒロインに奪われましたが、隠し攻略対象に愛されながら真エンドで世界を救います〜  作者: 遠 都衣
第三部 ゲームの終焉編

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番外編 トリギアでご両親にご挨拶します



 チェリエはサリュートとトリギアに辿り着くと、そのままサリュートの第一王子宮で暮らすこととなった。


 卒業プロムでのプロポーズで晴れて恋人 兼 婚約者という立場を得たサリュートが、チェリエのトリギア入りに伴い、念願の同棲を諦めるはずもなく。


 てっきり『正式に婚姻を結ぶまでは別々に暮らすのだろうな』と思っていたチェリエは、トリギアに向かう途中の馬車の中で「トリギアのチェリエの部屋は、僕のところでいいよね」という言葉に「へ?」と虚を突かれたのだった。


「あの……。一応婚姻前ですし、住む場所は別々にした方が体裁としてもよいのでは……?」

「大丈夫大丈夫。トリギアはデルトムントと違ってそういうところに寛容だし。むしろ婚姻前からそうやって丁重に扱った方が『大事にしてるんだ』ってアピールになるよ」

「はあ……」


(……そういうものなのかしら……?)


 国が違えば風習も違うとは言うが、あまりのしきたりの違いにチェリエがぽかんとしていると、それを困惑と取ったサリュートが、


「…………もしかしてチェリエは、僕と一緒に住むのが嫌だったりする?」


 と、ひどく不安げな様子で、小首を傾げながらうかがうような顔で尋ねてくる。


 チェリエはこういう、サリュートの悲しげな表情を見ると途端に『NO』と言えなくなる。


「あの、嫌というわけではなくて。ただ、本当にいいのかな、って心配になっただけで……」

「だったら大丈夫。うちの家族もみんな、チェリエが来てくれることを楽しみにしてるし。むしろ張り切って準備してくれてるくらいだよ」

「なら、いいんですけど……」


 こうしてチェリエから言質げんちを取ったサリュートは途端にご機嫌な顔になり、甘えるようにチェリエに指を絡ませ、ぴとりとくっついてくる。


 ――サリュートが、龍斗であったことを隠さなくなったころからだろうか?


 この男は、包容力のある爽やか青年の顔と甘えん坊の弟キャラの顔を実に巧みに使い分け、時にチェリエをときめかせ、時に母性をくすぐるという高度なテクニックを駆使くしするようになったのだった。




 ◇◆◇




 そうして――。

 


「いやあ! よく来た! 本当によく来てくれた!!」

「ねえあなた! とっっっっても可愛い子じゃないの!」


 トリギア国王と王妃との正式な面会と挨拶が終わった後。

 彼らの私室に招かれたチェリエは、国王夫妻からの盛大な歓待を受けていた。


『ようこそ! トリギアへ!』

『うちの()()()()をよろしくね!』


 国王と王妃それぞれにそう書かれた両手持ちタイプの旗を手に、両サイドにいる使用人たちはなぜかクラッカーを鳴らして花びらを撒いている。


(さ……、サッくん……?)


「こんなに可愛い子なら、孫も絶対可愛いに違いないわ……!」

「おお、孫! うっ……、今から楽しみで仕方がなくなるではないか……!」

「やだなあ二人とも。気が早すぎますよ」


 やいのやいのとはしゃぐ国王夫妻に先ほどの謁見の間での威厳は微塵みじんもない。

 ただの明るいはっちゃけ夫婦の姿を呆気に取られながら見つめていたチェリエだったが、そうこうしているうちにサリュートに肩を抱き寄せられ、そんなサリュートがニコニコと両親に向かって告げる。


「父上、母上。もちろん子供も大事なことですが、僕はまだチェリエと思う存分いちゃいちゃしたいので。そのところよろしくお願いします」

「えっ」

「まあ……! そうよねえ、それはそうよ、あなた。わたくしたちったらだめね、気が利かなくて……」

「そうだよなあ、いちゃいちゃしたいよなあ」


(……………………なんだろう、すごい)


 パワフルな婚約者とその両親の会話に、まともに口をはさむ暇すらない。


(……………………でも)


 龍斗の――サリュートの今生の両親は、どうやらとてもサリュートを愛してくれているらしい。


 和気藹々(わきあいあい)と賑やかしい会話を交わしている親子を見て、チェリエはなんだか急に胸の内が熱くなった。


 ――りゅうくんが。

 ――前世で、あんなに辛い思いをしてきたりゅうくんが。

 ――今世では、こんなに愛されていてよかった――。


 そう思ったら、胸の内から湧き上がってくる熱いものが止められなくて、思わずポロポロとこぼれ落ちた。


「えっ? チェリエ…………?」

「あらあらまあまあ、どうしたの?」


 チェリエの涙に気づいたサリュートと王妃が、それぞれに心配してチェリエに寄って来る。


「いえ………………」


 泣き顔が見えないよう、下を向いて必死にこぼれる涙を拭っても、次から次へとあふれて来る。

 

(……ダメじゃない、わたくし。せっかくご家族に紹介してもらった場でこんな……)


 心の中で猛烈に反省をし、自らを叱咤しったしたチェリエは、大きく息を吸ってこの場を納めるためになんとか気を取り戻す。


「……すみません。サリュート様が、ご家族にとても愛されていたんだなあと思ったら、なんだか嬉しくて気持ちがあふれてしまって……」

「チェリエ……」

「これからは……、わたくしも、もっともっと、サリュート様をしあわせにできるよう精一杯頑張りますね」


 そう、心を込めて彼の両親に伝えた。

 気は取り直しても。いまだおさまらぬ涙をぽたぽたと床に落としながら。

 これまで彼を慈しんで育ててくれた二人に、深い感謝の気持ちを抱きながら。


 チェリエのその言葉で、サリュートは彼女をぎゅっと抱きしめ、サリュートの母はチェリエの手を温かく握ってくれた。

 ふと視線を移すと、サリュートの父である国王陛下も、もらい泣きしたのかそっと片方の瞳を手で押さえている。


 それだけで、チェリエはこの国でまた、一から頑張れる気がした。




 ◇◆◇




(あああああ……! は……、恥ずかしい……! 穴があったら入りたいわ……)


 まさかの婚約者の両親との初顔合わせで号泣し、みっともない姿を見せることとなってしまったチェリエは、猛烈に反省しながらサリュートと共に第一皇子宮へと歩いていた。


「大丈夫だってチェリエ。うちの両親も言ってたでしょ? 『優しくていいお嫁さんをもらったわね』って」

「そ、そうかもしれませんけど……」


(……まだ婚約者で、お嫁さんではないのですけど……!)


 心の中でそうツッコむくらいにはチェリエの心はまだ吹き荒れていたが、それを口に出すことはなかった。

 それが野暮だということはチェリエにもわかる。

 それに、チェリエ自身、ここまできてお嫁さんにならないで帰るつもりなど毛頭ないのだ。


「……さ、着いたよ」


 いまだ涙の痕跡の残る鼻をハンカチで押さえながら歩いていたチェリエは、サリュートのその言葉に顔を上げる。

 そうして――、開かれたドアの先にあるその部屋を見た。


 明るくて解放感のあるリビング。

 落ち着いたクリーム色の壁紙。

 白い窓枠には淡いグリーンのカーテンがかけられている。

 ソファに挟まれたローテーブルの上には、白いトルコキキョウが清楚に揺れていた。


「どう? 気に入った?」


 チェリエの好みに合うように装飾してもらったけど、気になるところがあれば好きにしていいからね――と言われたチェリエは、外から吹き込んできた爽やかな風に頬をくすぐられ、湿っていた頬も一気に乾いた気持ちになる。


「……これは、サリュート様が?」

「うん。そうだよ」

「………………」


 言葉にすると、なんだかうまく伝えられない気がした。

 だからチェリエは、すぐ隣にいたサリュートの袖を掴み、黙ってそっと身を寄せた。


 ――それだけで、自分がこの部屋を気に入ったことが伝わるように。


 そうしてそれは、どうやら成功したらしい。


「……よかった。寝室はあっちだよ」


 どこかほっとした様子でチェリエに微笑んだサリュートは、そのまま自分を掴んでいたチェリエの手を取り、指を絡めて部屋の中を進んでいく。


「…………あの、サリュート様」

「? うん?」

「ベッドは……、ひとつだけですか?」

「え? そうだけど」


 あからさまにけろりとした様子でそう答えるサリュートに、チェリエは『これは確信犯だ』と悟った。


「…………わたくしはどこで寝れば」

「もちろんここでだよ」


 だって、昔も一緒に寝てたよね――。


 と小首を傾げるサリュートは、甘えて許しをうモードだ。

 

 ……サリュート様。

 ――確かに。()()()()()、とは言っていましたけど。

 さすがにベッドは別だと思っていました――。


 サリュートの言う『昔』は、かつてちえりと龍斗が一緒に寝ていた時の話であり、しかもその時は祖母も一緒に寝ていたのだ。


 それとこれとでは話が違う!


 チェリエは高速で思考を回転させる。

 ――どう、すべきか。

 このまま流されてもよいものか、一応抵抗を示すべきか。


 しかし、むむむと思い悩んでいたチェリエは、ふと彼の顔を見上げたら、なんだか一瞬でどうでも良くなってしまった。


(――()()()、とっても楽しみにしてたんだろうなあ……)


 そう思うのは、チェリエとしての意識というよりも、ちえりとしての意識だ。

 きっとサリュートは、楽しみにしてたのだろう。

 なんのかんの言いくるめて、またちえりと一緒の布団で毎日眠る日が来ることを。


 そう思ったのならなんだか、彼が望むなら叶えてあげればいいじゃないかという気持ちにさえなる。


「…………もう」


 なんだかおかしくなって笑いながら息を吐くと、とっくに自分よりも背丈が大きくなっている相手だが、無性に頭を撫でてやりたくなった。

 サリュートというのはチェリエにとって、いまやそんな存在だ。


 そうして、その「もう」というため息ひとつで許しを得ることができたと知ったサリュートは、調子に乗ってチェリエの額や頬に口づけを浴びせる。




 ――チェリエはまだ知らない。


 この後、日を追うごとに、『隣で寝るだけだから』から『手を繋いで寝てもいい?』になり、寝る前のキスが深い口づけに変わり、やがてその不埒な手が夜着の中まで潜んでくるようになることを。


 そうして、散々焦らされ、あえがされた挙句、「もう無理っ……」という一言を言わされたことで、すべてをサリュートに捧げることになることを。


 しかし、それはまた、別の話なのである。



すみません!

某掲載サイトのランキングが良かったので、

嬉しくなってぱぱっと番外編を書いてしまいました!

せっかくなので投稿します。


トリギアに来てからのチェリエとサリュートの話、

主にひたすらチェリエとサリュートがいちゃいちゃしている話を

書きたいなとずっと思っていたのですが、

(本編が事件ばっかりであんまりいちゃいちゃできなかったので)


サリュートことサッくんは前世で悠長に構えていたら

結局DTのまま生涯を終えたという悲しい過去があるので

『今世では悠長なことはしない!』と決意した結果がこちらになります。


楽しんでいただけましたら幸いです!

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