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プライベートカウンセラー  作者: Ohtori
第9章「一流ホテルのコンシェルジュ・天野紗希(32歳)」
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第2話「優先順位の再構築」

都心のホテルラウンジ。柔らかな照明がテーブルを照らし、控えめなクラシック音楽が流れる。香坂美月は、向かいに座る天野紗希の表情をじっと見つめた。


前回のカウンセリングでは、紗希が「これまで仕事を優先してきた結果、自分の人生が後回しになっていた」ことを自覚した。今回は、その気づきをもとに、具体的な優先順位の整理を進める時間になる。


「こんにちは、紗希さん。前回、『これからの人生で優先したいこと』をリストアップしてみるという課題をお出ししましたね。考えてみて、どのようなことが浮かびましたか?」


美月が穏やかに問いかけると、紗希はカバンから小さなノートを取り出した。


「はい。いろいろと考えてみました。」


彼女はページを開きながら、少し照れくさそうに続けた。


「私の人生で大切にしたいことを、三つに絞りました。」


「ぜひ聞かせてください。」


「まず、一つ目は仕事です。これは今までも大切にしてきたことで、今後も変えたくないと思っています。」


美月は頷いた。


「やりがいのある仕事を持っていることは素晴らしいですね。では、二つ目は?」


「プライベートの充実です。今まで、お客様のために時間を使ってきましたが、そろそろ自分のために時間を作ってもいいのかなと思うようになりました。」


「それはとても大切な気づきですね。プライベートの充実というのは、具体的にはどんなことを指しますか?」


「うーん……恋愛や結婚も含まれるとは思います。でも、それだけではなく、趣味を持つことや、仕事以外の人間関係を広げることも大事だなと感じました。」


「なるほど。では、三つ目は?」


紗希は少し息を整えてから、ゆっくりと言葉を選んだ。


「将来のビジョンを持つことです。今までは『目の前の仕事をこなすこと』だけを考えていました。でも、10年後、20年後の自分がどうなっていたいのか、きちんと考えたほうがいいのかなと。」


美月は満足そうに微笑んだ。


「とても良い視点ですね。紗希さんが挙げた三つの優先事項は、どれもバランスが取れていて、無理のない形で人生を充実させるためのものだと思います。」


「そうでしょうか……。」


「ええ。では、次に考えてみましょう。この三つの優先事項を実現するために、今の生活にどんな変化を加えられるか?」


紗希は少し考え込んだ後、静かに口を開いた。


「仕事については、今の環境に満足しています。ただ、勤務時間が不規則なせいで、プライベートの時間がどうしても後回しになってしまうんです。」


「その点について、何か改善できることはありますか?」


「……シフトの調整はある程度できます。今までは無意識に『いつでも対応できるコンシェルジュ』でいなければいけないと思っていました。でも、少しだけでも自分の時間を優先してもいいのかなと。」


「とても良いですね。仕事の充実を維持しながら、プライベートの時間を確保するための第一歩ですね。」


「はい。それに、コンシェルジュとしての経験を活かして、いずれはマネジメントの仕事にも挑戦してみたいと思うようになりました。まだ漠然としていますが……。」


「キャリアの選択肢を広げることも、大切な視点ですね。では、プライベートについてはどうでしょう?」


紗希は少し考えた後、ゆっくりと話し始めた。


「正直、恋愛に対しては長年距離を置いてきたので、どう向き合えばいいのか分かりません。でも、出会いの場がほとんどなかったことも事実です。」


「では、まずは出会いの機会を増やすことが第一歩ですね。どんな方法が考えられますか?」


「うーん……職場は女性が多いですし、仕事関係の人とはあまりそういう関係になりたくないので……。」


「例えば、友人からの紹介や、趣味を通じた出会いなどはどうですか?」


「趣味……。実は、昔ピアノをやっていて、また習いたいなと思っていたんです。そういう習い事の場なら、自然に人と出会えるかもしれませんね。」


美月は頷いた。


「それはとても良いですね。無理なく続けられて、なおかつ自分の楽しみになる。そして、自然な形で新しい出会いも生まれるかもしれません。」


「そうですね。少し前向きに考えてみます。」


「では、次回のカウンセリングまでに、『今の生活にどんな変化を加えられるか』を具体的に実践してみましょう。たとえば、シフトの調整を試みる、新しい趣味を始める準備をする、友人との交流を増やしてみる……などですね。」


紗希は小さく頷いた。


「分かりました。少しずつ、できることからやってみます。」


「楽しみにしています。」


美月は微笑みながら、カップを置いた。


「紗希さんは、これまでずっとお客様のために時間を使ってきました。でも、これからは自分自身のための時間を作ることも大切です。コンシェルジュとしての素晴らしいおもてなしの精神は、そのままに、もっと自分の人生も楽しんでくださいね。」


紗希は、少しだけ表情を和らげながら、深く頷いた。


「ありがとうございます。少し気持ちが楽になりました。」


こうして、紗希は「仕事とプライベートのバランスを見直す」という新たな課題を持ち、次のステップへと進むことになった。

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